日本大百科全書(ニッポニカ) 「ブーランジェ鉱」の意味・わかりやすい解説
ブーランジェ鉱
ぶーらんじぇこう
boulangerite
鉛(Pb)とアンチモン(Sb)の硫塩鉱物の一つ。本鉱(晶系:斜方(直方)、理想式:Pb5Sb4S11)には直方相と多型関係にある単斜相があり、これら以外に非常に類似した別種ファルクマン鉱falkmanite(晶系:単斜(直方)、化学式Pb5+xSb4-2/3xS11)がある。自形はc軸方向に伸びた長柱状あるいは針~毛状。このようなものが莚(むしろ)状の集合をなすこともある。
接触交代鉱床(スカルン型鉱床)型あるいは深成熱水鉱脈型亜鉛・鉛あるいは銅・亜鉛・鉛鉱床に産する。日本では埼玉県秩父(ちちぶ)市秩父鉱山や大分県豊後大野(ぶんごおおの)市尾平(おびら)鉱山(閉山)のものが有名であるが、顕微鏡的なものは方鉛鉱の包有物として広く産する。共存鉱物は方鉛鉱、閃亜鉛鉱(せんあえんこう)、黄銅鉱、黄鉄鉱、硫砒(りゅうひ)鉄鉱、方解石、菱鉄鉱(りょうてっこう)、石英など。一般にPb-Sb-S系の硫塩鉱物は銀があるとこれを主成分とした別種の硫塩鉱物が生成されるため、本鉱と銀鉱物との直接共存例は少ないとされる。毛鉱はほとんど同じ外観、鉛灰色金属光沢をもつことがあるため、識別は困難である。また前述のファルクマン鉱などは肉眼ではまったく区別できないとされる。命名はフランスの鉱山技師シャルル・ルイ・ブーランジェCharles Louis Boulanger(1810―1849)にちなむ。
[加藤 昭 2018年7月20日]