翻訳|pulsar
規則的に電波やX線を放射する天体。おもに電波を放射する電波パルサーと、おもにX線を放射するX線パルサーとがある。ともにその本体は強く磁化した自転する中性子星である。電波パルサーは磁化した中性子星の自転のみが原因となって電磁波を放射しており、X線パルサーは連星系の、相手の星から中性子星表面に物質の流入がおこることにより、電磁波を放射している。
最初の電波パルサーは1967年にイギリス、ケンブリッジ大学のA・ヒューウィッシュらによって発見された(論文は1968年2月24日号の科学雑誌『Nature』に発表された)。パルサーのパルス周期はパルサーの自転周期に対応している。一般にパルサーの自転周期は非常に正確であり、原子時計に匹敵する精度をもつパルサーもある。
現在までに観測されている約1000個の電波パルサーのなかでもっとも短い周期をもつものは、周期1.56ミリ秒をもつパルサーPSR1937+21である。大部分の電波パルサーの周期は、0.1秒から10秒の間に分布している。
一般に電波パルサーの周期はごくわずかずつ長くなっており、これは、電磁波の放射などによりパルサーの自転速度が少しずつ減少していることを意味している。電波パルサーの寿命は約1000万年で、この期間を過ぎると、パルサーの活動は極端に弱まってしまう。
大多数の電波パルサーは単独の中性子星であるが、連星系に属する電波パルサーも少数ながらみつかっている。これらの電波パルサーを含む連星系のなかには、一般相対性理論や重力波の放出を検証するのに理想的なものが存在する。アメリカの天文学者R・ハルスとJ・テーラーは1974年にこのような連星パルサーを発見した。
X線パルサーは伴星から物質が流入するために、一般にその角運動量が増加する。したがって、X線パルサーの自転周期は徐々に短くなるのが普通である。ただし物質流入の複雑さを反映して、自転周期が複雑な変動を示すものもある。
[伊藤直紀]
『松岡勝著『X線でみた宇宙――ブラックホールと宇宙の果てを求めて』(1986・共立出版)』▽『アイザック・アシモフ著、小原隆博訳『宇宙の新しい発見――クエーサー・パルサー・ブラックホール』(1990・福武書店)』▽『ジョージ・グリーンスタイン著、深田豊訳『パルサー・ブラックホール 時間を凍結する星――その魅力にとりつかれた科学者たちの物語』(1992・地人書館)』▽『柴崎徳明著『中性子星とパルサー』(1993・培風館)』▽『高原文郎著『宇宙物理学』(1999・朝倉書店)』▽『伊藤直紀著『宇宙の時、人間の時』(2000・朝日新聞社)』▽『大槻義彦編、森俊則・小形正男・鳥居研一著『現代物理最前線4』(2001・共立出版)』
秒あるいはミリ秒の単位の短い周期で,パルス状の電波を放射する天体。パルサーは強い磁場をもった自転する中性子星であると現在では考えられている。1967年の秋,ケンブリッジ大学のA.ヒューイッシュのグループの大学院生ベル嬢は,空のある定まった方向からパルス状の電波がやってくることに気がついた。ヒューイッシュらは,さらに観測を続け,この電波源が1.337……秒というきわめて正確な周期でパルス状電波を出しており,しかも太陽系外の遠い宇宙空間からやってくるものであることを発見した。ヒューイッシュらは,最初この奇妙な電波は地球外文明からの交信かもしれないという疑いをもった。しかし,その後このような電波源が次々に発見されるにおよび,これらは自然現象であることがはっきりし,パルサーと呼ばれるようになった。パルサーが発見されるとすぐ,この現象を説明しようとするいろいろの説が提案された。しかし,その後超新星残骸である“かに星雲”の中心に0.033秒という極端に周期の短いパルサーが発見され,パルサーのモデルとしては磁場をもった回転する中性子星モデルのみが生き残り,現在ではこのモデルが一般に広く受け入れられている。
パルサーは,磁軸と自転軸の方向がずれた中性子星で,磁軸の方向に電波が放射され,自転により磁軸の方向が観測者の方向を向いたときパルスが受信されるという灯台モデルで説明される。パルサーのパルス周期はきわめて高い精度で一定である。しかし,ある程度長い期間観測を続けると,ほんのわずかではあるが周期がときとともにのびていることがわかる。パルサーは中性子星の自転のエネルギーを消費して電波を放射しており,その結果自転周期がのびるのである。したがって,一般に若いパルサーほど自転が速く,年をとるにつれて自転が遅くなると考えられる。しかし,82年に発見された1.5ミリ秒の極端に周期の短いパルサーの場合,自転周期ののびる割合が小さく,周期が短いからといってかならずしも若いパルサーとは限らない例もある。パルサーはほとんどの場合単独の中性子星であるが,1974年には連星系をなすパルサーも発見された。この連星系パルサーの場合,パルサー自身が正確な時計の役割を果たすためこの連星系の軌道周期の永年変化を調べることができ,それからアインシュタインの一般相対論で予測される重力波の有無について検証できる重要なパルサーである。現在,パルサーは銀河系内で数百個見つかっている。これまでの話は電波でパルスを出す電波パルサーについてであったが,これ以外にX線でパルスを出すX線パルサーもある。X線パルサーは,中性子星とふつうの星からなる近接連星系で,ふつうの星から放出されたガスが中性子星の磁極に降り積もるとき重力エネルギーが解放され,パルス状にX線が放射される天体である。
執筆者:尾崎 洋二
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(谷口義明 愛媛大学宇宙進化研究センターセンター長 / 2007年)
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報
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