火自体を神格化した神または火を支配する神をいう。記紀神話には,伊弉冉(いざなみ)尊をやけどさせて殺した迦具土(かぐつち)神が火の神として登場する。この神は火産霊(ほむすび)神ともよばれ,雷火の荒々しい側面を表したものといえる。全国的に火の神として有名なのは,京都の愛宕神社と静岡県浜松市春野町の秋葉山神社で,火伏せの神として各地に勧請され,その神札は火難よけに神棚に納めたり家にはったりする(愛宕信仰 →▶秋葉信仰)。しかし火の神として重要なのは,かまどやいろりなどの家の火所にまつられる神で,土地によって名称や神体を異にするが,竈神,土公神,普賢様,火の神などがよく知られている。これらの火の神は火の守護神のほかに,農耕や家族を守護し家の盛衰や生活全般をつかさどる家の神の機能も有している。家の火は煮炊き,照明,暖房など家の日常性を象徴し,その火を更新することは新たな秩序の創出を意味した。したがって,家の神としての火の神は,誕生,入嫁式,分家などの際にも拝まれ,家族として承認したり,分家の際には灰を分けたりした。奄美や沖縄では,石を三つ並べて火の神(ヒヌカン,ウカマガナシなどとよぶ)とし,家だけでなく村の拝所(うがんじよ)などにまつられて村レベルの神となっている例もある。神体は不幸があった場合に新たな石と取り替えられ,また年末には火の神が天に昇り正月に戻ってくるという中国の道教の影響をうけた伝承もみられる。
→火
執筆者:飯島 吉晴
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火を統御し、管理する神。わが国では火は穢(けが)れやすいものと考えられ、祭礼など神聖な火を必要とするときには、改めて新しい火をおこした。しかし、火そのものを崇拝することはなく、火をつかさどる神をその対象とした。火の神としてよく知られている神格は、静岡県の秋葉(あきば)神社と京都府の愛宕(あたご)神社で、勧請(かんじょう)神として各地に祀(まつ)られている。また、火伏(ひぶせ)の神として、御札(おふだ)が民家の神棚や勝手口などに納められていることも多い。こうした神格とは別に、かまどやいろりを対象にした火の神の信仰は、全国的にみられる。火の神を荒神(こうじん)ないしは三宝(さんぼう)荒神とよぶ地域は広く、三把苗(さんばなえ)などと称して田植のときに荒神やオカマサマに三把の苗を供える例も広範囲に分布する。一般的に東日本では火の神としての荒神と田の神としてのオカマサマが併祀(へいし)され、西日本では火の神と田の神の両者が習合したかまどの神を祀るという傾向がある。
穢れやすいとされる火ゆえに、荒神の祟(たた)りを恐れる禁忌も多く、九州地方では現在でも荒神祓(ばら)いといって、盲僧が各戸の竈(かまど)荒神を清めて回る風習がある。なお、カマドという語が本家・分家を意味する土地もあるように、火や火の神がイエの象徴とされて、その永続を願って炉の火を守り続ける風もみられる。火の神の信仰は薩南(さつなん)諸島から沖縄にかけてとくに顕著であり、家々の火の神にとどまらず、3個ほどの自然石を神体とした集落全体で祀る火の神がある。
[佐々木勝]
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…【我部 政男】
【民俗】
沖縄の民俗は地理・歴史的背景が本土とかなり異なるため独特のものがあり,おおざっぱに沖縄島とその周辺,宮古島とその周辺,八重山地区に大別される。全般に仏教の影響が少なく血忌が重視されないことや,清明祭や火の神などに中国的要素が色濃く認められることのほか,琉球王府の政策によって各種の規制が加えられ,その独自性を強めたことも考慮すべきである。一方で,日本の古語,古俗を残すと思われる民俗が見いだされ,沖縄は〈古代日本の鏡〉ともいわれている。…
…若水汲みは〈若水迎え〉ともいわれ,儀礼的な色彩が濃く,若水手拭で鉢巻したり,井戸に餅や洗米を供え,祝いの唱え言をしてくむ土地が多かった。鹿児島県奄美群島には,若水といっしょに小石を3個取ってきて,火の神に供えた村もある。一般に新年の行事を主宰する年男がくむが,西日本には,女性がくむ地方もある。…
※「火の神」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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