アリストテレス(英語表記)Aristotelēs

デジタル大辞泉 「アリストテレス」の意味・読み・例文・類語

アリストテレス(Aristotelēs)

[前384~前322]古代ギリシャの哲学者。プラトンの弟子。プラトンがイデアを超越的実在と説いたのに対し、それを現実在に形相として内在するものとした。アテネに学校リュケイオンを開いてペリパトス学派逍遥学派)の祖となる。「オルガノン」(論理学書の総称)「自然学」「動物誌」「形而上学」「ニコマコス倫理学」「政治学」「詩学」などを著し、古代で最大の学問体系を樹立した。

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精選版 日本国語大辞典 「アリストテレス」の意味・読み・例文・類語

アリストテレス

  1. ( Aristotelēs ) 古代ギリシア最大の哲学者。はじめアテナイでプラトンの教えを受け、のちアレクサンドロス大王の家庭教師を務める。晩年はアテナイ郊外にリュケイオンと呼ばれる学園を創設し、ペリパトス学派の開祖となる。イデアを超感覚的な実体とみるプラトンの説を批判し、エイドス(形相)は質料に内在する本質であると説いた。「形而上学」「オルガノン(論理学の書)」「政治学」「ニコマコス倫理学」「自然学」「詩学」のほか、広範囲にわたる著作がある。(前三八四‐前三二二

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改訂新版 世界大百科事典 「アリストテレス」の意味・わかりやすい解説

アリストテレス
Aristotelēs
生没年:前384-前322

古代ギリシアの哲学者。〈万学の祖〉と呼ばれるように数々の分野で後世に大きな影響を与えた。

北東ギリシアのスタゲイラに生まれる。父はマケドニア王の侍医ニコマコス,母はファイスティス。前367年アテナイに上り,プラトンの学校アカデメイアで師の死まで20年間研究生活を送る。前347年プラトンの没後,同学のクセノクラテスらとともにアテナイを去り,小アジア西岸のアッソスで当地の支配者ヘルメイアスの知遇を受け,その姪(めい)ピュティアスと結婚する。前344年から2年間は対岸のレスボス島に移り,テオフラストスらと生物学研究にいそしむ。前342年マケドニア王フィリッポスに招かれ,王子アレクサンドロスの家庭教師として7年間をすごす。アレクサンドロスが王位継承して後,アジア遠征に出発する年の前年(前335),アリストテレスはマケドニア支配下になったアテナイに帰って,北東郊外のリュケイオンLykeionに新しい学校を開く(ペリパトス学派)。ここには書物も多く収集され,後世の本格的な図書館の先駆ともなった。このリュケイオン校の学頭をつとめていた12年間は,研究・教育の両面で最も円熟した時期であったが,前323年アレクサンドロスがバビロンで急死すると,アテナイでは反マケドニアの機運が高まり,マケドニア側の人物と見られたアリストテレスは不敬神のかどで訴えられ,母の出身地のカルキスにのがれて翌年その地で病没した。

今日〈アリストテレス著作集〉として伝わるものは,前1世紀,それまで世に埋もれていた彼の講義用論文を,ロドス島出身の学者アンドロニコスAndronikosが,アリストテレス自身の学問の区別(理論的,実践的,製作的)に基づいて主題別に編集したものがもとになっている。彼の哲学を完結した体系として扱う後世の研究態度はここに由来する。〈著作集〉中の主要な作品を伝統的な配列に従って列挙すると,(1)〈オルガノン〉(〈道具〉の意)と総称される論理学的著作:《カテゴリアイ(範疇(はんちゆう)論)》《命題論》《分析論前書》《分析論後書》《トピカ(論拠集)》《ソフィストの論駁法》,(2)自然学:《自然学講義》《天体論》《生成消滅論》《気象学》《デ・アニマ(心魂論)》《自然学小論集》《動物誌》《動物部分論》《動物運動論》《動物進行論》《動物発生論》,(3)第一哲学:《形而上学》,(4)実践学・製作学:《ニコマコス倫理学》《エウデモス倫理学》《政治学》《弁論術》《詩学(創作論)》となる。これとは別に最初から公表を意図して書かれた作品もあったが,以後しだいに忘れられるようになり,今日では《魂について(エウデモス)》《哲学のすすめ(プロトレプティコス)》《哲学について》などの一部が,後世の人が断片的にまたは要約して引用した形で残されているにすぎない。彼の失われた著作のうちで最も惜しむべきものに,158のギリシア諸国の国制とその歴史的変遷を調査記録したものがあるが,そのうち《アテナイ人の国制》だけはその大部分が1890年パピルスの写本のかたちで発見されて残っている。

アリストテレスの思考の大きな特徴の一つに,言葉の多義性に注目した分析の精密さがあげられる。彼は〈名辞〉〈述語〉〈命題〉などといった根本概念を確定したうえで史上初めて三段論法の定式化をなしとげ,その後の論理学の基礎をきずいた。彼は自身の説を展開する際に彼以前の哲学者の説を紹介・批判することが多いが,彼の創始した多数の用語・概念は,その場合にも威力を発揮する。彼によれば,どんな学問も第1の原理・原因を知ることによって初めて本当の知識となるのだが,自然の事象の原因となるものには4種類ある。すなわち,(1)形相因(何であるか,本質),(2)質料因(何からできているか,素材),(3)始動因(運動変化を起こさせるもの),(4)目的因(何のためか)がそれである。彼はタレス以来の彼に先立つ哲学者たちの求めていたものがこの4原因のどれかに当たり,その範囲を出るものではないと見た。

 このうちの形相因は,ソクラテスの〈何であるか〉の問いと,それを引き継いだプラトンのイデア論の考えを受け継ぐものである。しかしアリストテレスは,イデアがそれ自体として独立に存在すると考えるのは〈普遍〉的なものを〈個物〉とみなすことになるなどの理由で,イデア論そのものは批判し退けた。彼の〈形相〉はそれと異なり,つねに〈素材〉と対をなし,具体的な個物のうちに(規定の言葉(ロゴス)において以外は)素材と切り離せないものとして結びついているものである。この〈形相〉〈素材〉はまた〈現実態エネルゲイア)〉と〈可能態(デュナミス)〉とにそれぞれ対応する。たとえば素材としての木材は家の可能態であり,大工によって形相を与えられて現実の家となる。この場合,家の形相は目的でもあるが,自然物,すなわち運動変化の始原を自身のうちにもっているものの場合には,〈人間が人間を生む〉という彼の愛用した言葉が示すように,始動因(生む人間)も形相・目的因と一つに帰着する。彼は自然界に内在するこのような形相と目的とを発見することのできる喜びに駆られて,生物学の分野,とくに動物学の研究に打ち込み,数百種の動物を記述して類・種による階層的な分類を行うという巨大な業績を残した。そのような生物の生育もさらに上位の天体の運動も含む自然界のあらゆる動(運動・変化)の最終的な原因(根拠)となるもの,これを彼は,みずからは動かされることなしに他のものを動かす〈不動の(第一)動者〉としての〈神〉とする。この神のあり方は,いかなる素材的要素とも無縁の純粋な知性の現実活動として語られている。今日〈形而上学〉と呼ばれているものを彼は〈第一哲学〉とか〈神学〉とか呼んだが,それは〈存在を存在として〉普遍的に研究する学問であるとともに,このような神について考察するものでもあった。彼は,人間にとって最高の幸福は,その最も優れた特性たる〈知性の徳〉にもとづく現実活動,神の生にも似た知性の観想にあるとしながらも,通常の人間的な幸福は実践をも含めた人間の活動全体にあるとして,正義・勇気・節制などの〈品性の徳〉について広範に論じ,この徳を,両極端を排した〈中庸〉において行為を選択できる心の状態だと規定している。さらに,よき品性は習慣によって形成されるとして,その条件としての国家社会のあり方にも考察が進められる。〈すべて国家共同体は何らかの善のために形成される〉というような理論的考察と,現実の国制の調査による具体的観察とに基づいて,最良の国制は最良の人々による支配だとしながらも,現実的なものとしては民主制と少数者支配との一種の混合政体を最良としている。

西洋の哲学,科学の歴史におけるアリストテレスの影響には計り知れないものがあるが,とくに,〈普遍〉と〈個別〉,〈主語〉と〈述語〉,〈可能〉と〈現実〉など,現代もなお使われる数多くの用語・概念を創始定着させ,それに合致するものの見方を強化したことは,彼以後の思考の流れを大きく規制する結果となった。歴史的に見ると,〈著作集〉の研究は2~6世紀に最初のピークを迎え,ギリシア語による逐語的な注釈が多数書かれた。以後その研究の中心は東方に移り,9~12世紀にはアリストテレスの影響を受けた哲学者がイスラム圏に輩出する。12~13世紀にかけてラテン語訳〈著作集〉がヨーロッパに伝わって急速に広まり,最初はキリスト教神学と対立したが結局はトマス・アクイナスによって神学と調和的にとり入れられて,前にもまして影響力を持つようになった。今日の主として科学の立場から,彼の学説は批判される点も多いが,〈実体〉と〈属性〉の区別に基づく論理的枠組と,それの含意する存在と価値の分離とは,近代自然科学の発展を支えてきたものであり,それだけに彼の哲学の投げかけている問題は今なお大きい。
ギリシア哲学 →西洋哲学
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百科事典マイペディア 「アリストテレス」の意味・わかりやすい解説

アリストテレス

古代ギリシアの哲学者。マケドニア王の侍医ニコマコスの子としてスタゲイラに生まれる。前367年アテナイに出てアカデメイアに入り,プラトンに学んだ。各地を巡ったのちアテナイ郊外にリュケイオンと呼ばれる学校を設立し(前336年ころ),研究に専心。その学徒をペリパトス(逍遥(しょうよう))学派という。かつて個人教授をしたこともあるアレクサンドロス大王が没し,アテナイに反マケドニア運動がもち上がると,アリストテレスはカルキスに隠退し,翌年死んだ。〈万学の祖〉として,その業績は広範,後世への影響はプラトンと並んで甚大である。学の全分野で今日まで用いられる術語・概念・方法の多くがアリストテレスに発するが,とりわけ認識論・知識論の基礎となる4原因(形相因,質料因,始動因,目的因)の措定,三段論法の定式化,動物の発生や分類の研究,プトレマイオス・クラウディオスの宇宙体系と結びつくことになる天体論が重要。イスラム圏での受容を経てスコラ学に統合されるに至り,長くキリスト教的世界観を支える哲学となったことも特筆される。主著《カテゴリー論》《命題論》《形而上学》《ニコマコス倫理学》《詩学》《アテナイ人の国制》。
→関連項目イデアイブン・シーナーイブン・ルシュドエンテレケイアオルガノンカタルシスカテゴリー形而上学詩学自然学存在論鷹狩デュナミストマス・アクイナス二元論悲劇

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旺文社世界史事典 三訂版 「アリストテレス」の解説

アリストテレス
Aristoteles

前384〜前322
古代ギリシアの哲学者
マケドニアに生まれ,アテネのアカデメイアでプラトンに学び,少年時代のアレクサンドロス大王を教育した。その後,アテネにリュケイオンを開設して,逍遙 (しようよう) 学派を始めた。古代ギリシアの学問を論理学・倫理学・政治学および自然科学の各専門分野において体系的に総合したが,師プラトンのイデア論を批判して,イデアすなわち実体は現実の現象的世界に内在するものであって,現象みずからの発展によって実現されるものと考えた。この発展は,質料がその形相を備えた現実態としての事物に転化する運動としてとらえられている。さらに,形式論理学を大成して,幾何学の証明にみられる三段論法をほとんど完成し,ユークリッド幾何学の成立をうながした。また,イスラーム世界の学問,中世ヨーロッパのスコラ哲学に大きな影響を与えた。その著作としては,一連の哲学的考察をまとめた『形而上学』や,諸ポリスの国制研究の一部をなす『アテナイ人の国制』などがある。

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山川 世界史小辞典 改訂新版 「アリストテレス」の解説

アリストテレス
Aristoteles[ギリシア],Aristotle[英]

前384~前322

プラトンと並ぶギリシアの大哲学者。その学識は経済,政治,歴史,倫理,心理,論理,美学,生物学に及ぶ比類なき大学者でもある。アカデメイアに20年ほど留まった彼は,師プラトンの影響を強く受けて対話形式の著作を書いたが,やがて,個々のものを超越したイデアの立場にあきたらぬようになった。代表作『形而上学』では,イデアはエイドスという名で普遍的なものとしてとらえられ,個物に内在せしめられる。だが彼の体系の頂点には全宇宙を超越した神が据えられ,形而上学=神学となって,プラトン的色彩を残している。なお,彼には弟子たちを動員しての,158編にのぼる諸ポリスの国制研究があり,幸いにも,そのうち最も重要な『アテネ人の国制』が今日に残されて,『政治学』とともにギリシア史研究の貴重な史料をなしている。

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世界大百科事典(旧版)内のアリストテレスの言及

【イスラム哲学】より

…アッバース朝カリフ,マームーンはバグダードにバイト・アルヒクマを建てて,この翻訳活動を推進した。これらの翻訳活動のうちで,とくにアリストテレスに関しては,その著作の大部分がアラビア語に訳されて研究されるようになった。しかし,こうしてアラビア語訳されたアリストテレスの作品は,テミスティオスThemistiosのような新プラトン主義者の解釈を根拠に紹介されたので,イスラム世界におけるアリストテレスの哲学は,新プラトン哲学の色彩を濃く漂わせたものになった。…

【遺伝学】より

…現在の遺伝学は細胞・個体・集団の各レベルについて,遺伝物質の複製・伝達・情報発現の機構を解明し,これらの知見に基づいて変異の生成過程を理解し,さらにはその将来を予測することを目指している。
[遺伝学の確立]
 遺伝の現象そのものについては,おそらく太古の人々も気づいていたに違いないし,アリストテレスも《動物発生論》において遺伝という問題を巡ってかなり深く考察している。たとえば黒人と交わった白人女の娘は黒人ではなかったが,その娘が白人と交わってできた孫が黒人であったという,今でいえば隔世遺伝の事実をあげて獲得形質の遺伝に反証している。…

【宇宙】より

…神話時代を除くとギリシア哲学に宇宙開闢説が少ない理由もそのあたりにあろう。アリストテレスの時代になると,コスモスの解釈学にはいくつかの流れが読み取れるようになる。原理的には無限の空虚な空間の中をさまざまな原子が運動するという宇宙イメージを立てたデモクリトス,ノモスnomos(法)の概念を媒介に,人間の倫理をも自然の合理的秩序の中に含ませつつ,独特の宇宙論(そしてギリシア哲学においては数少ない宇宙開闢説)を展開するプラトン,おそらくはデモクリトスを最大の論敵として仮想しつつみずからの宇宙論構築の道をたどったアリストテレスを,そうした流れの中心に見ることができる。…

【占い】より

…夢の中で病人は神のお告げを授かり,それを神官が判じ解くのである。既に,アリストテレスは,夢が神から送られてくるものではなく,人間の精神の機構と結びつくものとみなしているが,それでも,この夢見のための籠りは近世に至るまで一貫して世界の各地で行われ続けたのである。2世紀初頭に生まれたアルテミドロスは,ギリシア・ローマにおける夢占いの実際をもっとも詳細に記した人物であるが,その《夢判断》は,マクロビウスの《スキピオの夢》とともに,古代後期の夢占いの体系をよく伝えている。…

【運動】より

…もちろん,ギリシアにあっても,運動は,必ずしも,物理的な意味,つまり物体の位置運動としてのみとらえられたわけではない。アリストテレスは,一般に運動を,可能的なものから現実的なものへの〈変化〉として措定している。そこには,量的変化(増減,膨縮など),質的変化(物質の色の変化など),生成消滅(実体上の変化)が,位置運動のほかに,運動として数えあげられていた。…

【エートス】より

…冷静さと情熱,理性と情念,合理と非合理,といった異質な要素の何らかの結合によって生み出された行為への一定の傾向性。エートスを,人間と社会の相互規定性をとらえる戦略概念として最初に用いたのはアリストテレスであり,社会認識の基軸として再びとらえたのがM.ウェーバーである。ウェーバーによれば,この行為性向は次の三つの性質をあわせもつ。…

【エネルゲイア】より

…〈デュナミスdynamis〉(〈可能態〉〈潜勢態〉。ただし一般的な意味としては〈力〉〈能力〉)と対比して,可能性が実現していることを表す用語としてアリストテレスがはじめて用いた。その語義は〈エルゴンergon〉(仕事,活動,またはその成果,作品)から派生したもので,現に活動しているという動的な現実も,完成されてあるという静的な現実も示す。…

【演劇】より

… ところで,舞台を見てそこで演じられていることに同化するには,まずそれが〈信じられるかどうか〉という,観客の内部の直観的・感覚的であると同時に知的でもある受容・参加の可能性が問題になるだろう。しかもそこで演じられている〈物語〉(アリストテレスはそれをミュトスmythosと呼んで悲劇の最重要の要素とした)が信じられるか否かだけではなく,それが信じられるような仕方で提示されているかどうかが問題になる。たとえばマラルメは,ワーグナー楽劇の作用は一種の宗教性を帯びるとして,ゲルマン民族の始原の謎を解きあかす〈神話〉とその〈形象〉へと,交響楽の始原回帰の作用に導かれて観客=聴衆が合体するのだと説いたが,このようにあからさまに宗教にとって代わる仕組みを作り出した場合でなくとも,演劇は一種の〈信仰の業(わざ)〉である。…

【オルガノン】より

…〈道具〉〈手段〉〈器官〉を表すギリシア語であるが,現代の各国語では〈科学の方法,道具〉という意味をもつ。このような意味の特殊化は,アリストテレスの論理学書《範疇(はんちゆう)論》《命題論》《分析論前書》《分析論後書》《トピカ》(《詭弁論駁論》を含む)が後世の編集において〈オルガノン〉の名の下に総称されたという歴史的経緯による。アリストテレス自身は彼の論理学的業績が自分の学問体系の中で占める位置を明示していないが,後世のギリシア人編纂者たちがそのような論理学を自然学,動物学,数学,さらには形而上学の体系を構成するための〈道具〉と考え,この名を与えたことは明らかである。…

【解剖学】より

…彼は動物の解剖を行い視神経と耳管を発見している。ギリシア時代の最大の生物学者アリストテレスは,《動物誌》《動物部分論》《動物発生論》を著し比較解剖学を創始したが,人体解剖は行っていない。アレクサンドリアが栄えるころには多くの学者がギリシア本土から招かれた。…

【カタルシス】より

…本来ギリシア語で,祭儀,医術,音楽,哲学など諸分野に広く認められる〈純化〉を意味した語。だがアリストテレスが《詩学》第6章で悲劇を定義し,〈悲劇の機能は観客に憐憫(れんびん)と恐怖とを引き起こして,この種の感情のカタルシスを達成することにある〉と明記して以来,この概念は悲劇論ばかりか芸術全般の考察における重要な概念となった。もっともアリストテレスの用語の意味については,古来さまざまな解釈があり,果てしない論争が続いてきた。…

【学校】より

…彼は,教える者と学ぶ者とがともに生活し,対話を重ねるなかで魂に点火し,それをみずから育てることが大事だと考えていた。これに対してアリストテレスは講義を行ったものと思われる。今日残されているその著作は,彼の講義のための覚書であり,講義に先立って彼は,学ぶ者の学習過程を想定し,それにそって周到な準備を重ねたものと推定されている。…

【カテゴリー】より

…原語であるギリシア語のkatēgoriaは,動詞katēgorein(kata~に対して,+agoreuein公の場で語る<agoraギリシア都市の公共広場)すなわち,糾弾する,告訴するに由来し,元来日常用語としては〈訴訟〉を意味した。個々の犯罪ないしその犯人を,たとえば殺人罪,窃盗罪など公の場で承認されうる普遍的な概念の下に包みこんで訴える,という本来の意味を生かして,アリストテレスは,この語を前述の意味の哲学の術語としてとり入れた。すなわち,彼は,カテゴリーをものの分類の最も普遍的な規定,すなわち最高類概念としてとらえ,具体的には,実体,量,性質,関係,場所,時間,位置,状態,能動,所動の10個をそれにあたるものとしてあげたのである。…

【感覚】より

… 哲学史上では,エンペドクレスが感覚は外物から流出した微粒子が感覚器官の小孔から入って生ずるとしたのが知られる。それに対しアリストテレスは〈感覚能力〉を〈栄養能力〉と〈思考能力〉の間にある魂の能力の一つととらえ,それを〈事物の形相をその質料を捨象して受容する能力〉と考えた。一般にギリシア哲学では,感覚と知覚との区別はいまだ分明ではない。…

【虚偽】より

…虚偽とは人間の理性がおかされる病気といえるが,ちょうど生理学が人体の病気の研究である病理学から発展したのとおなじように,論理学は理性の病気の研究である虚偽論から発展してきた。それゆえ論理学の創始者といわれるアリストテレスが優れた虚偽論を書いたことは当然のことだといえる。彼はそこでいろいろな虚偽を列挙し分類しただけではなく,それがなぜ虚偽であるかをはっきりと示してみせたのである。…

【ギリシア科学】より

…彼はまたアカデメイアという研究所をつくり,〈哲人王〉たるための哲学をきわめると同時に,イデア的考察に資するものとして純粋数学や理論天文学の研究をエウドクソスらとともに推進した。 プラトンのイデア論とイオニアの自然学とをある意味で統合したのがアリストテレスである。イデアを個物の本質としての〈形相(エイドス)〉としてとらえ,同時にイオニアの自然学がとりあげていた物質的構成要素を,素材としての〈質料(ヒュレー)〉として組み入れ,いっさいの存在をこうした〈形相〉と〈質料〉の不可分な結合において把握するのである。…

【ギリシア哲学】より


[〈一者〉の追求]
 〈すべては水である,水こそ万物の始原(アルケーarchē)である〉というおおづかみな哲学をうち立てたタレスに始まって,煩瑣(はんさ)とも言いたくなるほどの細かい分析を得意にしたアリストテレスにいたるまでの期間はほぼ250年にすぎない。この短い期間にギリシアには多数の哲学が生まれ,多数の個性的な哲学者が輩出した。…

【ギリシア文学】より

…しかしアテナイ文学が刻み残している道はまさにその反対である。後年アリストテレスも認めているように,アテナイの悲劇・喜劇の芸術は単純素朴な即興大衆演芸から始まり,従来の叙事詩と抒情詩の文学的伝統を総合的に吸収・集約し,ついに新しい表現様式として高度の完成に達したのである。今日伝存するのは当時上演された作品総数のおそらく数百分の一に過ぎないが,それでも作者たちの抱いた高遠な展望を十分に知らしめる。…

【空間】より

…もちろん,このとらえ方自体,ある程度西欧的な哲学の伝統によりかかっており,例えば日本語における〈(ま)〉は,明らかに時間と空間の双方を含んだ概念であるが,もともと〈時間〉とか〈空間〉という日本語がそうした西欧的背景のなかで用いられる習慣がある以上,ここでもさしあたって西欧的な概念史を問題にする。
【西欧的空間概念の系譜】
 古代ギリシア文化圏で注目すべき空間論はデモクリトス,それにプラトン,アリストテレスに見いだせよう。デモクリトスにおいては,空間は,完全な〈空虚mēon〉(すなわちいっさいの存在の否定)としてとらえられ,それはまた,存在としての原子(アトム)が運動するための余地であるとみなされた。…

【形而上学】より

…哲学の諸分野,諸原理の最高の統一に関する理論的自覚体系。語源的には,アリストテレスの講義草稿をローマで編集したアンドロニコスが,《自然に関する諸講義案(タ・フュシカ)》すなわち自然学の後に(メタ),全体の標題のない草案を置き,《自然学の後に置かれた諸講義案(タ・メタ・タ・フュシカ)》と呼び,これがメタフュシカmetaphysicaと称されたことに基づく。内容的には,第二哲学としての自然学に原理上先立つ存在者の一般的規定を扱う第一哲学,自然的存在者の運動の起動者としての神を扱う神学を含む。…

【元素】より

…エンペドクレスの4元素(現在の元素とはまったく異なる),すなわち四元は,インド哲学の四大(しだい),すなわち万物生成の根源として考えた地水火風とまったく同じであり,西域経由の通商により両文化間に思想交流があったことを示唆している。 アリストテレスは,前述の四元に物質の基本的性質を表す第五元を加え,これを熱冷乾湿の四性とし,土は第五元が冷乾,水は冷湿,火は熱乾,風は熱湿を帯びたものと考えた。現代的に考えると,第五元だけが物質の本質であって,エネルギーの出入りによって固態にも液態にも気態にもなりうるのである。…

【光学】より

…しかも,光学の名のもとに,反射や屈折だけではなく,視覚の問題や,場合によっては眼球の解剖学と生理学すら論じられたのである。 まず,古代には,数学者として知られるユークリッド(エウクレイデス)が光の直進性と反射を研究し,哲学者のアリストテレスも色彩の問題を論じた。さらに,天文学者のプトレマイオスも屈折についての研究を残している。…

【心】より

…プラトンの諸対話編にはこの第2の型の霊魂観が典型的に表現されており,理性的な霊魂の不滅が真剣な哲学的議論の主題になっている。アリストテレスの《霊魂論》も,プラトンと同じく,心の理性的・超越的な存在性格を強調したが,それと同時に人間の心的生活が,たとえば栄養摂取や感覚‐運動の機能に関して植物的・動物的な生命活動と連続するという一面も見逃さず,総合的・調和的な心理学説をつくり上げている。 こういう古典ギリシアの哲学的霊魂観がやがて霊肉二元のユダヤ教・キリスト教的な宗教思想と結びつき,西洋の思想的中核を形成するに至る。…

【コスモス】より

…エウドクソスとカリッポスが考案した幾何学的な同心天球説はこの問題提起に対する一つのみごとな解答であった。その後アリストテレスは同心天球説に依拠しながら,階層構造的に秩序づけられたコスモスとしての宇宙論を完成させた。そしてアリストテレスの宇宙論は,古代末期にプトレマイオスの練りあげた離心円・周転円の天文学によって部分的に修正を受けながらも,その後2000年近くもの間,ローマ,アラビア,ヨーロッパへと受け継がれながら,つねに支配的な地位を確保することになる。…

【三段論法】より

…アリストテレスによってほぼその全体が与えられ,中世を通じて洗練された論理学の体系は,現代論理学に対して伝統的論理学と呼ばれているが,三段論法はその主要部門であり〈二つの前提命題から一つの結論命題を得る推論〉と要約される。伝統的論理学においては,おもに〈すべてのabである(Aabと略記)〉〈或るabである(Iabと略記)〉〈いかなるabでない(Eabと略記)〉〈或るabでない(Oabと略記)〉という4種類の命題――ここでa,bはなんらかの事物の集まり,集合を表すものとする――が取り扱われている。…

【詩学】より

…そのような意味での今日における詩学とは,文化の,あるいは文化の創生にかかわる構造,あるいは〈内在的論理〉とでもいうべきものの解明の学になっているといってもよかろう。 ヨーロッパにはアリストテレス以来の詩学,あるいは文学上の創作論の伝統があったが,20世紀初めのロシアにおいて,それとは直接的・具体的な影響関係はもたずに,まず文学作品を一つの言語世界としてとらえ,その言語(表現)のさまざまなレベルでの〈手法〉と構造の統合的研究から作品を解明しようとする,フォルマリストたちのまったく新しい視座からの〈詩的言語〉あるいは言語の〈詩的機能〉の研究が興った。【編集部】
[アリストテレス詩学の伝統]
 今日,一つの著作として伝わるアリストテレスの《詩学》(原題はperi poiētikēs(詩について))は,当時アリストテレスがギリシア悲劇(具体的には《オイディプス王》など)やギリシア叙事詩(具体的には《イーリアス》《オデュッセイア》など)を念頭において,一種の文学論あるいは創作論を学徒らに講義していたものが,その講義の覚書,あるいは聴講者の筆注が残り,26章からなる一つの著作物となったものといわれる。…

【自然学】より

…古代ギリシアでは早くもイオニア学派が神話的解釈に満足せず,自然について独自の原理的な考察を行ったことが知られている。だが学問としての自然学を確立し,後世に巨大な影響を及ぼしたのはアリストテレスである。彼は学問全体を,それぞれ理論,実践,制作にかかわる三つの部門に分類し,自然学を形而上学および数学とともに理論的部門に位置づけた。…

【進化論】より

…エンペドクレスは,動物の体のいろいろな部分が地中から生じて地上をさまよいながら結合し,適当な結合となったものが生存して子孫を残したとのべた。またアリストテレスとともにプラトンの弟子であったスペウシッポスも,生物が単純なものから複雑なものに進み,ついに人間を生じたとしている。これらの考えは,民間伝承と哲学が結びついたにすぎないともみられるが,また他方,造物主の観念に束縛されない自由性をもつ点で評価されることもある。…

【正義】より


[意義]
 人間の行為を,正しい,正しくないというように判断するための基準が正義である。正義の古典的定義として有名なのは,ローマ法学者ウルピアヌスの〈各人に彼のものを与えんとする恒常的意思〉という定義であるが,さらにその源をたどればアリストテレスの正義概念にさかのぼる。アリストテレスは,正義とは均等的,〈価値に相応の〉ということであり,不正とは不均等的,〈過多をむさぼる〉ことであるとした。…

【生気論】より

…すなわちシェリングは〈自然は目に見える精神,精神は目に見えない自然である〉と主張し,ロマン派の思想家はさらに民族精神や世界精神についても語った。 狭義の生気論は,自発的活動力を持つ生物にのみ生気を認める立場で,アリストテレスは植物,動物,人間にそれぞれ特有の魂(プシュケー)があるとして生物の諸機能を説明し,これが長い間生物研究の主流であったが,17世紀になってデカルトは人間にのみ魂(アニマ)を認め,植物も動物も人体も機械と同様の物体にほかならないとした。こうして生物も機械論的に説明されるようになると,これに反対して生物体についても生気論が主張された。…

【政治学】より


[政治学の歴史]
 政治についての体系的な研究は,紀元前5世紀のギリシアにおいてはじまった。ソクラテスにおける〈善きポリスと市民〉の問いにはじまった政治についての学問は,プラトンにおける理想のポリスの探求,アリストテレスにおける経験的なポリス国制の比較研究へと発展していった。しかし,ポリスの共同体的特質を反映して,そのいずれにおいても,政治の規範的研究と経験的研究は直接的に結合し,したがって政治学はまた〈善き市民〉としての生き方を説く倫理学でもあった。…

【精神】より

…そのため,デカルト以後の近代初期の哲学においては,これら異なる秩序に属する心身がどのような関係にあるのかという問題をめぐって,相互作用説,平行論,機会原因論,予定調和説など多様な仮説が提出されることになる。 一方,アリストテレスやその流れをくむ中世スコラ哲学,そして近代においてもライプニッツらは,精神を超自然的秩序に属する実体としてではなく,できるかぎり自然の内部でとらえようとし,したがって心身の関係も連続的ないし階層的に考えようとする。アリストテレスは身体を質料(ヒュレ),精神をそこに宿る形相(エイドス)と見るが,これは現代風に言いかえれば,精神を身体に宿る高次の機能と見るということになろう。…

【生物学】より

…あらゆる科学と同じく,生物学の起源も,実用と知的好奇心との両方に求められる。採集,狩猟,農耕,原始医術などにおける実地の知識は,原始時代から積み重ねられてきたはずだが,学問として体系化した最初の代表的人物はアリストテレス(前4世紀)であった。ガレノス(2世紀)はさらに医学の面から,解剖学およびこれと表裏一体のものとしての生理学の方向を確立した。…

【生命】より


[古代,中世の生命観]
 宗教や迷信,あるいは神話や伝承にもとづく生命観は別として,科学的知識を基盤とした生命観の最初は,古代ギリシアの自然哲学にもとめられる。アリストテレスはその頂点に立つものであり,しかも後世にながく影響を及ぼした。かれは生命現象を,可能態である質料(ヒュレ)が現実態である形相(エイドス)として実現される過程として理解し,それは3種類の霊魂によって営まれるとした。…

【西洋哲学】より

…ここでは,西洋のこの哲学知の基本的概念装置を検討し,この知の本質的性格と,それを原理に形成された西洋文化の特質を洗い出してみたい。
【自然(フュシス)と形而上学(メタフュシカ)】
 ギリシアの古典時代にソクラテスやプラトン,アリストテレスらの思想のなかで生まれ形をととのえたこの〈哲学〉と呼ばれる知は,当時のギリシア人の一般的なものの考え方に対していかなる関係にあったのか。それを昇華し純化するものであったのか,それともそれとはまったく異質のものであったのか。…

【善】より

…道徳的善をある独立の観念的実在とみる見解は,〈善のイデア〉を探究したプラトンに始まり,新プラトン主義を経て,最高の自体的善=最高善としての神という中世哲学の形而上学的概念において,そして近代以降にも神学的倫理学において認められ,M.シェーラーやN.ハルトマンの価値倫理学にもその影響が認められる。 総じて古代ギリシアにはさらに,幸福をいっさいの本性的活動の究極目的とみなす考え方があり,そこからアリストテレスは道徳的善をに即しての人間の魂の活動として把握したが,この種の見解はエピクロスの節度ある賢明な快楽主義とストア学派の厳格な道徳哲学という両方向において展開された。17~18世紀のイギリス,フランスの啓蒙思想において道徳的善を世俗的な感覚主義的人間観に基づいて功利性に還元しようとする試みがなされ,この方向は功利主義の立場に受け継がれた。…

【想像力】より

… こうした心的能力への注目は,西洋では古代ギリシアにまでさかのぼる。例えばアリストテレスは,感覚や理性的思考と並んで,〈表象phantasia〉の存在を認めていた。〈表象〉においては対象が現前しないから,それは感覚とは異なるが,またそれはいつでも自由に思い浮かべられるという点で,思考とも異なる。…

【存在論】より

…ギリシア語の〈在るものon〉と〈学logos〉から作られたラテン語〈オントロギアontologia〉すなわち〈存在者についての哲学philosophia de ente〉に遡(さかのぼ)り,17世紀初頭ドイツのアリストテレス主義者ゴクレニウスRudolf Gocleniusに由来する用語。同世紀半ば,ドイツのデカルト主義者クラウベルクJohann Claubergはこれを〈オントソフィアontosophia〉とも呼び,〈存在者についての形而上学metaphysica de ente〉と解した。…

【多値論理学】より

…そして,真でもなければ偽でもない中間の真理値は存在しないというのが論理学の常識であろう。しかしながら,アリストテレスもすでに指摘しているように,まだ起きていない未来のことがらについては,この原理,つまり二値の原理は必ずしも成り立たないように思われる。実際,未来のことまでその真偽があらかじめ定まっているとするならば,いわゆる決定論(あるいは宿命論)を暗黙のうちに認めてしまうことになる。…

【力】より

…自然現象における力として注目すべき最初の理論的発想は,擬人主義的な〈愛(引力)〉と〈憎(斥力)〉であろう。ギリシアでは古くエンペドクレスが,物質混成における支配原理としてこの2力を立て,プラトンは相異なるものどうしの間の引力を,アリストテレスは逆に相似るものどうしの間の引力を措定している。古代中国でも《周易参同契》など錬金(丹)術文献に同様の着想が登場することからもわかるように,こうした物質どうしの選択的な〈親和性〉もしくは〈親和力(引力)〉という概念は,その逆も含めて,錬金術的な自然学の中で永く生き続ける。…

【手相学】より

… 古代ギリシアではピタゴラスが手相に関心を示したとされ,アナクサゴラスは手相術を教授している。アリストテレスも長命の人の手掌には直交する2本の線条か1本の線があるが,短命の人のは直交していないと述べる(《動物誌》第1巻)。彼の著作とされる手相の研究もあるが,信をおけない。…

【哲学】より

…生成し消滅し流転する多様の存在からなる感性的世界を超えて,不変恒常の〈真実有(ウシアousia=実体)〉であるイデアが求められ,このイデアとしての善や美を仰ぎ見ながらわれわれの魂を善美にととのえ,またこの世を善く美しく調和あるものとすることが,プラトンにおける〈愛知(哲学)〉の究極の目標であった。アリストテレスが求めたものもまた,真実有としての〈エイドス(形相)〉の探究であった。 このようなギリシアの哲学は,やがて紀元後のローマ時代に,キリスト教がその教理を形成する際に有力な手がかりとなり,教理の中へ採り入れられた。…

【同一性】より


[思考の成立条件・規則としての同一性]
 何事かについて考える場合,そもそも,そのこと,ないし,ものが一定のものとして根本に置かれていなければ考えそのものが混乱におちいって成立しなくなる。このような観点から,同一性を真なる思考の成立のために欠くことのできない形式的条件とし,矛盾律とならぶ論理学の根本規則としての同一律によって要請される特性とする見方がアリストテレス以来一貫して存在している。アリストテレスその人においては,彼が矛盾律を時間的条件や広い意味での文脈に関係づけて定義していることからも明らかなように,同一律,矛盾律は,真なる思考のための形式的規則であると同時に,実在の構造そのものにもかかわるものと考えられていた。…

【認識論】より

…これらの言葉が広く用いられるようになったのは19世紀も半ば以後のことであるが,知識をめぐる哲学的考察の起源はもちろんそれよりもはるかに古く,たとえば古典期ギリシアにおいてソフィストたちの説いた相対主義の真理観にはすでにかなり進んだ認識論的考察が含まれていたし,ソクラテスもまたその対話活動のなかで,大いに知識の本質や知識獲得の方法につき論じた。
[プラトン,アリストテレス]
 こうして深められた認識論的な問題意識に体系的な表現を与え,その後の展開の方向をさだめたのがプラトンである。彼は人間の知的な営みを〈知識epistēmē〉と〈思いなし(臆見)doxa〉という二つの種類に分けて考察した。…

【発生学】より

…発生の過程は,すべての多細胞生物において起こるから,発生は,生物のもつ普遍的な現象の一つであり,したがって,それを研究する発生学は,生物学の中で一つの大きな基本的な位置を占めている。
[歴史的な変遷]
 動物学のあらゆる他の分科の例にたがわず,発生という現象を初めて体系的に記述したのはアリストテレスで,《動物発生論》という書物が残されている。しかし,メカニズムの追究を目的として発生を研究する学問が盛んになり,発生学と呼ばれる分野が確立されるようになったのは,19世紀の後半のことであった。…

【美学】より

…だが諸文化のなかで美についての学問的探究をいちはやく展開したのは古代ギリシアであり,以来美学的思想の主潮はやはり西欧に流れてきたとみなければならない。 美のイデアを説いて美の哲学の基を築いたプラトン,悲劇を論じた《詩学》によって芸術学の始祖となったアリストテレス,はじめて独立の美論をまとめたプロティノス,ローマにおいては修辞学上の著作をもつキケロおよびクインティリアヌス,古代末期から中世に移れば神学的美論を説くアウグスティヌスやトマス・アクイナス,ルネサンスでは各種の美術論や詩学を述べる美術家や文人たち,これらはいずれも深く沈潜して傾聴すべき人々である。近世に入るや感性に対する新たな照明と相まって17世紀から18世紀前半にわたり美学成立の機運が生じた。…

【物質】より

…デモクリトスの原子論では,原子は感覚的性質をもたずに,容器としての空間のなかにあって,ひたすら運動をしていると考えられている。アリストテレスでは,真空が否定されたところから容器としての空間概念が存在せず,物質は,基体に熱/冷,湿/乾という四つの性質のうちから対立2項を除く二つの性質を加えることによって,土,水,空気,火の四つの原質が生まれ,その四つの原質の配合が万物を構成する,という物質観のなかで理解されていた。そして一面では質料hylēと形相eidosとによって物質を説明する形をとった。…

【分類】より

…天では恒星天と日,月,惑星の特殊な動きが注目されて諸天(球)に分けられたが,地は陸と海のほか動物,植物,鉱物ないし生命のあるものとないものという分類がなされた。 西洋で分類の基礎をつくったのはアリストテレスで,おもに動物について分類体系をつくり(図1),その弟子のテオフラストスが植物分類を試みた。ローマ時代の大プリニウスの《博物誌》は天,地,人にわたっての総括の試みである。…

【ペリパトス学派】より

…逍遥学派ともいう。プラトンが遊歩しながら講義した習慣に由来する名で,本来アカデメイア出身のアリストテレスらを指したが,以後はもっぱらアリストテレス創立のリュケイオン校の人々を総称する呼名となった。2代目学頭テオフラストス,3代目ストラトンのもとでとくに自然学研究が継承・推進され,しだいに創立者の教説から遠ざかって即物的傾向を強めていくが,前70年ころの学頭アンドロニコスAndronikos以来アリストテレス研究も復活する。…

【弁証法】より

…そこでは,仮設から出発して原理へと上昇する途と,原理から下降する途とが方法論的に区別されてもいる。アリストテレスにおいては,プラトンにおける下降の途ともいうべきもの,つまり,原理から出発する論証的推理が第1位におかれ,弁証法はエンドクサendoxa(一般的に承認されている意見)から出発して原理そのものの設定を図る学理的一手法として第2位に置かれる。しかし,第3位の争論的推理や第4位のパラロギスモスparalogismos(幾何学などのごとくその学問に固有の前提から出発するもの)よりも上位に位置づけられていることに留意を要する。…

【ミメーシス】より

…この概念は,自然界の個物はイデアの模像mimēma,mimēseisであるとするプラトン哲学の考え(《ティマイオス》)に由来するが,さらにさかのぼれば,数と個物の関係についてのピタゴラス学派の思想にその原型がある。アリストテレスはプラトンからこの概念をひきついだが,芸術は模倣の模倣であり現実世界よりもさらに真理から遠ざかるものであるとするプラトンの考えをしりぞけて,模倣こそ人間の本然の性情から生じるものであり,諸芸術は模倣の様式であるとした(《詩学》)。アリストテレスによれば,詩は行動の模倣で,悲劇はより善き人間の行動を,喜劇はより悪しき人間の行動を模倣することによって作られるとされ,以後,この概念は長くヨーロッパにおける芸術創作論の一つの中心となった。…

【目的論】より

…機械的原因とその結果の連関によって事象を説明する機械論に対立する。宇宙を一つの目的論的システムとみなす考え方は,神話的思考のうちにすでに広くみとめられるが,哲学の歴史においては,とりわけアリストテレスがそれを定式化するにあたって重要な役割を果たした。すなわち,彼は,質料と形相の結合からなる個物にあって,その事物の本質規定をなし実現されるべき形相がその目的因をなすと考え,さらに,この考えを宇宙全体の構成にも及ぼして,万物は最高の純粋な形相である神を究極目的として生成展開すると考えたのである。…

【錬金術】より

…錬金術の一種の〈技術百科事典〉というべき著作を書いた彼の証言によると,すでにより古い著作家たち,いわゆる〈偽デモクリトス〉やユダヤ婦人マリアなどの錬金術師像が浮かび上がり,例えば偽デモクリトスの錬金術書が前3世紀ごろに書かれたものと考えられることからすると,いわゆる〈初期ギリシア錬金術師たち〉は,前3世紀から後7世紀にかけてギリシア語で著作した人たちだったことがわかる。 彼らの金属変成の理論は,物質変成の理論を唱えるデモクリトス(前5世紀)の原子論や,アリストテレス(前4世紀)の元素観から採られたものである。また,実際的な金属変成の職人であり神秘思想家でもあった錬金術師たちが注目したのは,金属の色の変化であった。…

【論理学】より

…例えば,集合に含まれる〈もの〉を顧慮しないで,集合相互の関係を考察する論理学は集合算と呼ばれる。アリストテレスが樹立した無様相三段論法の体系は,集合算のなかに吸収される。〈もの〉として命題だけを考え,命題が属する2種類の集合――真な命題の集合と偽な命題の集合――を考え,その間の関係を考察する論理学は命題論理学と呼ばれる。…

※「アリストテレス」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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