ドイツの詩人。西プロイセンの小村のプロテスタントの牧師の家に生まれる。大学では神学と哲学とを学ぶが,のちに医学に転じ,両次大戦中に軍医として従軍した時期を除き,ベルリンの下町で皮膚科,性病科の開業医として一生を送る。処女詩集《死体置場Morgue》(1912)で,これまでの詩ではタブーとされた醜悪な死体を冷酷非情に描き,表現主義の代表的詩人としてセンセーショナルに登場して以来,小説集《脳髄》(1916),詩集《肉》(1917),《瓦礫》(1924),《分裂》(1925)などで,一方に合理主義的・機能主義的文明に対する嫌悪,他方に神話的・原始的なものの中での自我の陶酔的消滅へのあこがれを歌う。自然科学用語や外来語のモンタージュによる意想外の観念連合で読者にショックを与える独特の詩境も開く。ワイマール時代のニヒリズムの状況を克服するため,芸術の形式の力をこれに対置しようと多くの評論を書くが,その過程でナチズムに期待をかけた時期があり,これについてはいまだに論議が華々しい。しかしナチスからは逆に弾圧され,ほどなく〈貴族的形式の亡命〉と称して国防軍軍医となり,筆を絶つ。第2次大戦後,《静学的詩集》,評論集《表現の世界》(ともに1949)で新たに注目を集め,詩集《蒸留》(1953),《終曲》(1955)などで言葉の響きによる幻覚と魅惑を確固たる形式に組み入れる〈絶対詩〉を目ざし,ニーチェの後裔,ゲオルゲ,リルケ以後の最大の現代詩人として高い評価を受け,西ドイツ詩壇に多大の影響を与えている。作品にはほかに自伝《二重生活》(1950),エッセー《抒情詩の諸問題》(1951),戯曲《三人の老人》(1949)など。
執筆者:山本 尤
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ドイツの詩人。西プロイセンのマンスフェルトに牧師の子として生まれる。両世界大戦に軍医として従軍の時期を除き、ベルリンの下町で皮膚・性病科医院を開業。処女詩集『死体置場(モルグ)』(1912)で従来の詩の世界ではタブーとされた死体を、皮肉な目で冷酷非情に歌い、表現主義の代表詩人としてセンセーショナルに登場。小説集『医師レンネ』(1916)や詩集『肉』(1917)、『瓦礫(がれき)』(1924)、『分裂』(1925)などでは醜悪な現実と合理主義的機能主義的文明に対する嫌悪を歌う一方、神話的原初的な世界への自己陶酔的な没入を歌う。医学、技術の専門用語、外来語を多用し、意想外な観念連合によるショッキングな効果をねらう独自の詩境を開く。現代のニヒリズムに芸術形式の力を対置しようとし、その過程でナチズムに傾斜する時期があった。短期間ののちに誤りを悟って筆を折り、「貴族的形式の亡命」と称し国防軍に身を投じる。第二次大戦後、『静学的詩集』、評論集『表現の世界』(1949)で新たに注目を集め、詩集『蒸溜(じょうりゅう)』(1953)、『終曲』(1955)などで、ことばの響きによる幻覚と魅惑を確固たる形式に組み込む「絶対詩」を目ざし、ゲオルゲ、リルケ以後の最大の詩人として世界的名声を得、若い世代にも多大の影響を与えた。ほかに自伝『二重生活』(1950)、エッセイ『叙情詩の諸問題』(1951)、戯曲『三人の老人』(1949)、『幕の背後の声』(1953)などがある。
[山本 尤]
『『ゴットフリート・ベン著作集』全三巻(1977・社会思想社)』
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(田島佳也)
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…その際彼らは散文よりも詩のジャンルに重きを置いた。大都会の不安をイメージ化したハイムの一連の詩とヤコプ・ファン・ホディスJakob van Hoddis(1887‐1942)の詩《世界の終りWeltende》とが表現主義抒情詩の口火となったものだが,後の時代への影響力の強さからいえば,ゴットフリート・ベンの詩集《死体公示所Morgue》(1912)に描かれる人間の肉体の破局のさまと,G.トラークルの詩に表現される魂の奈落の深さと浄福の夢がきわだっている。さらにまたアルフレート・リヒテンシュタインAlfred Lichtenstein(1889‐1914)の詩《夕暮れDämmerung》に代表的に見られるのだが,前後の脈絡を無視するかのように短文の詩句を羅列してゆく〈並列体〉と称する詩作も表現主義が開発したスタイルである。…
…トーマス・マン,ヘルマン・ヘッセといった市民的ヒューマニズムの文学も,むしろカタストロフィーの意識を背景としたからこそアクチュアリティをもったといえよう。もっとも特徴的なのは,第1次大戦の前線世代を代表して,俗物的な市民の日常生活のアウトサイダーとしての心情を,耽美的な革命的ナショナリズムの文学に形象化したユンガーであり,様式上のアバンギャルド性が小市民的な夢想と分かちがたく結びついているG.ベンである。ケステンHermann Kesten(1900‐96)はワイマール時代の最終段階の人間像を形象化して,いわば英雄伝説をネガティブに逆転させた《いかさま師》(1932)を発表し,同一人物において才能といかさまが混合しているこうした傾向を象徴した。…
※「ベン」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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