翻訳|Altaic
トルコ語などチュルク語族の諸言語,モンゴル語などモンゴル語族の諸言語,満州語などツングース語族の諸言語の総称。これらの諸言語が互いに親族関係にあってアルタイ語族をなすとの説が有力で,さらに朝鮮語や日本語をも含めた親族関係が問題にされることがある。分布地域は広く,一部で重なり合いながら東ヨーロッパからシベリアに及ぶが,チュルク諸語は中央アジアを中心に東ヨーロッパ,中国西部,シベリアの南部・中部などに話されており,モンゴル諸語はモンゴル,中国の内モンゴル地方を中心に,ボルガ川中流,アフガニスタン,シベリアのバイカル湖付近などに分布する。ツングース諸語は中国の新疆ウイグル自治区,東北地方などに一部話されているが,沿海州やシベリア中部から東部にかけて分布する。話し手の人口は詳細は不明ながら,チュルク諸語が5000万以上,モンゴル諸語は300万程度,ツングース諸語は10万またはそれ以下であろうといわれている。
言語構造は互いによく類似し,ロシア語,イラン諸語,中国語など隣接の多くの言語と著しい対照を示すので,共通の祖語から分化してきた同じ系統の言語とする説が早くから主張されてきた。これらの諸言語は音韻や文法など言語構造の枠組みにおいては著しく類似しているが,構造の実質をなす形態素や基礎的な語彙に関しては,借用の疑いのあるものを除くと,祖語から受け継いできたと認めうる共通のものはきわめて少ないのが実情である。基礎的な語彙の中では代名詞が類似している点が注意をひくが,数詞はそれぞれの語族に独特であり,親族名称,人体部位の名称などには,形と意味の両面で類似する語はほとんどない。アルタイ諸語の場合,歴史的に常に密接な交渉をもち互いに影響し合ってきており,構造が似通っているうえに規則的で単純なので,文法要素をも含めて形式の借用は容易に行われえたであろう。構造が規則的で不規則形に乏しいことは,親族関係の証明には不利であり,著しい相互影響のもとで歴史的変遷をとげてきたことが問題をいっそう複雑にしている。親族関係を主張する学者の間でも,3語族の系譜的関係については,特にモンゴル語族といずれの語族とをより近いとみるかをめぐって一致した意見があるわけではない。また,〈アルタイ語族〉の中に朝鮮語を加えあるいは日本語を含める説があり,またフィンランド語やハンガリー語などのウラル語族との親族関係を仮定して〈ウラル・アルタイ語族〉をなすとの説もあるが,いずれも証明の確立した学問的な定説であるわけではない。
共通の特徴としてあげられるおもなものは次のようである。(1)単語の音韻構造は比較的簡単で,単語の始めに子音群が現れることはない。(2)ṟで始まる単語がない。ṟで始まる外国語の単語を借用する際にはlやnなどに置き換えた形や母音を補った形で受け入れるのが普通である。(3)母音調和の現象がみられる。母音が強母音,弱母音の2系列に分かれて対立し,ひとつの単語(付属語との連結を含む)の内部では,いずれか一方の系列の母音のみが現れ,両者が共存することがない。言語によってはどちらの系列の母音とも共存しうる中性母音をもつことがある。トルコ語の例--強母音a,o,ı,u,弱母音e,ö,i,ü。モンゴル語の例--強母音a,o,u,弱母音e,ö,ü,中性母音i。ツングース語族エベンキ語の例--強母音a,o,ē,弱母音ə,中性母音u,i。なお,母音の連続については例えば円唇母音など,現れ方にさらに制限がある場合がある。(4)単語の形は2音節以上であることが多い。語根が1音節でそのまま単語として用いられるものも多いが,語根が2音節以上の単語も多く,接尾辞や語尾が接合して2音節以上の形をもつ単語は圧倒的に多い。(5)単語の形態的構造はいわゆる膠着語的で,接頭辞や前置詞のような形式はなく,接尾辞の接合によって新しい語を構成し,曲用,活用などの文法現象も接尾辞や語尾の接合によって示され,後続の付属語や後置詞などとの連結によって諸種の文法機能,意味上の区別を表現する。これらの接尾辞,語尾,付属語は母音調和の規則に従うので,強母音,弱母音の系列の母音の違いによる交替形があるのが普通である。例えばトルコ語では,at(馬),ev(家)に対してat-lar(馬,複数),ev-ler(家,複数);at-tan(馬から),ev-den(家から);at-ım(私の馬),ev-im(私の家);at-ım-dan(私の馬から),ev-im-den(私の家から);at-lar-ım(私の馬,複),ev-ler-im(私の家,複);at-lar-ım-dan(私の馬(複)から),ev-ler-im-den(私の家(複)から)などのように構成する。また動詞yaz-(書く),sev-in-(喜ぶ。sev-〈愛する〉)から派生する動詞語幹の接辞にはyaz-dır-(書かせる),yazdır-ıl-(書かされる);sevin-dir-(喜ばせる),sevindir-il-(喜ばされる)などのような交替形がある。なお,母音の連続に関する制限がある場合には,交替形の数がさらに多くなることがある。(6)名詞は文法的性の区別はないが,複数接辞,格語尾をとって曲用し,また所属人称語尾や所属反照語尾をとって所有や所属の関係を表現する。(7)形容詞は名詞に準じて曲用を行いうる。(8)動詞の活用体系は複雑で多くの活用形があるが,名詞に統合する連体形,述語に統合する連用形に多くの区別がある点に特色がある。(9)関係代名詞のようなものはなく,接続詞も十分発達してはいないが,動詞の連体形や連用形が主語や目的語,補語をとって従属文を導き主文との連結の役割を果たし,複雑な構造の文を構成する。(10)修飾語は被修飾語の前に立つ。(11)目的語や補語はそれを支配する動詞に先行する。(12)主語は他の成分より前に置かれ,述語は最後に位置して文を結ぶが,述語だけでも文をなすことができる。
執筆者:大江 孝男
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
東南ヨーロッパから東アジアやシベリアに至るユーラシアの広い範囲に分布する,チュルク(トルコ系)諸語・モンゴル諸語・ツングース諸語の総称。各言語グループの話者数は,それぞれ8000万人・600万人・6万人前後で,ほぼこの順に西から東へ並ぶ。これら三つの言語グループが,それぞれのなかで親族関係をもつことは明らかだが,三者がさらに一つの祖語にさかのぼれるとする説(アルタイ説)があり,この説に従えば三者はまとめてアルタイ語族とよばれる。アルタイ語族に朝鮮語と日本語を含めることもあり,まだ明らかにされていない日本語の系統問題にも関連してさまざまに議論されてきた。これら諸言語の間に著しい類型論的類似性があるのは明白だが,それだけで親族関係があることにはならず,音韻対応が認められる必要がある。しかし,アルタイ説のなかでこれまで示された音韻対応例は,十分説得力をもたない。こうした状況下で,親族関係について中立的なアルタイ諸語という用語が用いられている。
出典 山川出版社「山川 日本史小辞典 改訂新版」山川 日本史小辞典 改訂新版について 情報
…つまり日本語は〈膠着(こうちやく)的〉性格(膠着語)をもっている。これらの特徴は,朝鮮語(例:na‐nɯn〈私は〉 chɛ‐gɯl〈本を〉 ilgɯo〈読みます〉)やモンゴル語,トルコ語(例:oku‐t‐ul‐dı〈よま・せ・られ・た〉)などアルタイ系言語(アルタイ諸語)と共通している。 また日本語は複雑な敬語法にしばられていて,普通形〈たべる〉が尊敬形〈おたべになる〉のように形態的に変化する。…
…その後,おびただしい研究の発表があるが,それらはすべて数次にわたるアジアの諸地方の研究旅行および滞在の成果である。著述のうち有名なものは,《カルムイク語辞典》《朝鮮語文法》《朝鮮語語源辞書》などであるが,学説として最も注目すべきは,アルタイ諸語の系統論である。たとえその学説にはいろいろの反対があろうとも,その歴史的地位は長く記憶されるであろう。…
※「アルタイ諸語」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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