翻訳|Siegfried
エッダやサガなどの古北欧伝説と《ニーベルンゲンの歌》に登場する人物。
《ボルスンガ・サガ》ではジークフリート(古北欧語ではシグルズSigurðr,Sigurd)は鍛冶屋に養われていて,あるとき竜を退治して宝物を手に入れる。旅の途上彼は,甲冑に身を包んだブリュンヒルトBrynhild(ブルンヒルデBrunhilde)を救い出し,彼女に結婚を約束する。ところが,ライン河畔のギューキ王の宮廷で忘れ薬を飲まされ,王女グズルーンGuðrún(クードルーン)と結婚する。裏切られた思いにかられたブリュンヒルトはジークフリート殺害を企て,ここから悲劇が始まる。
《ニーベルンゲンの歌》では,ジークフリートはあるときニーベルンゲン族を倒して莫大な宝の所有者となり,宝番のアルプリヒからは〈隠れ蓑〉を奪ったこと,さらに彼がかつて竜を退治した際にその返り血を浴びて全身が角質となり,不死身となったことなどが語られる。実は彼の背中には一枚の木の葉のために血を浴びなかった所があり,そこが弱点となって後にブルグント王グンテルGuntherの重臣ハーゲンHagenに刺し殺されることになる。隠れ蓑はグンテルのブリュンヒルト求婚の際に役に立ち,ニーベルンゲン族の宝は争いのもととなる。ジークフリートの超人的特質はザクセン遠征にもよく示されている。
北方伝説ではジークフリートの祖先は北欧神話の主神オーディンとなっており,彼を神話的存在と見ることもできるが,《ニーベルンゲンの歌》ではジークフリートはゲルマンの英雄主義的な力の象徴であり,同時にその英雄主義は悲劇の根源であった。
執筆者:古賀 允洋
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ゲルマン民族の英雄伝説に現れる優れた英雄。ジークフリート伝説には二つの流れがあって、一つは北欧伝説の主神オーディンによって寵愛(ちょうあい)されたウォルスングの家系に連なるジークルトにまつわるものであり、アイスランドの叙事詩『エッダ』に登場する。もう一つは古くからドイツ一円に存在する断片的な英雄譚(たん)であり、それらがほぼ一つになって生まれたのが、『ニーベルンゲンの歌』の第1部に登場するジークフリートである。そして彼はやがてワーグナーの楽劇『ニーベルングの指環(ゆびわ)』(1853~70)の第3部、第4部の主人公となる。『ニーベルンゲンの歌』は13世紀初めごろの作品であるが、ここに登場するジークフリートはライン川下流ネーデルラントの王子。アルブリーヒという小人から「隠れ蓑(みの)」Tarnkappeを奪い12人力を得て、悪竜を退治し、全身にその血を浴びて皮膚が角質化し、不死身の勇士となった。しかしこのときたまたま背中に菩提樹(ぼだいじゅ)の葉が1枚落ちてきてとどまり、そのためにそこだけが致命的な弱点となる。やがて義兄の臣ハーゲンによって、泉に身をかがめたときにそこを刺されて死ぬ。ジークフリートがドイツ国民の英雄的存在となっていることは、第二次世界大戦を前にして、フランスの「マジノ線」に対して築いた要塞(ようさい)線を「ジークフリート線」と名づけたことからもわかる。劇作としてはジロドゥーの『ジークフリート』(1928)がある。
[船戸英夫]
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…1854)では,ラインの黄金に呪いがかかる次第が物語られ,第1夜《ワルキューレDie Walküre》(3幕。1856)ではいくさ乙女ワルキューレの一人であるブリュンヒルトが,彼女の父大神ウォータンの命に背いたので,岩の上に眠らされている次第を,第2夜《ジークフリートSiegfried》(3幕。1871)では若き英雄ジークフリートが,大蛇を退治し,ブリュンヒルトを目ざめさせる次第を,第3夜《神々のたそがれGötterdämmerung》(3幕。…
…鹿はそのしなやかで美しい姿態,優美な動きと機敏さ,美しい目などからして,古くから神の使いとされ,またさっそうとした若武者にたとえられた。〈エッダ〉では英雄シグルズ(ドイツではジークフリート)が〈獣の間にすらりとした鹿が立ったよう〉と表現されている。 鹿はまた民間の信仰や習俗,歌や民芸でも重要な役割を果たしている。…
…神々の食物アンブロシアや神酒ネクタルも不死にする力をもつことで知られる。ゲルマン神話では,ジークフリートは退治した竜の血を浴びることで不死者となる(ただし,アキレウス同様,彼にも唯一の弱点があり,ために落命する)。錬金術の分野では,エリクシル(エリキサー)が不老不死の霊薬と考えられるようになった中世後期以降,これを手に入れて400年生きたと伝えられるサン・ジェルマン伯らの怪人物が現れている。…
※「ジークフリート」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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