改訂新版 世界大百科事典 「ウリ」の意味・わかりやすい解説
ウリ (瓜)
cucurbit
ウリは広義にはウリ科に属する栽培植物(ウリ類)やその果実の総称であるが,狭義にはマクワウリ,メロン,シロウリ,キュウリなどを含むキュウリ属の果実を指す。ウリ類の果実は,多肉・多汁な果肉を有するものが多いので,食用としての利用価値が高い。ここでは広義のウリ類を中心に述べる。
ウリ科Cucurbitaceaeの植物
双子葉植物。ウリ科は野生種を含めて約100属850種があり,熱帯から温帯にかけて分布するが,高温で日照時間の長い乾燥した気候の地域に多い植物群である。日本にはカラスウリなど5属14種が自生する。大部分の種は巻きひげをもったつる性の多年草または一年草である。葉は単葉で掌状脈をもったものが多いが,複葉になるものもある。巻きひげは托葉起源と考えられており,物にふれると刺激を受けてかなり急速に湾曲生長して巻きつく。花は一日花の虫媒花で,ほとんどのものは早朝に咲き午後には閉じるが,ユウガオ属やカラスウリ属のように夕方に開いて翌朝までに閉じるものもある。性表現型には雌雄両全株型から雌雄異株型まで分化がみられ,そのなかで雌雄異花同株型が最も一般的である。メロン類には両性花と雄花を同一株につける雄性雌雄両全株型が多い。萼,花冠は5数性で,花冠は多くは合弁花冠となるが,離弁のものもある。おしべは3~5本で,そのうち1個の葯は1室,他の2本あるいは4本の葯は2室で湾曲し連合する。子房は下位で多くは3室があり,側膜胎座に多くの胚珠をつけるものが多いが,まれに少数のものがある。果実は液果状で,ふつうは裂けないが,ゴキヅルのように中央で横にふたをとるように裂けるもの,テッポウウリのように熟して果実が柄からはなれると,内部の果液とともに種子を射出するものもある。
ウリ類の果実の形,色,果肉の性質などは,メロン類,カボチャ類,それにヒョウタンに見られるように変異に富み,ときには同一種でありながら全然別物に見えることもあるし,利用のしかたがまるで異なることもある。食用とされるウリ類の果実には苦みのないものが多いが,これら栽培種の祖先にあたるものやあるいは同属の近縁な野生種の果実は,すべてひどく苦い。この苦味物質はククルビタシンcucurbitacin類である。遺伝的には苦いほうが苦くないものに対し優性で,1対の遺伝子で支配されるが,メロンのように補足遺伝子が関与している場合もある。種皮は堅く,野生種では果実が動物に食べられることによって散布される。
ウリ類の利用
果実をそのままサラダ,漬物,煮物などにしたり,ユウガオ(ユウガオの果肉を細長く切って乾燥させたかんぴょう)やメロン,キュウリの果肉を乾燥して食用にするという野菜としての利用と,可食部の80~90%を占める甘い果肉や果汁を賞味する果物としての利用が最も普通である。カボチャ類は,果肉にデンプンや糖が多量に蓄積されるため,アメリカ・インディアンは主食として利用していたが,果肉が主食として利用される例は特異で,他の植物群にはほとんど見られない。種子には胚乳がないが発達した子葉に脂肪分の高い養分が蓄えられているので,以前はナッツとして食べたり,粉末にしてスープに入れたり,食用油や灯油をとったりしていた。野生のスイカの果肉は苦いので,スイカはまず種子が食用になったのではないかといわれている。熱帯ではウリ類の若い茎葉や花蕾(からい)を野菜としているし,日本でもカボチャ類のそれは野菜とされたことがある。また薬用にされるものも多く,利尿,催吐,鎮痛,強壮,寄生虫駆除,解熱などに効果があるといわれている。ヒョウタン,カボチャ,ヘチマの成熟果は,日常生活の容器や用具として世界各地で広く利用されている。なかでもヒョウタンは容器としての用途も利用地域も広いし,ウリ類のなかでは最も古くから栽培されていたらしい。
ウリ類の利用の歴史
野菜や果物,生活用具として広がったウリ類の利用の歴史は,栽培植物の中で最も古いものの一つである。ヒョウタンの遺体は,南アメリカのペルーでは前1万3000-前1万1000年,タイでは前1万-前6000年,エジプトでは前3500-前3300年の遺跡から,そして日本でも前8000-前7500年の縄文早期の鳥浜貝塚などの遺跡から発掘され,アフリカ原産と推定されるこの植物が古くから新旧両大陸で利用のあったことが確認できる。食用とされるマクワウリは原産地から離れた日本でも,水田農耕開始とほぼ同じ時期,前200-前100年の弥生前期の遺跡から種子が発掘されている。この弥生前・中期の遺跡からマクワウリやシロウリに交ざって,野生型に近い小粒種子が高い比率で発掘され,奈良・平安時代になるとメロンに似た大粒種子も発掘されている。また隣の中国では前100年ころの馬王堆前漢墓から発掘された軑侯(だいこう)婦人の胃袋中に,138粒ものマクワウリの種子が入っていた。このような世界各地からの考古学的発掘資料によって,ウリ類の利用の歴史,原産地や伝播(でんぱ)経路,野生種から栽培種への過程が明らかになりつつある。
苦い果実をつける野生植物から,栽培植物としてのウリ類がどのように育て上げられてきたかを考えるうえで参考になるのは,日本にも見られる雑草メロンである。雑草メロンは畑やその近くのあぜ,ごみ捨場などに生えるじょうぶな半野生的な植物で,ウズラの卵からアヒルの卵大の果実をつけ,世界各地に分布している。日本では西日本の離島に多い。果実は苦く,種子には休眠性があって,発芽はふぞろいになりやすい。このような性質をもつ野生型から劣性突然変異によって苦みを失ったものが見つけだされ,さらに果実の大きいもの,果肉の厚いもの,甘みの強いもの,休眠しない種子をつける系統が選ばれ,相互に交配され現在のメロン類(マクワウリ,メロン,シロウリ)のように多様に分化した栽培種ができてきたのであろう。
→ツルレイシ →トウガン →ハヤトウリ
執筆者:村田 源+藤下 典之
民俗
ウリは,弥生時代の登呂遺跡からウリ類の種が出土しているように,古くから作られた野菜であり,《延喜式》や《和名抄》に〈冬瓜〉〈青瓜〉〈白瓜〉などの名称が見られる。山上憶良の〈瓜食めば子ども思ほゆ〉の歌のウリは,マクワウリとされる。俗に〈ウリ〉といえばマクワウリをさし,《安斎随筆》などによれば美濃国本巣郡真桑村(現岐阜県本巣市,旧真正町)に味のよいウリが生じたために〈真桑瓜〉の名が起こり,各地に広まったという。
ウリは夏の作物で,茎はつる状で,果実は中空であることから,しばしば蛇形の水神の依代(よりしろ)や夏祭の神供とされた。〈瓜子姫〉の昔話のような中空の果実から小童の誕生を説く話は,中空なものには霊が宿るという信仰に基づくものとみられている。〈天人女房〉の昔話には,天にのぼった男がウリを食べたり,ウリを横に切ってはいけないという妻の忠告を破ったために,ウリから大水がでて,二人は1年に1度だけしか会えなくなったと説く七夕起源譚(きげんたん)を伴うものがある。七夕にウリを供える風習は古代中国の《荆楚歳時記》にあり,中国から伝えられたと考えられる。《続日本紀》和銅3年(710)条に七夕に〈瓜〉を献じたとあり,平安末の《江家次第》にも七夕に清涼殿の東庭に供えられた果物に〈熟瓜〉が含まれている。現在でも,七夕には瓜畑へ入るなという俗信がある。
このほか,徳島では土用の丑(うし)の日に,瓜祈禱といって,ウリを供えて豊作を祈願する風習があった。また瓜封じといって,ウリに名まえを書いて川に流す風習もみられた。夏季は疫病などの流行する時期であるから,その前にけがれや邪悪なものをウリにたくして流し,心身ともに清浄になって災厄から逃れようとしたのであろう。とくにキュウリにはこの風習が多く行われる。
執筆者:飯島 吉晴
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報