メルダル(読み)めるだる(英語表記)Morten Peter Meldal

日本大百科全書(ニッポニカ) 「メルダル」の意味・わかりやすい解説

メルダル
めるだる
Morten Peter Meldal
(1954― )

デンマークの化学者。コペンハーゲン生まれ。デンマーク工科大学で化学工学を学び、1983年博士号を取得。そのまま同大学で博士研究員として勤務。1985年にイギリスのケンブリッジ大学の博士研究員、1988年にコペンハーゲンにある、有名なビール醸造会社所属のカールスバーグ研究所有機合成グループリーダーとなり、1996年にデンマーク工科大学非常勤教授(兼任)、2004年コペンハーゲン大学非常勤教授(兼任)、カールスバーグ研究所教授。2011年コペンハーゲン大学教授に就任し、2013年から2018年まで同大学進化ケミカルバイオロジーセンター所長を務めた。

 当初、オリゴ糖など合成化学に興味をもち、医薬品候補物質をみつける手法の開発に取り組んだ。たくさんの分子を集めた分子ライブラリーをつくり、合成させて生理活性を調べていくなかで、「アルキン(アルキニル基)」と「酸ハロゲン化物」に銅イオンを加えると、触媒として作用して反応がスムーズに進むことを確認した。しかし、よく調べるとアルキンが反応していたのは、ハロゲン化物ではなく「アジド(基)」であることがわかった。分子表面にあるアジドとアルキンが結びつくと、環状の化合物トリアゾールが形成されて安定するという結果を、2001年にアメリカのサン・ディエゴで開かれたシンポジウムで発表。翌2002年に、二つの分子を簡便なプロセスで結合させる手法として、銅を触媒としたアジド-アルキン付加環化反応について論文にまとめ発表した。偶然にもその年、アメリカのスクリプス研究所教授バリー・シャープレスが、同様のアジド-アルキン付加環化反応が、銅を触媒にして、シートベルトのバックルがはまるように分子どうしがカチッと結合するクリックケミストリーであることを発表した。二人の発見により、複雑な工程を経て、管理がむずかしかった化学合成が容易となり、医薬品の候補物質の探索、繊維やプラスチック新材料の開発に利用されている。

 1996年デンマーク化学会のNKT研究賞、ニール・ベンジャミン・ゴールド・メダル、2009年アメリカ化学会のラルフ・ヒルシュマン賞、2019年クラリベイト・アナリティクス引用栄誉賞を受賞。2022年「クリックケミストリーと、それを生体内で起こさせる生体直交化学の開発」の業績で、前述のシャープレスと、アメリカのスタンフォード大学教授キャロライン・ベルトッツィとともにノーベル化学賞を受賞した。

玉村 治 2023年2月16日]

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