イタリアの初期ルネサンスの画家兼モザイク師。ウッチェロ(鳥の意)は通称で、本名をパオロ・ディ・ドーノPaolo di Donoといい、フィレンツェに生まれ、同地に没した。彼はとくに透視画法の研究者としてよく知られており、イタリア15世紀の著名画家の一人にあげられるのは、独自のやや誇張された透視画法の運用によるといえる。彫刻家ギベルティの工房の助手から出発するが、ここでの修業(1407~1414/1415)を経て、1425年ベネチアに赴き、サン・マルコ大聖堂でモザイクの制作に従事した。1431年初頭フィレンツェに帰り、建築家ブルネレスキ、彫刻家ドナテッロあるいは画家マサッチョといったこの時代の先駆者たちの業績に示された透視画法や解剖学の研究成果を手掛りとして、装飾的かつ写実的な絵画表現を意図していた。その意図が完全に実現されたとはいえないが、彼の大胆な試みの事例とされるのが、ベネチアから帰って着手したフレスコ画『ノアの大洪水』そのほかの連作(1431~1450年。フィレンツェ、サンタ・マリア・ノベッラ聖堂)である。この大作の構図および人物像には、それまでに蓄積された彼の手法が端的に示されている。これと前後して『傭兵(ようへい)隊長ジョン・ホークウッド騎馬像』(1436年。サンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂)を制作するが、大理石騎馬像にかわるものとして、視覚的な効果に苦心の跡をとどめている。ウッチェロの代表作『サン・ロマーノの戦闘図』の三部作(1455~1460年。ロンドン・ナショナル・ギャラリー、ルーブル美術館、ウフィツィ美術館)は、前記『ノアの大洪水』などの大作より5年遅れて着手された。これらの作品では透視画法的に整えられた前景の人馬の細部描写と幻想的な背景が、とくに人目をひくが、この組合せによって超現実的な表現効果が強められている。1465年にはウルビーノに赴くが、晩年の『狩猟図』(オックスフォード、アシュモリアン美術館)はそのおりに領主フェデリコFederico da Montefeltro(1422―1482)から委嘱された室内装飾の一部とみなされている。この魅力ある画面には人物、動物の的確な描写、透視画法に則した空間表現など優れた成果が示されている。
[濱谷勝也]
イタリアの画家。本名パオロ・ディ・ドーノPaolo di Dono。ウッチェロ(〈鳥〉の意)は通称で,バザーリは,彼が動物,とりわけ鳥を好んで描いたためつけられたと伝える。フィレンツェ生れ。ギベルティの弟子としてフィレンツェの洗礼堂北側門扉の仕上げに携わり,1415年に医薬師組合に,24年に聖ルカ画家組合に登録される。25-30年ころにベネチアに滞在し,サン・マルコ大聖堂のためにモザイク(現存せず)を制作したことが知られる。31年フィレンツェに戻り,長期にわたり大聖堂のために《ジョン・ホークウッド騎馬像》(1436),四預言者の頭像の壁画(1433)や,クーポラのステンド・グラスのカルトン(下絵)などの制作を行う。45年にはパドバに行き,同地のビタリアーニ家に一連の巨人像をキアロスクーロで描いたとされるが現存しない。67-69年ウルビノに息子とともに滞在し〈聖餅の奇跡〉を主題とするプレデラ(祭壇画基部の板絵)を制作。フィレンツェで没。上記以外の作品には,フィレンツェのサンタ・マリア・ノベラ教会の回廊に描かれた旧約伝の壁画,メディチ宮の一室を飾った三連作《サン・ロマーノの戦》(1456)などがあげられる。初期の画風は,当時流行の曲線的形態,引き伸ばされた姿態などを嗜好する国際ゴシック様式をいまだとどめているが,やがてマサッチョ,アルベルティらの革新的芸術や理論に触れ,遠近法による合理的空間に記念碑的人物像を配するルネサンス的造形感覚を示すようになる。彼も初期ルネサンスの美術家たちと同様に,あるいはそれ以上に透視図法の探究に熱中する。しかし実作にあたっては,他の画家たちとは異なり,知的遊戯と言えるほどにそれを誇示し,固有色を無視した賦彩と相まって,幻想的で装飾的な画面を作り出した。晩年の《夜の狩猟》(1460ころ)では,さらに装飾性を強め,再びゴシックの世界に戻っている。
執筆者:生田 圓
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