コンニャク(読み)こんにゃく

日本大百科全書(ニッポニカ) 「コンニャク」の意味・わかりやすい解説

コンニャク
こんにゃく / 蒟蒻
[学] Amorphophallus konjac K.Koch
Amorphophallus rivieri Durieu

サトイモ科(APG分類:サトイモ科)の多年草。大形の球茎があり、走出枝を出して子球をつくる。東南アジアの原産で、作物として広く栽培され、球茎から食品のこんにゃくをつくる。葉は1年に1枚が地上に伸び出す。葉柄は太く、長さ1メートルに達し、基部は数枚の鞘状(しょうじょう)葉に囲まれる。葉身は3裂し、さらにそれぞれが1、2回、二又状に分裂したのち、不ぞろいな小裂片に分裂する。数年の栄養期間ののちに花序を形成するが、この年には葉が出ない。花序は初夏に開き、長さ約1メートルの柄に頂生する。仏炎包(ぶつえんほう)は卵形で長さ約30センチメートル、紫褐色で淡色の斑(ふ)があり、下部は筒状で緑色を帯びる。肉穂花序は、下部には密生する雌花群が、その上に密生する雄花群があり、付属体は円柱状で直立し、先はやや細まり、径2.5センチメートル、長さ30センチメートルほどで、紫褐色、悪臭がある。雌花の柱頭は3裂する。

 近縁のヤマコンニャクA. kiusianus (Makino) Makino(A. hirtus N.E.Brown var. kiusianus (Makino) M.Hotta)は日本の暖地と台湾に自生し、コンニャクに似るが、地下走出枝を伸ばさず、花序はやや小形で、付属体上に毛状の突起を散生し、雌花の柱頭は2裂する。

[邑田 仁 2022年1月21日]

食用

歴史

日本へは平安時代以前に、中国(唐)を経て伝わったと考えられる。古くは古邇夜久(こにやく)といった。鎌倉時代、禅宗寺院で点心(てんじん)に供された糟雞(そうけい)は、こんにゃくを淡醤(たんしょう)(垂れみそ)で煮たものであり、以後こんにゃくは精進料理の材料として普及した。当時の製法は、球茎を搗(つ)き砕いて餅(もち)とし、濃い灰汁(あく)に石灰を加えて煮て固めたものであったが、江戸中期に至り現在のような粉こんにゃくの製法が開発された。

 常陸(ひたち)国久慈(くじ)郡諸沢(もろざわ)村(現、茨城県常陸大宮(ひたちおおみや)市諸沢)の百姓藤右衛門(のち中島姓を許される)が、腐敗しやすく保存・輸送に堪えないこんにゃくいもの改良策を考えるうち、1776年(安永5)いもを輪切りにして乾燥させ、砕いて粉末とする方法を考案した。以後、販路は拡大し、当地は全国の中心産地となった。水戸藩では袋田(ふくろだ)村(大子(だいご)町)に蒟蒻会所を置き、江戸深川には専属の玉問屋を設けて、専売類似の仕法でこんにゃくの荒粉を全国的に販売するようになった。なお、久慈郡水府(すいふ)村(現、常陸太田市)特産の凍(しみ)こんにゃくは、薄切りにして寒夜に凍(こお)らせたもので、寛政(かんせい)年間(1789~1801)に始まると伝えている。

 現在、コンニャク栽培の中心は群馬県下仁田(しもにた)地方とされるが、この地に製粉法が伝えられたのは1876年(明治9)のことである。上州名産の砥石(といし)の行商で久慈郡を訪れた篠原粂吉(くめきち)がこんにゃく製粉の盛況を知り、下仁田在の尾沢村(現、南牧(なんもく)村)で水車利用の製粉を始め、しだいに県下に広がっていった。こんにゃくの粉(精粉(せいこ))は、必要なときに水を加えれば糊(のり)のようになり、こんにゃくをつくれる。現在ではこの方法が普通に用いられている。

河野友美 2022年1月21日]

作り方

こんにゃくは、精粉に水を加えて糊状のものにし、石灰を浸(つ)けて水酸化カルシウムを抽出したアルカリ液を加え、型に入れる、線状に突き出す、団子状に丸めるなどして湯でゆで、凝固させてつくる。こんにゃくいも(コンニャクの球茎)には、グルコマンナンが多く含まれ、これがアルカリによって凝固する。石灰水のかわりに、木灰の灰汁を使う所もある。

[河野友美 2022年1月21日]

種類

型に入れて固まらせてから適当に切り、数時間加熱したものが「板こんにゃく」、湯の中に線状に突き出したものが「糸こんにゃく」あるいは「しらたき」である。一般にしらたきは関東でよく用いられ、名のとおり色が白い。糸こんにゃくは関西が主で、突き出したもののほか、板こんにゃくを細く切ったものもある。このほか、東北地方では団子状のものも用いられる。こんにゃくに、青のり、ヨモギ、ゴマ、ユズなどを混ぜたもの、刺身用の口あたりの滑らかなこんにゃくもある。こんにゃくを冷凍し、脱水、乾燥したものが凍こんにゃくで多孔質である。工場製と天然のものがある。

[河野友美 2022年1月21日]

栄養と料理

こんにゃくいものなかには、いくらかデンプンも含まれているが、こんにゃく粉製造の過程で除かれる。主成分のグルコマンナンはほとんど消化されず、ビタミン類も少ないので、不消化物以外の栄養成分は少ない。成分の96~97%は水分で、2~3%含まれる炭水化物は消化されにくい。そのため、こんにゃくは昔から腹の「砂をとる」などといわれる。しかし、非常に消化しにくいので多量に食べることは好ましくない。

 こんにゃくはその弾力ある歯ざわりが好まれ、刺身のように切ったものを酢みそで食べたり、白和(しらあ)え、鍋(なべ)料理、汁の実、おでん、田楽(でんがく)、煮しめなどに用いられる。油とよくあい、ごま油で炒(いた)めて汁にしたものを「たぬき汁」という。こんにゃくを煮る場合、表面に塩をつけてよくもみ、水洗いしてから用いるとか、切ったこんにゃくを鍋(なべ)でから煎(い)りすると、口あたりのよい弾力が生まれるのは、こんにゃくの表面の水分が少なくなり、これが加熱されることで、こんにゃくのゲル(コロイドの固体状になったもの)が強固になるからである。また、包丁で切るより、ちぎったほうがよいといわれるのは、断面に細かい凹凸を入れ、調味料をつきやすくするためである。

[河野友美 2022年1月21日]


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改訂新版 世界大百科事典 「コンニャク」の意味・わかりやすい解説

コンニャク (蒟蒻)
elephant foot
Amorphophallus rivieri Durieu var.konjac(K.Koch) Engl.(=A. konjac K.Koch)

東南アジア大陸部に分布し,中国や日本では,大きな地下の球茎を食用や薬用にするため栽培されるサトイモ科の夏緑多年草。地下に直径30cmをこえることもある大きな球茎を有し,それより1本の高さ50~200cmの茎のように見える円柱状の葉柄を直立させる。葉身は葉柄頂で3裂し,さらに1~2回分裂し,それに多数の小葉をつけ,やや水平に展開する。花は数年をへて大きく生長した球茎から初夏に出,暗紫色で20cm以上にもなる仏焰(ぶつえん)苞につつまれた肉穂花序の基部に雌花,次いで雄花が密集してつく。花序の先端部は太い付属体で終わる。花時には葉がないので異様である。

 球茎の発育にしたがって,球茎組織中に存在する多数のマンナン細胞内に炭水化物の一種であるマンナンmannanが蓄積し,マンナン粒子を形成し,細胞は肉眼的な大きさに発達する。球茎は食用こんにゃくに加工されるほか,食品加工の原料や工業用にも用いられる。球茎を輪切りにして乾燥したものを荒粉(あらこ)という。これを粉砕しマンナン粒子をとり出したものが精粉(せいこ)である。精粉や生いものマンナンを糊化(こか)させ,さらにアルカリを加えて凝固成形したものが食用こんにゃくである。そのほか,こんにゃく版といって,一種の謄写印刷に使われた。またのり(糊)にもする。繁殖は子いもにより,収穫までに3~4年を要する。日本の主産地は群馬県で,下仁田が集散地として著名である。コンニャクを食用とするのは,ミャンマーと中国の一部,それに日本のみといわれ,経済栽培を行うのは日本だけである。日本への渡来の時代や経路は明らかではないが,《和名抄》に出ていることから,かなり古いとみられる。

 ヤマゴンニャクA.hirtus N.E.Br.var.kiushianus (Makino) M.Hottaは,九州や四国南部に野生する。花には肉の腐ったような異臭があり,昆虫を誘引する。コンニャク属Amorphophallusは熱帯アジアを中心に約100種が知られ,球茎が食用にされるA.campanulatus (Roxb.) Bl.ex Dec.(英名elephant yam)はインドから南太平洋の諸島まで広く見られる。また,スマトラオオコンニャクA.titanum Becc.は葉柄の高さ3m,葉身の直径が4m以上にもなる巨大な葉を広げる大型のコンニャクで,温室で栽培され有名である。
執筆者:

こんにゃくの名は《和名抄》巻十七の園菜類中に見え,鎌倉時代からは大和の供御人(くごにん)から天皇の食膳に供するものが貢納された。料理名としては《庭訓往来》などに見える糟鶏(そうけい)が古く,これはみそ煮にしたものだったようである。いわゆる精進物として調理法がくふうされ,魚肉がわりの刺身も室町期にはひろく行われていた。狸汁(たぬきじる)というのも,近世初期の《料理物語》ではほんもののタヌキの肉を使った汁であったが,後期にはこんにゃくを油でいためて汁にするものをいうようになった。1846年(弘化3)には《蒟蒻百珍》というこんにゃく専門の料理書が刊行されている。こんにゃくのみそ田楽は,豆腐のそれとともに,〈あんばいよし〉と呼びながら行商され,大坂では〈庚申(こうしん)こんにゃく〉といって庚申の日のまじないに食べるならわしがあった。凍りこんにゃくは,薄く切ったものを凍結乾燥させたもので,湯でもどして煮物などにする。水に浸した寒天のような舌ざわりがあり,江戸時代にはかなり愛好されたものだが,いまでは甘く煮た小片を正月の黒豆に添えることさえまれになった。こんにゃくは97%までが水分で,2%ほどの糖質も難消化性のこんにゃくマンナンであり,栄養的にはほとんど無価値であるが,弾力のある歯ざわりが喜ばれる。おでん,白あえ,汁の実などにするが,まず,から炒(い)りして水分を除いてから味つけするとよい。加工品の糸こんにゃくや白滝(しらたき)は,なべ料理や煮物などに用いられる。
執筆者:

こんにゃくには体内の砂を払う作用があるとされ,〈胃腸のほうき〉などと称される。一年のうちでも,とくに12月8日の事八日(ことようか)や針供養,冬至,庚申,大掃除など,年や季節の変り目に多く食べられ,体内の不浄とともに精神的な汚れをも払って,心身ともに清浄にしようという風がみられる。針供養にはこんにゃく,あるいは豆腐に針をさして流すと,裁縫がじょうずになるという。
執筆者:


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百科事典マイペディア 「コンニャク」の意味・わかりやすい解説

コンニャク

インド,スリランカ原産といわれるサトイモ科の多年草。地上部は秋に枯れ,球茎(コンニャクイモ)は越冬し,翌春発芽。葉柄は球茎の上面から直立し高さ0.6〜1m,直径2〜2.5cm,褐色の斑紋があり,先端に複葉をつける。球茎は上面が扁平で,中央部がややへこみ,5年目まで肥大し,6年目に花茎を出し,大きな肉穂花序をつける。球茎の主成分はマンナンで,乾燥し粉末にして水に溶かし,石灰液を加えると凝固する。これを利用して,食用こんにゃくをつくる。田楽(でんがく),おでん,みそ煮などにする。また線状にした糸こんにゃく,さらに細い白滝(しらたき)などがある。栄養価は低いが整腸の効があるといわれる。凍りこんにゃくは,薄く切って凍結させたのち乾燥したもので,湯で戻して煮物にする。

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栄養・生化学辞典 「コンニャク」の解説

コンニャク

 [Amorphophalus konjac].サトイモ目サトイモ科コンニャク属の多年草.球茎をコンニャクイモといい,そこに含まれるグルコマンナンを抽出し,アルカリとともに加熱凝固させて「こんにゃく」を得,食用にする.

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世界大百科事典(旧版)内のコンニャクの言及

【いも(芋∥薯∥藷)】より

… サトイモ類。サトイモ科の植物には地下あるいは地上性の茎を食用に利用している種が多く,日本での代表的なものはサトイモとコンニャクである。それらのうちサトイモ(taro∥old cocoyam)は東南アジア大陸部の原産で,現在はオセアニアや東アジアで広く栽培されている。…

【下仁田[町]】より

…中心集落の下仁田は上州と信州を結ぶ交通の要地で,江戸時代には中山道の脇往還(信濃別路)の宿場町として栄え,2・5・9の日の九斎市が開かれていた。明治期には組合製糸の下仁田社がつくられ,製糸の町となり,また周辺山間地におけるコンニャク栽培の普及を背景に,大正中期にはコンニャク集散地として全国に知られた。現在は県外からも集荷し,製粉・加工して全国に出荷される。…

【白滝】より

…糸状に細くつくったこんにゃく。こんにゃく粉をこねて糊(のり)状にしたものを,石灰やソーダ灰を溶解させた熱湯中に,小さな穴から押し出して固めたもの。すき焼,その他のなべ料理の材料にするほか,ゴマやたらこを用いたあえ物やいため煮にする。料理の味をうすくしないために,塩もみしたあとゆでたり,なべでからいりしてから用いるとよい。こんにゃくと同様に97%までが水分という低カロリー食品である。【松本 仲子】…

【マンナン】より

…マンノースを主成分とする多糖の総称。ゾウゲヤシの実,緑藻のミル,紅藻のアサクサノリには,ほぼD‐マンノースのみがβ‐1,4結合したものから成るマンナンが存在する。酵母の細胞壁など微生物のマンナンにはα‐1,6結合したものが多い。また,こんにゃくはグルコースとマンノースがβ‐1,4結合したものから成るグルコマンナン(グルコマンノグリカン。グルコースとマンノースの比は1:2または2:3,3:5)を主成分としている。…

【有毒植物】より

…ヤマノイモ,サトイモ,カラスビシャク,マムシグサなどの根茎にはシュウ酸カルシウムの鋭くとがった針状結晶が存在し,皮膚を刺激し炎症をおこす。コンニャク,キーウィフルーツでも同じ現象がみられるが,原因をシュウ酸カルシウムだけとする説には疑問がある。ウルシ,ハゼノキ,ヌルデ,マンゴーなどウルシ科植物による強いアレルギー性皮膚炎の原因は含有成分のウルシオールにある。…

※「コンニャク」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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