超流動(読み)チョウリュウドウ(その他表記)superfluidity

デジタル大辞泉 「超流動」の意味・読み・例文・類語

ちょう‐りゅうどう〔テウリウドウ〕【超流動】

液体ヘリウムが、絶対零度に近い極低温もとで、粘性を失って毛細管中を抵抗なく流れる特異な現象

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精選版 日本国語大辞典 「超流動」の意味・読み・例文・類語

ちょう‐りゅうどうテウリウドウ【超流動】

  1. 〘 名詞 〙 絶対温度が二・一七度以下のヘリウム液体ヘリウムII )が示す特異な現象。絶対零度に近い液体ヘリウムは、毛細管中でも抵抗なく流れる特性があり、ビーカーに入れておくと壁に沿って流れ出てしまう。

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改訂新版 世界大百科事典 「超流動」の意味・わかりやすい解説

超流動 (ちょうりゅうどう)
superfluidity

液体が粘性なしに流れる現象。ヘリウム4 4Heの液体である液体ヘリウム4は2.17K以下で,また4Heの同位元素である3Heの液体(液体ヘリウム3)は1mK以下でこの現象を示す。超流動状態では,液体はきわめて細い管の中を圧力差なしに流れ,また,第2音波や噴水効果など種々の奇妙な現象が観測される。

 液体ヘリウム4に,液体ヘリウムⅡと呼ばれる相が存在することはW.H.ケーソムらによって1927年に発見され,これが粘性0の超流動相であることは38年にP.L.カピッツァによって確かめられた。また液体ヘリウム3の超流動相はアメリカのD.D.オシェロフらによって72年に発見された。超流動が起こる機構は4Heと3Heとではまったく異なり,前者では4He原子ボース統計に従うことと原子間に斥力があることが,また後者では3He原子がフェルミ統計に従うことと原子間に引力があることが原因になっている。4Heの超流動理論は1930年代にF.ロンドン,L.D.ランダウらによって作られ,3Heの超流動については超伝導BCS理論の出現(1957)直後からその応用として多くの人たちによって考えられてきた。

4Heはボース粒子であってボース統計に従う。ボース粒子は量子力学的な状態に任意の数だけ入りうる。したがって,絶対0度においては,すべての粒子がエネルギーが最低の状態に入っている。粒子間に相互作用がないときには個々の粒子が独立に運動できるので,この系の全体としての,最低の次に低いエネルギーをもつ状態は,どれか一つの粒子に無限小の速度を与えた状態になっている。言い換えれば,このような相互作用のない系では,個々の粒子は無限小を含む速度をもつことができる。そこで,この系を入れている容器の壁と粒子の間に相互作用があると,系と壁の相対速度が無限小の場合であっても粒子は壁から運動量を受けとり,その結果,系をエネルギーの高い状態に上げることができる。すなわち,系と壁との間でエネルギーのやりとりが可能であり,系と壁との間に摩擦が生じ,この液体は超流動を示さない。

 これに対して液体ヘリウム4の場合は,液体中の4Heの原子どうしは低温において互いに位置エネルギーがもっとも小さくなるような距離を保っていて,そのために一つずつが独立な運動をすることができない。このような系では,最低のエネルギー状態の次にエネルギーが低い状態は,系全体を伝わる波動となる。この波動は音波であって,波長に依存しない速度をもつ。すなわち,どんなにエネルギーの低い波動も有限の速度をもっている。壁と系の相対速度がこの波動の速度よりも小さいときには,系に波動を引き起こして系を高いエネルギーの状態に上げることはできない。すなわち,液体と壁との間には摩擦が生じず液体は超流動性を示す。ところで,このような音波は,室温におかれた水の中にも存在するが,液体ヘリウム4と水の本質的な違いは,前者ではほとんどの原子が最低のエネルギーの状態に入っているのに対して,後者ではほとんどすべての分子が熱エネルギーを担って高いエネルギー状態にいることである。そのために水中では,壁と分子の衝突が乱雑に起こり,相対速度がいかに小さくてもエネルギーのやりとりが許され摩擦を生ずる。

 液体ヘリウム4の温度を0Kから少し上昇させると,いろいろの波長の音波がたち始めると同時に,渦のような運動も現れてくる。有限温度にある液体ヘリウム4は,これらの運動や波動に関与して熱エネルギーを担っている4He原子と,まだ最低のエネルギーの状態にある4He原子の混合物とみなすことができる。壁と摩擦を生じずに流れるのはこのうち後の成分であって,前の成分は流れずに壁に対して静止している。そのため,前者を常流動成分,後者を超流動成分と呼ぶ。ボース統計では,最低のエネルギーの状態にある粒子の割合は,ある温度以下で有限で,それよりも高温で無限小になる。したがって,液体ヘリウム4も温度を上げると2.17Kで超流動性を失う。

 超流動の液体ヘリウム4では奇妙な現象が観測される。小さい容器に入れて空中につるすと,液体は容器の内壁を伝わってよじのぼり,外壁に沿って下りてきて容器の下からしたたり落ちる。これは,きわめて薄い膜状の液体ヘリウム4も摩擦なしに流れられるためである。

 超流動状態にある液体ヘリウム4には第2音波と呼ばれる波をたてることができる。ある場所の温度をほかより少し上昇させると,その場所での常流動成分の割合が増える。加熱をやめると,この平衡からのずれが拡散して消えるのではなく,波として周囲に伝わっていく。このとき,液体全体の密度は一様で,常流動成分と超流動成分の比だけが波動となり,その結果,温度の変動が波動となる。これが第2音波と呼ばれるものである。また温度によって超流動成分と常流動成分の比が変わり,かつ,超流動成分のみがどんな狭い通路でも抵抗なく流れうることから,噴水効果などの熱機械効果(温度差を与えると力学的な力が生じ運動が起こる現象)を見ることができる。

液体ヘリウム3の超流動は,3He原子がボース粒子ではなくフェルミ粒子であるために,4Heの場合とまったく異なる機構によって生ずる。3Heにおける機構は,やはりフェルミ粒子である金属中の電子による超伝導の機構ときわめてよく似ている。金属の超伝導は,金属中の伝導電子が格子の振動を介して間接的に相互作用することによって生ずる電子間の引力が本来斥力であった電子間の相互作用に打ち勝って全体として引力となり,この引力のために電子は2個ずつの対を作り,すべての対が金属全体にわたってある秩序をもつようになるために生ずるものである(詳細は〈超伝導〉の項目を参照)。3Heの液体では,引力の原因になるのは3He原子間に働くファン・デル・ワールス力と,3He原子の原子核スピン間の磁気的な相互作用によって生ずるスピンの波動的な運動を媒介とする相互作用である。さらに,金属中の電子と対照的なのは,3He原子が互いに重なり合うほどまで接近するときにはきわめて強い斥力が働くことである。金属中の電子対は,二つの電子が共通の点を中心として求心的な運動をしているが,3Heではこの強い斥力のために対を構成する二つの原子は重なり合うことができず,ある軸のまわりを二つの3He原子が回るような運動をする。このような対のすべてが液体全体にわたって秩序をもつために超流動を示すようになる事情は超伝導の場合と同じである。またこの事情のために,超流動状態にある液体ヘリウム3は非等方的になり,等方的な金属の超伝導とは異なったいろいろな特徴をもつ。液体ヘリウム3は圧力をかけて比較的容易に密度を変化させることができ,圧力と温度によって2種類の超流動相があることが知られている。
液体ヘリウム
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「超流動」の意味・わかりやすい解説

超流動
ちょうりゅうどう

粘性がまったくなく、流れるときに渦の存在しない液体の状態をいう。このような現象は、液体ヘリウムについて2.17K(絶対温度)以下の低温においてのみ発見されており、ほかの液体ではみいだされていない。超流動を示す液体を超流体という。液体ヘリウムのなかで、2.17K以下で超流動を示すのは、天然に存在する質量数4の4Heである。これと同位元素である質量数3の3Heは、この温度では超流動を示さない。3Heは2.7ミリK(1ミリKは1000分の1K)以下で超流動を示すことが、1972年に発見された。

 超流動状態のヘリウムでは、奇妙な現象が観測される。図Aのように、2.17K以下の液体ヘリウムの中にバケツを入れると、液体ヘリウムは薄膜となってバケツの壁を伝わって上昇し、バケツの中に入り込む。バケツを液面より持ち上げると、ふたたび壁面を伝わってバケツの外に戻ってしまう。これは水などの常流体ではけっしておこらない現象である。図Bの(1)のように、底の抜けた毛細管の底部に炭素の粉を入れて脱脂綿で栓をする。これを超流動状態の液体ヘリウムに浸(つ)けて、外部から炭素粉の詰まっているところに光を当てると、毛細管の先端から液体ヘリウムの噴水が観測される。また同じ超流動状態の液体ヘリウムを、図Bの(2)のように毛細管を下向きにしたガラス容器に入れて、上部の液体ヘリウムにヒーターでわずかな熱を与えると、その液面が上昇する。

 この温度における超流動現象は、初めに述べた4Heにしかおこらない。これは、質量数が偶数の原子核をもつ4Heがボースの量子統計に従うため、ボース‐アインシュタイン凝縮の具体例として理解できる。このことは超伝導と同様に低温において観測される巨視的な量子現象の典型例であろう。このボース‐アインシュタイン凝縮は、偶数個の質量数をもった物質でしかおこらない。

 質量数3の3Heについても、2.7ミリK以下において超流動が発見されているが、これは奇数の質量数をもつ3He原子が二つで一つの対をつくって偶数の質量数をもつ準粒子となるためであり、超伝導における電子対と同様にBCS理論によって説明される。

[渡辺 昂]

『佐々木祥介著『超流動・超伝導って何だろう――未知の世界に夢を追いかける科学者たち』(1988・ダイヤモンド社)』『益田義賀著『超流動と超伝導』(1989・丸善)』『渡辺昂著『超流動から超伝導へ』(1991・大月書店)』『山田一雄・大見哲巨著『新物理学シリーズ28 超流動』(1995・培風館)』『恒藤敏彦著『現代物理学叢書 超伝導・超流動』(2001・岩波書店)』


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百科事典マイペディア 「超流動」の意味・わかりやすい解説

超流動【ちょうりゅうどう】

液体が粘性なしに流れる状態。液体ヘリウム4Heが2.17K以下(この状態をヘリウムIIと呼ぶ)で,微小な圧力差で細い毛細管内を自由に流れたり,また100分子層程度の薄い表面膜をつくって容器の壁をはい上り外へ流出する(表面流動)といった特異な現象を示す。これらの特性は,ヘリウムIIが,ヘリウムI(超流動転移温度以上の状態の液体ヘリウム4)と同じ性質をもつ常流動成分と,粘性0,エントロピー0の超流動成分との混合であるとして(二流体説)現象的に説明でき,また質量数4のヘリウムがボース粒子であることと深く関連する。なお,液体ヘリウム3も約2mK以下で超流動を示すことが知られている。
→関連項目カピッツァ極低温ランダウ

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「超流動」の意味・わかりやすい解説

超流動
ちょうりゅうどう
superfluidity

極低温の液体ヘリウムが,他の液体では通過できないような微小な径の毛細管を流れる現象。 1938年 P.L.カピッツァによって発見された。超流動ヘリウムの特徴には,(1) 管の両端の圧力差が無限小でも有限の速度で流れる (粘性なし) ,(2) このとき熱を運ばない (エントロピー輸送なし) ,(3) 第二音波 (熱の波) を伝える,(4) ビーカーに入れると器壁に可動膜をつくってはい上がり,器口を越えて低いほうへ流れる,などがある。 38年 L.ティサは超流動の現象論として二流体理論を提案した。量子流体論的な理解は L.D.ランダウにより深まった。超流動はボース=アインシュタイン凝縮による量子効果が巨視的に現れた現象である。 (→超流動ヘリウム3 , 超流動ヘリウム4 )  

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知恵蔵 「超流動」の解説

超流動

粒子の群れの粘りのない流れ。液体ヘリウムで見つかった。ヘリウム4(質量数4のHe)の原子は、スピンが整数値でボース粒子として振る舞うので、低温では多くの原子が1つの状態をとってひとつながりの波となり、粒子間の粘性が消える。粒子が個の性格を失い、巨視の量子現象が現れるのは超伝導と同じ。ヘリウム3(質量数3のHe)では原子2つが対をなしてボース粒子となり、同様の流れを見せる。この対は超伝導の電子対(クーパー対)に相当する。

(尾関章 朝日新聞記者 / 2007年)

出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報

世界大百科事典(旧版)内の超流動の言及

【液体ヘリウム】より

…ヘリウムには,天然に存在するヘリウム44Heと,核反応を利用してリチウムLiから作られる同位体のヘリウム33Heとがあり,1気圧での沸点は4Heが4.21K,3Heが3.19Kで,また固化に必要な圧力はそれぞれ25.0気圧と28.9気圧である。4Heの液体,液体ヘリウム4は2.172K(0.0497気圧)で粘性が消失する超流動状態に転移する。超流動状態の液体ヘリウム4を液体ヘリウムII,これに対して超流動転移温度以上の液体ヘリウム4を液体ヘリウムIと呼ぶこともある。…

※「超流動」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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