ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「メルダル」の意味・わかりやすい解説
メルダル
Meldal Morten P.
モーテン・P.メルダル。デンマークの化学者。フルネーム Morten Peter Meldal。ペプチドやその他の有機化合物の合成に関する研究を行ない,クリックケミストリーの開発に貢献した。クリックケミストリーとは,アメリカ合衆国の化学者 K.バリー・シャープレスが提唱した,シンプルで迅速かつ高収率の化学反応を利用して,ある特定の機能を果たす分子をつくりだす手法である。メルダルはシャープレスとほぼ同時に,クリックケミストリーにおける代表的な化学反応である銅触媒アジド-アルキン環化付加反応 CuAACを発見し,「クリックケミストリーと生体直交化学の開発」への功績により,シャープレスとアメリカの化学者キャロライン・R.ベルトッツィとともに 2022年のノーベル化学賞(→ノーベル賞)を受賞した。
デンマーク工科大学 DTUで化学工学を学び,特にオリゴ糖(少糖類)の合成に取り組み,1983年に博士号を取得。その後,ケンブリッジ大学の MRC分子生物学研究所で博士研究員としてペプチド合成を研究し,その後コペンハーゲン大学に移った。1996年に DTUに戻って教授となり,2年後にコペンハーゲン大学の教授に,2011年には同大学のナノ科学センターの教授に就任した。
ペプチド合成の研究の過程で新しい医薬品の開発に関心を寄せ,多数の分子を体系的に収集あるいは構築するなかで,官能基のアジド基とアルキン基間で起こる特殊な反応を確認し,化学反応が銅イオンによって制御され,不要な副産物が生じることなく目的の化合物がつくられることを発見した。CuAACとして知られるようになったこの反応は,一つの分子にアジド(アジ化物),二つめの分子にアルキンを導入し,銅を触媒にして二つの分子を結合させるもので,新しい有機化合物の合成,医薬品化学および医薬開発,界面化学および高分子化学など,さまざまな分野へ応用が可能である。メルダルはこのほか,ペプチド合成の改善のためのさまざまな技術や手法を考案したことでも知られ,ポリエチレングリコール PEG(→ポリエチレンオキシド)ベースの樹脂やケイ光をベースとしたスクリーニングなどは,固相コンビナトリアル技術(→コンビナトリアルケミストリー)の著しい進歩に貢献した。また,新しい光学的エンコーディング技術を開発し,ペプチドの構造と生物活性との関係を解明した。
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