1976年(昭和51)、教育課程審議会(1950設置、2001中央教育審議会に統合)は、授業についていけない子どもが多いのは、学習内容が過密なためであり、これが不登校の増加や授業が荒れる原因になっているという考えのもと、そうした状況への対応策として、「ゆとり教育」に言及した。同審議会は87年には、より積極的にゆとり教育の必要性を説くようになり、ゆったりと授業を受けられるように、教材を削減する答申を出した。
1989年(平成1)、教育課程審議会の答申を受けた文部省(現文部科学省)は、ゆとり教育の導入を狙いとした教育課程の改訂を発表した(92年度から実施)。98年、文部省はゆとり教育をさらに進めるため、教材を精選した教育課程を採用した(2002年度から実施)。しかし、この新しい教育課程は、教材の「3割削減」と受け止められ、社会的な反響を巻き起こした。なかでも、小学5年生で扱う小数点は10分の1の位までとされているところに、「(円周率は)目的に応じて3を用いて処理する」とあったことから「円周率が3になる」と報道されたため、このような改訂は基礎学力の低下につながると批判の声が高まった。
2002年度(平成14)から、学校の完全週5日制が実施されることになり、年間授業日数は202日程度になった。その結果、小学6年生の総授業時間数は、1968年度(昭和43)の年間1085時間から、89年度の1015時間を経て、98年度には945時間と、30年の間に140時間減少している。また「総合的な学習の時間」も導入されており、その分だけいわゆる「教科」の時間が減った。国語を例にすると、1968年度には245時間あった授業が、89年度の210時間、98年度の175時間へと、70時間も授業時間が減少している。
こうした状況から、学力低下が社会問題化し、ゆとりをもたせることはよいが、現状はゆとりのもたせすぎではないか、という批判が高まった。文部科学省も態度を変え、学習指導要領は「最低基準」を示すもので、学校ごとに保護者や児童の状況を視野において、その学校なりの教育課程を編成してほしいとしている。
このように、ゆとり教育は学力低下を心配する声の高まりのなかで、指導理念としての妥当性を失い始めている。それだけに、「学力保障」と「ゆとりある教育」とをいかに両立させるかが、これからの学校の大きな課題になりつつある。
[深谷昌志]
『和田秀樹著『学力崩壊――「ゆとり教育」が子どもをダメにした』(PHP文庫)』▽『寺脇研著『21世紀の学校はこうなる――ゆとり教育の本質はこれだ』(新潮OH!文庫)』▽『市川伸一著『学力低下論争』(ちくま新書)』▽『苅谷剛彦著『教育改革の幻想』(ちくま新書)』
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