インド・イスラム文化(読み)インド・イスラムぶんか

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

インド・イスラム文化
インド・イスラムぶんか

インドにおけるイスラム文化の形成は,デリー・サルタナットの時代に始る。これ以前,早くも8世紀初頭にウマイヤ朝が派遣したムハンマド・イブヌル・カーシムのアラビア軍はインダス下流域に侵入し,また 11世紀以降には,トルコ系ガズニー,ゴール両朝の軍隊が北インドに侵入したが,インドへのイスラムの浸透という点では,こうした軍事的要因よりも,ムスリム商人やスーフィー (→スーフィズム ) の活動という非軍事的要因のほうがより重要である。西方のイスラム世界ですでに活動を始めていたスーフィー指導者たちはその後継者や弟子を派遣してインドでの活動を開始した。一部はトルコ系部族のインド侵入以前からすでに活動を行なっていたが,宗教としてイスラムがインドで社会的影響力をもったのは,デリー・サルタナット成立以後のことである。この時期に組織的活動を活発に行なったのは,チシュティー派とスフラワルディー派で,特に前者はアジメールやデリーのスーフィー聖者の聖廟を中心に,ムガル以前のインドで最大の影響力をもつ教団となった。これらスーフィー教団では,スーフィー指導者が拠点をつくって組織的活動を行い,その死後は聖者の墓を中心に,モスクその他の付属施設がつくられ,いわゆるダルガー (廟) が成立し,そのダルガーを中心に集落が発達した。スーフィー指導者たちは教団の発展のため世俗権力の財力をときとして利用し,他方,世俗権力者は,スーフィーの民衆への社会的・政治的影響力を警戒しながらも,彼らを尊敬し,その権威にあやかる姿勢をとった。インドにおけるイスラム建築の典型はこうしたスーフィー聖者のダルガー内域および周辺の建物にみられる。デリー・サルタナット末期,シェール・シャーおよびムガル帝国初期,中期の皇帝または大官たちの壮大な廟墓建築,ならびに宮廷建築,さらにはムガル絵画 (ミニアチュール) に,そうしたインド・イスラム文化の独特の様相がうかがえる。

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日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

インド・イスラム文化
いんどいすらむぶんか

インド在来の文化と、外来のイスラム文化とが融合した文化。初期には海路から、本格的には11世紀以降に中央アジアから入ったイスラム教徒の航海者や征服者が、西アジアで形成されたイスラム文化をインド亜大陸にもたらした。このイスラム文化とインド土着の文化が相互に作用しあって、インド・イスラム文化が形成された。その特色は、スーフィズム(イスラム神秘主義)、言語、美術面などにみられる。[加賀谷寛]

スーフィズム

中央アジアからスーフィー聖者たちが、とくに13世紀以降インドに入り、布教活動を行い、唯一神との合一というスーフィーの目的がヒンドゥー教のバクティ(神への絶対的帰依(きえ))運動と共通する精神文化を生んだ。デリー・サルタナット期では、チシュティー教団とスフラワルディー教団が勢力を伸ばした。とくに前者の系統の聖者シェイク・ムイーヌッディーン(?―1236)、シェイク・ニザームッディーン・アウリヤ(?―1323)は、北インドの支配者をはじめ民衆の間に大きな精神的感化を与えて崇敬された。時代が下ってムガル帝国下では、新しくナクシュバンディー教団、カーデリー教団が主要な位置を占めた。デリーでは1857年の「インドの大反乱」(セポイの反乱)に至るまで、これらの教団が修行者の道場をもち、師のもとに入門者が群がっていた。スーフィーの聖者廟(びょう)が各地にできて、イスラム教徒(ムスリム)だけでなく、異教徒のヒンドゥー教徒までも参詣(さんけい)に訪れた。その聖者の忌日(ウルス)には市(いち)が立ってにぎわった。これら正規の教団のほかに、カランダル、マラングなどとよばれる不正規の行者が各地を遊行(ゆぎょう)していた。[加賀谷寛]

言語

デリーをはじめインドの各地に成立したムスリム王朝の宮廷言語はペルシア語であったが、これと北部インドの諸方言との接触で、広域にわたる共通語ウルドゥーUrd語が形成された。16~17世紀にはデカンのゴルコンダ、ビジャープールの宮廷でウルドゥー文学が発展し、18~19世紀には北インドのデリー、ラクナウで頂点に達した。文学史のうえで、ミール、ガーリブ、イクバールの詩が古典的である。[加賀谷寛]

美術

デリー・サルタナット時代、ムガル帝国時代に建てられた王宮、都市の壮大なモスクとともに、アグラのタージ・マハルのような廟建築がインド・イスラム文化をよく表している。絵画では、イランの絵画からの影響で、ミニアチュール(細密画)に独自の画風を生み出した。[加賀谷寛]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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