メルダル(読み)めるだる(その他表記)Morten Peter Meldal

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「メルダル」の意味・わかりやすい解説

メルダル
Meldal Morten P.

[生]1954.1.16. デンマークコペンハーゲン
モーテン・P.メルダル。デンマークの化学者。フルネーム Morten Peter Meldal。ペプチドやその他の有機化合物の合成に関する研究を行ない,クリックケミストリー開発に貢献した。クリックケミストリーとは,アメリカ合衆国の化学者 K.バリー・シャープレスが提唱した,シンプルで迅速かつ高収率の化学反応を利用して,ある特定の機能を果たす分子をつくりだす手法である。メルダルはシャープレスとほぼ同時に,クリックケミストリーにおける代表的な化学反応である銅触媒アジド-アルキン環化付加反応 CuAACを発見し,「クリックケミストリーと生体直交化学の開発」への功績により,シャープレスとアメリカの化学者キャロライン・R.ベルトッツィとともに 2022年のノーベル化学賞(→ノーベル賞)を受賞した。
デンマーク工科大学 DTUで化学工学を学び,特にオリゴ糖少糖類)の合成に取り組み,1983年に博士号を取得。その後,ケンブリッジ大学の MRC分子生物学研究所で博士研究員としてペプチド合成を研究し,その後コペンハーゲン大学に移った。1996年に DTUに戻って教授となり,2年後にコペンハーゲン大学の教授に,2011年には同大学のナノ科学センターの教授に就任した。
ペプチド合成の研究の過程で新しい医薬品の開発に関心を寄せ,多数の分子を体系的に収集あるいは構築するなかで,官能基のアジド基とアルキン基間で起こる特殊な反応を確認し,化学反応が銅イオンによって制御され,不要な副産物が生じることなく目的の化合物がつくられることを発見した。CuAACとして知られるようになったこの反応は,一つの分子にアジド(アジ化物),二つめの分子にアルキンを導入し,銅を触媒にして二つの分子を結合させるもので,新しい有機化合物の合成,医薬品化学および医薬開発,界面化学および高分子化学など,さまざまな分野へ応用が可能である。メルダルはこのほか,ペプチド合成の改善のためのさまざまな技術や手法を考案したことでも知られ,ポリエチレングリコール PEG(→ポリエチレンオキシド)ベースの樹脂やケイ光をベースとしたスクリーニングなどは,固相コンビナトリアル技術(→コンビナトリアルケミストリー)の著しい進歩に貢献した。また,新しい光学的エンコーディング技術を開発し,ペプチドの構造と生物活性との関係を解明した。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「メルダル」の意味・わかりやすい解説

メルダル
めるだる
Morten Peter Meldal
(1954― )

デンマークの化学者。コペンハーゲン生まれ。デンマーク工科大学で化学工学を学び、1983年博士号を取得。そのまま同大学で博士研究員として勤務。1985年にイギリスのケンブリッジ大学の博士研究員、1988年にコペンハーゲンにある、有名なビール醸造会社所属のカールスバーグ研究所有機合成グループリーダーとなり、1996年にデンマーク工科大学非常勤教授(兼任)、2004年コペンハーゲン大学非常勤教授(兼任)、カールスバーグ研究所教授。2011年コペンハーゲン大学教授に就任し、2013年から2018年まで同大学進化ケミカルバイオロジーセンター所長を務めた。

 当初、オリゴ糖など合成化学に興味をもち、医薬品候補物質をみつける手法の開発に取り組んだ。たくさんの分子を集めた分子ライブラリーをつくり、合成させて生理活性を調べていくなかで、「アルキン(アルキニル基)」と「酸ハロゲン化物」に銅イオンを加えると、触媒として作用して反応がスムーズに進むことを確認した。しかし、よく調べるとアルキンが反応していたのは、ハロゲン化物ではなく「アジド(基)」であることがわかった。分子表面にあるアジドとアルキンが結びつくと、環状の化合物トリアゾールが形成されて安定するという結果を、2001年にアメリカのサン・ディエゴで開かれたシンポジウムで発表。翌2002年に、二つの分子を簡便なプロセスで結合させる手法として、銅を触媒としたアジド-アルキン付加環化反応について論文にまとめ発表した。偶然にもその年、アメリカのスクリプス研究所教授バリー・シャープレスが、同様のアジド-アルキン付加環化反応が、銅を触媒にして、シートベルトバックルがはまるように分子どうしがカチッと結合するクリックケミストリーであることを発表した。二人の発見により、複雑な工程を経て、管理がむずかしかった化学合成が容易となり、医薬品の候補物質の探索、繊維やプラスチック新材料の開発に利用されている。

 1996年デンマーク化学会のNKT研究賞、ニール・ベンジャミン・ゴールド・メダル、2009年アメリカ化学会のラルフ・ヒルシュマン賞、2019年クラリベイト・アナリティクス引用栄誉賞を受賞。2022年「クリックケミストリーと、それを生体内で起こさせる生体直交化学の開発」の業績で、前述のシャープレスと、アメリカのスタンフォード大学教授キャロライン・ベルトッツィとともにノーベル化学賞を受賞した。

玉村 治 2023年2月16日]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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