バビロニアの天地創造物語。バビロンの主神マルドゥクのエサギラ神殿で,正月(現行暦の3~4月)元日から12日に行われた新年祭の4日目午後に祭儀文として奉納された。〈上では天がまだ名づけられなかったとき……〉で始まり,最初のエヌマ(とき)とエリシュ(上では)の2語をとってこう呼ばれる。原存在のアプスー(深淵の淡水)とティアマト(海の塩水)が混合し,そこから神々が生まれる。陽気な若い神々の騒がしさがもとで,神々が二分して戦う。原初の旧世代はキングを,新世代はエアの子,力量あるマルドゥクを将とした。後者は直接女神ティアマトを討ち,その遺体を二分して天地を創った。彼はキングから主神権の象徴〈天命のタブレット〉を奪い最高神アヌに進呈し,キングを処刑し,その血で人間を創り,神々の夫役を肩代りさせ,神々を宇宙に分封した。神々はマルドゥクのためバビロンを造営し,マルドゥクを賛美する。この神話の機能は翌5日目に行われた王権更新祭儀を基礎づける主神権の更新であり,祭儀文はアッシリアでも使われた。
執筆者:後藤 光一郎
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…次のカッシート時代には,マルドゥクを〈主〉(ベール)と呼び,この呼称を人名の一部として用いることが盛んになった。またこの頃マルドゥクを主人公とした神話(《エヌマ・エリシュ》)を作ることにより,同神を神々の王としてあがめようとする試みがバビロンの神官たちにより行われたらしいことが注目される。そしてイシン第2王朝のネブカドネザル1世(在位前1125‐前1104)の時代になって初めて王碑文などで正式に〈神々の王〉と呼ばれるようになった。…
※「エヌマエリシュ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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