日本大百科全書(ニッポニカ) 「ブデンブローク家の人々」の意味・わかりやすい解説
ブデンブローク家の人々
ぶでんぶろーくけのひとびと
Buddenbrooks. Verfall einer Familie
ドイツの作家トーマス・マンの最初の長編小説。1901年刊。この作品を対象に1929年ノーベル文学賞が授与された。物語は、1835年から1877年に至るドイツ資本主義の発展期を時代的背景とし、作者の生地である北ドイツの商業都市リューベックを主舞台として展開する。作者は、マン一族をモデルとするブデンブローク家4代の人物像を中心に、人間の洗練、精神化が生物学的衰弱を招き、そこから内面の空洞化が生じる一種のデカダンス現象を克明に描出する。3代目のトーマスは、若いころこの症候の克服に自信をもっていたが、社会的声望の高まりとは裏腹に進行する内面の空洞化の糊塗(こと)に腐心し、ついにはこの症候を克服する意欲を失う。4代目のハノーは、この症候に対応するのに不可欠な生への意志を欠いた存在で、10代なかばで夭折(ようせつ)、由緒ある一族は副題「ある家族の没落」が示すように「没落」する。この作品が地方的性格を色濃く帯びながらも全ヨーロッパの共感を招いたのは、「精神化」のはらむ諸問題が、ヨーロッパの市民階層に共通する普遍的性格をもつものだったからである。
[森川俊夫]
『森川俊夫訳「ブデンブローク家の人々」(『新潮世界文学 33 トーマス・マンⅠ』所収・1971・新潮社)』