ホットアトム(その他表記)hot atom

デジタル大辞泉 「ホットアトム」の意味・読み・例文・類語

ホット‐アトム(hot atom)

反跳原子

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

改訂新版 世界大百科事典 「ホットアトム」の意味・わかりやすい解説

ホットアトム
hot atom

反跳原子ともいう。核反応や放射線エネルギーの吸収過程で生成する原子で,反跳による運動エネルギーの獲得や異常な電子状態などのため系の平衡熱エネルギーより大きな運動エネルギーや内部エネルギーを有するものをホットアトムと呼ぶ。一般にホットアトムは過剰に有するエネルギーのため反応性に富み,熱平衡状態にある同じ原子では起こしえないような特異な反応を誘起する。ホットアトムとその反応性を研究する化学分野ホットアトム化学と呼んでいる。

 ホットアトムはイオン加速器により加速して作ることもできるが,核反応に伴う反跳によって生成する場合が多い。例えば,ヨウ化エチル熱中性子を照射すると127Iの原子核中性子を捕獲し,128Iとなりγ線を放出する。この時に128Iが反跳を受け,ホットアトムを生ずる。このようにして生成した128Iはヨウ化エチル中の127Iと挙動を異にし,水で抽出すると放射性の128Iは水相に移行してヨウ化エチルから分離される。これは128Iが大きな反跳エネルギーを与えられ,C-I結合を切断して,液相中で衝突を繰り返しながらそのエネルギーを失い,同時に周囲の原子から電子を奪って自らは128I⁻となり水相に抽出されたものと考えられる。この現象は1934年シラードL.SzilardとシャルマーT.A.Chalmersによって発見されたもので,ホットアトムの化学反応性の相違を見いだした最初の例である。この現象は,放射性同位体の分離法としても利用することができ,シラード=シャルマー法と呼ばれる。

 ホットアトムによる反応は特異であり,通常の熱反応から期待されるものとは大きく異なった生成物を与える。反応の一例を示すと,例えば液体状態のベンゼン電子シンクロトロンからの40~70MeVの電子を照射すると,高エネルギー電子によって生ずる制動放射により12C(γ,n)11C反応が起こって,11Cのホットアトムを生成し,これがベンゼン分子と反応して種々の生成物を作る。11Cで標識された生成物として,アセチレン,ベンゼン,シクロヘプタトリエン,トルエンフェニルアセチレン,ジアセチレンが相対的に高い収率で,またスチレン,エチルベンゼン,キシレン,メタンなどが少量得られる。このほか,ベンゼン環が二つ以上結合した構造の同定されない化合物も相当量生成しており,反応はきわめて複雑である。この系では,11C,11CH,11CH2などホットな化学種がベンゼンの炭素-炭素結合間に挿入反応して生成する七員環が反応中間体となるものと考えられている。
執筆者:

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

化学辞典 第2版 「ホットアトム」の解説

ホットアトム
ホットアトム
hot atom

通常の熱平衡状態にある原子よりも高い運動エネルギーを有する原子.光化学的方法,加速器ならびに原子核反跳などによってつくられるが,とくに原子核反跳により生じた反跳原子をホットアトムとよぶことが多い.ホットアトムはその高いエネルギー状態のため,特異な挙動を示し,その化学的挙動を研究する分野をホットアトム化学(hot atom chemistry)という.

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報

今日のキーワード

仕事納

〘 名詞 〙 年の暮れに、その年の仕事を終えること。また、その日。《 季語・冬 》[初出の実例]「けふは大晦日(つごもり)一年中の仕事納(オサ)め」(出典:浄瑠璃・新版歌祭文(お染久松)(1780)油...

仕事納の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android