ガチョウ(読み)がちょう(その他表記)domestic goose

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ガチョウ」の意味・わかりやすい解説

ガチョウ
がちょう / 鵞鳥
domestic goose
[学] Anser anser var. domestica
Anser cygnoides var. domestica

鳥綱カモ目カモ科の鳥。同科のハイイロガンをヨーロッパ、西アジアで、またサカツラガンを中国でそれぞれ家畜化したものである。したがってヨーロッパ系と中国系とに区分される。ヨーロッパ系の家畜化の歴史は古く、ナイル河畔の最古の家禽(かきん)として紀元前2900~前2200年の旧エジプト王朝時代に出現している。中国系の家畜化の歴史は不明である。ガチョウの肉質はアヒルよりすこし劣るが、肉量は多く、草や青菜などの緑餌(りょくえ)の比率が高いので肉用として飼育しやすい。ヨーロッパではわりに高く評価されて、ロースト煮込みなどにする。フォアグラはフランスでガチョウを強制肥育し、その脂肪肝をペーストにしたものである。また、卵も食用にされ、綿羽はクッションなどの詰め物に利用される。日本では飼育数は少なく、肉用としてよりも、むしろ警戒心が強いので、ペットとして番犬がわりに飼われることが多い。肉としてはシチメンチョウに押されてあまり市場に出ないが、カレー煮、うま煮などに用いる。また、ペキンダックのように焼いて皮を食べることもある。

[西田隆雄]

品種

ヨーロッパ系ではエムデントゥールーズが有名である。中国系の代表的品種シナガチョウで、アフリカガチョウはアメリカでシナガチョウとトゥールーズを交雑してつくったものである。これら2品種の雄は嘴(くちばし)の基部にこぶ状の突起があるのが特徴で、このこぶはヨーロッパ系にはみられない。エムデンは、イタリア白色種と在来白色種との交配によってドイツと北オランダで作出されたブレーメン種がイギリスに入り、イギリス白色種と交配されてできあがった品種である。雄の成鳥では体重12~15キログラムに達する白色の肉用種である。トゥールーズはフランスのトゥールーズ地方原産の灰褐色種で、エムデンよりすこし小さく、成体では喉嚢(こうのう)がよく発達する。シナガチョウは中国でつくられた歴史の古い小形肉用種で、雄の成鳥でも体重5.5キログラムにすぎない。初め観賞用としても飼われていたが、アメリカにおける小形食用ガチョウの需要の増加によって、肉用種としての地位を確立した。羽色には灰褐色と白色がある。アフリカガチョウはシナガチョウとトゥールーズ両種の特徴を兼ね備え、こぶと喉嚢がある。羽色は淡褐色で、シナガチョウのほぼ倍の大きさになる。

[西田隆雄]

飼養管理

早春から産卵を始め、1シーズンにエムデンが約20個、トゥールーズとシナガチョウは40~50個産卵する。抱卵あるいは人工孵化(ふか)によって約30日で孵化する。孵化後3週齢まで水に入れず敷き藁(わら)上で、練り餌(え)を与えて飼育する。10週齢で体重約5キログラムになる。これを食用ヒナガチョウとして出荷する場合には、その約2週間前から濃厚飼料を与え肥育する。ガチョウは環境に対する抵抗力が強いので、かなり寒い地方でも水場を柵(さく)囲いし、簡単な屋根をつければ戸外で飼うことができる。また緑餌を好むので、草地に放し、わずかな穀類、ぬかなどを夕方、舎内に入れる前に与える程度ですむ。長命なため約10歳まで繁殖に用いることができる。繁殖時には雌2、3羽に雄1羽を配し、タンパク質性飼料を餌(えさ)の約10%与える。

[西田隆雄]

民俗

古代文明地域では、ガチョウは神聖な鳥であった。エジプトでは、太陽は天空に住むガチョウが毎日産み落とす卵であると考えられ、大地の神ゲブは雄のガチョウとされ、そのガチョウの雌が太陽の卵を産むと伝える。また、テーベでは主神アモンの聖鳥として、たいせつに飼育されたという。古代のギリシアやローマでも、宮殿や神殿で神聖なガチョウが飼われており、鳥の家禽(かきん)化は、その神聖視と相互関係がある。中国でも、神前に供えたガチョウが鳴くかどうかで神意を計る習慣があった。これらの伝承は、シベリアのオスチャーク人が、春にオビ川へやってくるガンを守護する神はガンの姿をしていると伝えているような、野性のガンの信仰につながるものであろう。

[小島瓔


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改訂新版 世界大百科事典 「ガチョウ」の意味・わかりやすい解説

ガチョウ (鵞鳥)
goose

ガンカモ目に属する家禽(かきん)で,ヨーロッパ系のものAnser anserと中国系のものA.cygnoidesがある。前者はハイイロガンをエジプトで前2800年ころに家禽化したもので,主要品種としてはエムデン種Embden(ドイツ原産,白色,体重8.0~9.0kg)やトゥールーズ種Toulouse(フランス原産,灰褐色,体重9.0~12.0kg)がある。後者はサカツラガンを中国で前2000年ころに馴化(じゆんか)したものでシナガチョウと呼ばれ,くちばしの基部にこぶがあり,体重は4.5~5.5kgでヨーロッパ系の品種よりやや小型である。いずれも肉用として飼われている。長命で40~50歳に達するものもまれではない。2歳ぐらいから繁殖に供用し,雄1羽に雌3~5羽を配する。早春から産卵を始め10~15個産むと巣につく。就巣性はあるが孵化育雛(ふかいくすう)は巧みとはいえず人工孵化がよい。30日で孵化する。雛はじょうぶで,発育は家禽中で最も早い。成鳥も粗食によく耐え体質強健で飼いやすい。一般にほかに利用できない荒地や水辺に放飼されることが多い。青草を好食する。水中でなければうまく交尾できないので,陸飼いでは種卵の受精率が低下する。肉用として市場に出荷する前には舎飼いして濃厚飼料を与え肥育する。肥育したものは腹が地面につくぐらいになる。フランスでは強制肥育したガチョウの肝臓でつくった練物のフォアグラが珍味として賞用される。また軟羽は羽根布団やクッションの詰物として用いられる。昔はその翼羽が鵞ペンとして用いられたりして重要な家禽であったが,最近では肉用家禽としてはシチメンチョウなどにおされて,世界的に飼育数は減少している。ペットとして,また警戒心が強く見知らぬ人には鳴き騒ぐので警番用に飼われることもある。
執筆者:

ガチョウはニワトリと並びヨーロッパでもっとも早くから家で飼われていた。中世にガチョウ番をする女子の話が多くあり,それは民話の中に反映している。また人間に近い存在だったので古代から豊饒(ほうじよう)のシンボルとして収穫儀礼に結びつき,またさまざまの占いに使用された。例えばプロイセンのドイツ騎士団はガチョウの骨による占いで遠征を決定したといわれている。娘たちの愛の占いにもガチョウが使われた。ガチョウのまわりに娘たちが輪をつくると最初に結婚する娘のほうに走ってくるという。また娘がガチョウの骨をドアの上にかけておくと,そのドアを最初に通った男がその夫となる。逆にガチョウたちに追いかけられる娘は夫をもてないという。11月11日の聖マルティン(マルティヌス)の祝日にガチョウの丸焼きを食べるのはよく知られる風習だが,マルティンとガチョウの結びつきは,彼がトゥールの大司教に選ばれたとき身を隠したが,それをガチョウが鳴いて居場所を教えたためとか,主神オーディンにささげられた聖なるガチョウがキリスト教改宗とともにマルティンに移されたからとする説がある。マルティン祭は古くから冬の始まりとされ,そのころガチョウは脂がいちばんのっておいしい時期でもあった。聖マルティンの日のガチョウには祝福の力があるとされた。ガチョウについては,そのほか,高くとぶと火事がおこるとか,水浴びにあうと雨になるとか,羽毛が厚くなると冬がきびしいとするなどの俗信が知られている。
執筆者:


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ガチョウ」の意味・わかりやすい解説

ガチョウ
Anser anser; domestic goose, goose

カモ目カモ科。野生のガン類をおもに食肉用に改良した家禽。古代エジプトでは前3000年頃には家禽化されていた記録がある。中国か東南アジアあたりでも家禽化されていたと考えられ,ヨーロッパでも前388年にすでに飼育されていた。中国で家禽化された品種サカツラガンが原種での基部にこぶがあり,シナガチョウと呼ばれ,おもにアジアやアフリカで飼育されている。一方,ヨーロッパのガチョウの原種はハイイロガンで,おもにヨーロッパと北アメリカで飼育されている。代表品種にはツールーズ種(フランス),エムデン種(ドイツ)がある。ツールーズ種は羽色が灰色で,大型のものは原種の 3倍もの大きさになり,フォアグラで有名。エムデン種はイギリスに輸入,改良された純白品種で,市販用ガチョウの生産では基本品種の一つ。シナガチョウは羽色が淡赤褐色,肉質もよく,産卵性はガチョウのうち最も高く品種改良によく用いられる。原種が異なるが,ヨーロッパとアジアの品種を交配して多くの品種もつくられている。

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普及版 字通 「ガチョウ」の読み・字形・画数・意味

帳】がちよう(ちやう)

営のとばり。大将の陣営。〔周書、異域伝下、突厥〕可汗、恆に於斤山に處(を)り、帳東に開く。蓋(けだ)し日の出づるふなり。

字通「」の項目を見る

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百科事典マイペディア 「ガチョウ」の意味・わかりやすい解説

ガチョウ

ガンから作出された家禽(かきん)。シナガチョウはサカツラガンを,エムデン種(白色)およびツルーズ種(茶褐色)などヨーロッパ産のガチョウはハイイロガンを原種とする。形はガンに似るが体は大きく肥満している。飛ぶ力は全くない。肉用または羽毛用,愛がん用として飼われる。

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栄養・生化学辞典 「ガチョウ」の解説

ガチョウ

 [Anser anser].脊椎動物門鳥綱カモ目マガン属の鳥.野性のガンを家畜化したもので肉を食用にする.

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世界大百科事典(旧版)内のガチョウの言及

【ガン(雁)】より

…カモ目カモ科のうちのガン類Anserinaeの総称。カリともいう。ガン類は一般にハクチョウ類とカモ類の中間の大きさの鳥で,カモ科の中では最も陸上生活に適応している。マガン(イラスト),ヒシクイ(イラスト),ハイイロガン(イラスト),シジュウカラガン(イラスト),カササギガン,ロウバシガン,コバシガンなどの仲間があり,世界中に広く分布はしているが,アフリカとオーストラリアには種類は少ない。カモ類と異なって,多くのものは雌雄同色であるが,コバシガン類の中には雌雄異色のものがある。…

【家禽】より

… (1)キジ科 ニワトリ(セキショクヤケイなどをインドで約5000年前に馴化(じゆんか)),ウズラ(野生のウズラを日本で江戸時代に馴化),シチメンチョウ(ヤセイシチメンチョウを北アメリカで原住民が馴化し,16世紀にヨーロッパへ紹介),ホロホロチョウ(野生のホロホロチョウを西アフリカで馴化)。(2)ガンカモ科 アヒル(マガモを北半球の各地で馴化),ガチョウ(サカツラガンを中国で,ハイイロガンをエジプトで馴化,ヨーロッパで改良),バリケン(ノバリケンをペルーで馴化)。(3)ハト科 イエバト(カワラバトをシリア付近で馴化)。…

※「ガチョウ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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