日本大百科全書(ニッポニカ) 「ノードハウス」の意味・わかりやすい解説
ノードハウス
のーどはうす
William Dawbney Nordhaus
(1941― )
アメリカの経済学者。エール大学教授。温暖化対策としての炭素税を提唱した環境経済学の第一人者として知られる。「長期的なマクロ経済の分析に気候変動の要素を組み入れた」功績で、2018年のノーベル経済学賞を受賞した。ニューヨーク大学教授のポール・ローマーとの共同受賞である。
アメリカのニューメキシコ州アルバカーキ生まれ。1963年エール大学を卒業、1967年マサチューセッツ工科大学で経済博士号(Ph.D.)を取得。1973年、エール大学教授につき、1970年代から経済学に環境問題を組み込む研究に着手した。それまでの経済学では環境対策の理念や大切さが強調されがちであったが、ノードハウスは温暖化ガス(炭素)の排出削減コストを数値に置き換える「カーボンプライス」という概念を導入し、温暖化などの気候変動が経済成長に与える影響を定量的に分析するモデルを確立。温暖化対策は一時的に成長のブレーキになっても、長期的に成長を促す利点があることを理論的に示した。とくに、炭素排出量に応じて課税する炭素税は、1990年にフィンランドが導入したのを皮切りに、スウェーデン、スイス、フランスなどヨーロッパ各国に広がった。ノードハウスの分析モデルは世界各国の環境政策だけでなく、気候変動対策を話し合う国際交渉などにも活用され、持続可能な経済成長をどう達成するかという21世紀型経済問題への解決の一つの道筋を示した。アメリカのカーター政権下で、1977年から2年間、大統領経済諮問委員会(CEA)委員を務めた。2012年からはボストン連邦準備銀行議長を務め、2014年にはアメリカ経済学会会長にもついた。専門分野は賃金と価格、景気循環論、保健経済学、環境経済学などと幅広く、1948年の初版以来19版を重ねる世界的に著名な教科書『サムエルソン 経済学』(原題:Economics:An Introductory Analysis、都留重人訳、岩波書店)の共著者としても知られる。
[矢野 武 2019年2月18日]