日本大百科全書(ニッポニカ) 「ポープ」の意味・わかりやすい解説
ポープ
ぽーぷ
Alexander Pope
(1688―1744)
イギリスの詩人。リンネル商の旧教徒のひとり息子としてロンドンに生まれる。当時イギリスでは旧教徒は社会的に疎外されていたうえに、子供のころから病弱であったことなどが加わって反俗的な性格を形づくり、早くから詩人たらんと志した。初期の作品のなかでは、『批評論』(1711)、『毛髪掠奪(りゃくだつ)』(1712)、『ウインザーの森』(1713)などが有名であり、なかでも『毛髪掠奪』は英文学史のなかでも類(たぐい)まれな傑作である。中期にはホメロスの『イリアス』『オデュッセイア』を英訳し、また『シェークスピア全集』の編集刊行にあたるなど、創作からはやや遠ざかっていたが、後期に入るとふたたび旺盛(おうせい)な制作欲を示す。『愚物列伝』(1728~1743)は当時の文壇の堕落を痛烈に弾劾した作品で、ホラティウスの風刺詩などを模した『ホラティウス模作』(1733~1738)とともに、風刺詩人としての彼の面目を遺憾なく発揮したものである。『道徳論』(1731~1735)および『人間論』(1733~1734)は、それぞれ四編の書簡詩からなり、道徳問題や哲学、宗教などに関するポープの感懐が語られている。前者にみえる「教育は平凡な精神を形成する」とか、後者の「汝(なんじ)自身を知れ。神意を測ろうなどとするな。人間の研究対象は人間にとどむべきである」などということばは、現在でもしばしば引用される。思想的にはかならずしも独創性があるとはいえないかもしれないが、むしろ散文の領域に属する内容を、英雄詩的二行連句とよばれる詩形を自在に駆使して語るその技量には、容易に他の追随を許さぬものがある。
[御輿員三]
『夏目漱石著『文學評論』(『漱石全集19』1957・岩波書店)』