サツマイモ(読み)さつまいも(英語表記)sweet potato

翻訳|sweet potato

日本大百科全書(ニッポニカ) 「サツマイモ」の意味・わかりやすい解説

サツマイモ
さつまいも / 薩摩芋
sweet potato
[学] Ipomoea batatas (L.) Lam.

ヒルガオ科(APG分類:ヒルガオ科)の多年草。サツマイモの名は、17世紀、日本に導入されたのち、薩摩(さつま)(鹿児島)地方でよく栽培されたことに由来する。カンショ(甘藷)、リュウキュウイモ(琉球藷)、バンショ(蕃藷)、カライモ(唐芋)などともいう。いも(塊根)を食用とする重要な畑作物の一つである。

[星川清親 2021年6月21日]

形態

茎はつる性で地面をはって伸び、よく枝分れし、普通は2~6メートルになるが、品種によっては1メートルほどで、なかば立ち性になるものや、まれにつるが支柱に巻き付くものもある。茎の色は緑、紫褐色などで、断面は円く、直径3~10ミリメートルである。葉は互生し、多くは心臓形でやや紫色がかった緑色。品種によってはまれに葉に切れ込みがあるものや掌状のものもある。葉柄は5~10センチメートルで基部に小蜜腺(みつせん)がある。茎葉を切ると乳液が出る。葉の付け根から3~15センチメートルの花柄を出し、4~5個の花をつける。花は上向きの釣鐘状で、径約5センチメートル、淡紅色あるいは濃紅色、1本の雌しべと5本の雄しべがある。サツマイモは短日条件下で花をつける性質があり、温帯では開花する前に霜にあって枯れてしまうが、亜熱帯や熱帯では夏から秋に開花する。果実は球形の蒴果(さくか)で、径約1センチメートル、中に1~2個の種子がある。種子は半月形、黒色で、長さ約3ミリメートル。地面をはう茎の各節から根が伸び出し、その一部が地中で肥大していもとなる。いもの形や色は品種により異なり、形は細長い紡錘形や太い円筒形、球形などである。表面の色は紫や紅、黄白色などで、内部は白、黄、紅あるいは紫色などである。

[星川清親 2021年6月21日]

起源と伝播

アフリカ起源やアジア起源が提唱されたこともあったが、新大陸起源であることは野生祖先種の分布からみて疑う余地がない。現在の栽培サツマイモは六倍体で、その祖先種はメキシコからグアテマラの地域に自生する野生六倍体トリフィダ種I. trifida (H.B.K.) Don.である。この野生六倍体は、この地域に自生するトリフィダ種の二倍体と四倍体が交雑して三倍体雑種となり、続いて染色体倍加がおこり、野生六倍体となったものである。そしてこの野生六倍体が栽培化され、現在の栽培サツマイモができた。メキシコでは、考古学的資料はないが、紀元前3000年以前には栽培化されたが、この地域は古くからトウモロコシが栽培され、サツマイモは重要視されなかった。一方、ペルーでは前1000年ころの海岸の住居跡からサツマイモの乾燥根が出土しているので、前2000年ころにはペルーまで伝播(でんぱ)し、この地域の重要な作物となったと考えられる。ヨーロッパをはじめ旧大陸への導入は、コロンブスがスペインのイサベル女王へ献上したのが最初で、1492年以降である。そして17世紀までにはヨーロッパの各地に伝播したが、同じころに伝播したジャガイモほどには普及しなかった。アフリカには16世紀に、北アメリカには17世紀に伝播した。アジア諸地域にはフィリピンから、日本には中国および南方諸島から導入された。

[田中正武 2021年6月21日]

 日本に伝わったのは、1597年(慶長2)に宮古島へ入ったのが最初とされる。17世紀初めには薩摩や長崎に伝わり、徐々に南九州一帯で栽培されるようになった。やせた土地でも、また凶作の年でも収穫できることが注目され、当時たびたび起こった凶作に対する救荒作物として重要視されるようになった。このため18世紀になると、青木昆陽(あおきこんよう)が江戸に導入するなど、各地で積極的な導入が計られ、飢饉(ききん)のたびに栽培が広がり、江戸時代末期までには東北地方まで栽培が普及した。

[星川清親 2021年6月21日]

栽培

繁殖は温暖地では実生(みしょう)もできるが、普通は栄養繁殖により、茎挿しが一般的である。種いもを苗床に植え、1週間ほど30℃に保ち、芽を出させたのちは25℃前後で育て、5月中旬~6月中旬、平均気温が19℃になって茎が30センチメートルほどに伸びたころ切り取って苗とし、畑に挿す。苗の挿し方は斜めや水平などいくつかの方法があるが、畝(うね)間60~90センチメートル、株間30~45センチメートルとし、肥沃(ひよく)な土地では疎植(そしょく)に、やせ地や早掘り、晩植栽培などでは密植とする。植え付け後1か月以内に除草が必要であるが、一度茎葉が地面を覆ってしまえば雑草の発生は少なくなる。収穫は晩秋、茎葉の成長が停止したころが適期であるが、一般には1、2回霜にあって葉が枯れてから収穫することが多い。最近は晩夏から早掘りも行われる。

 肥料は他の作物よりもカリを多めに与える。標準的な施肥量は10アール当り窒素4~8キログラム、リン酸4~6キログラム、カリ10~20キログラムである。サツマイモは連作のできる作物であるが、吸肥力が強いので連作する場合には施肥量を多くする。また、堆肥(たいひ)は土壌条件をよくするので、10アール当り600キログラム以上は入れるようにする。窒素が多く、カリが不足すると、茎葉だけが繁茂していもがつかなくなる(つるぼけという)。

 病気には、いもに黒斑(こくはん)ができて悪臭と苦味をもつ黒斑病や、葉に黒褐色の病斑が出る黒星(くろほし)病などがある。黒斑病は種いもや苗の消毒によって防ぎ、黒星病にはおもに耐病性品種を用いる。害虫にはナカジロシタバやイモコガなどのガの幼虫がおり、薬剤で防除する。

[星川清親 2021年6月21日]

品種

大正時代には紅赤(べにあか)、源氏などがよく栽培されたが、1940年(昭和15)ころから農事試験場などで組織的な交雑育種によって育成された品種が普及し始めた。育成品種には農林1号、2号、高系(こうけい)14号、沖縄100号、護国藷(ごこくいも)、ベニアズマ、シロユタカなどがある。大正時代の優良品種紅赤は、外皮は鮮紅色で長紡錘形、食味は非常によいが、育成品種に比べて収量が劣り、つくりにくいので、育成品種の普及とともに栽培が激減。その後、食味が重視され栽培が増えたものの、また減少傾向にある。農林1号は、外皮は赤褐色、食味がよく、栽培もしやすいので、第二次世界大戦後急激に増えたが、その後減少し、2001年(平成13)には作付面積でサツマイモ全体の1%を切った。高系14号は、外皮は鮮紅色で、外観、食味ともによく、若いうちからいもが太るので早掘り用として栽培が広がり、サツマイモ作付面積の約2割を占め安定している。ベニアズマは、農林水産省農業研究センター(現、国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構)で育成され、1984年(昭和59)に命名登録された品種で、収量が多く食味もよいため作付面積を広げ、全体の約3割を占めるに至っている。デンプン原料用として九州農業試験場(現、同機構九州沖縄農業研究センター)で育成され、1985年に命名登録されたシロユタカも、作付面積を広げている。これらのほか、コガネセンガンは、外皮は黄褐色で、デンプン原料用として栽培され、飼料用品種としては、茎葉といもの両方の収量が多いシロセンガンやベニセンガンなどがある。

[星川清親 2021年6月21日]

 2014年の全国の品種別作付面積はデンプン用品種のコガネセンガンが全体の23.8%を占め、次いでベニアズマが13.7%、高系14号が13.5%、シロユタカが10.4%となっている。

[編集部 2021年6月21日]

貯蔵

いもの品質を保つため、貯蔵の温度と湿度を適正に管理することが重要である。貯蔵の温度は13~14℃、湿度は85~90%がよい。貯蔵温度が低すぎると腐りやすくなる。簡易貯蔵法として、深さ1メートルほどの溝を掘り、底や周りを藁(わら)で囲っていもを入れ、呼吸熱を利用して適温に保つ溝式貯蔵などがあるが、加温のできる大規模な収納庫を利用したキュアリングcuring貯蔵も行われている。これは、最初数日間、庫内の温度を30~33℃、湿度を90~95%にしておき、その後、13~14℃で貯蔵する方法である。いもは傷がつくと腐敗しやすくなるが、この方法によると、最初の高温期にいもの傷口にコルク層が形成され、自然治癒(キュアリング)し、病菌の侵入を防ぐことができ、いもの粘質が高まり、甘味も増し、外皮は滑らかになる。

[星川清親 2021年6月21日]

生産状況

世界の栽培面積は約920万ヘクタール、収穫量は約1億1283万トン(2017)で、その71%がアジアで収穫される。もっとも収穫量が多いのは中国で、7203万トン(アジアの総収穫量の90%)である。ついでマラウイ、タンザニアニジェールインドネシアエチオピアなどとなっている。

 日本では、明治初期の作付面積が約15万ヘクタールで収穫量は約100万トンであったものが、明治の中期から栽培面積が20万ヘクタールを超え、収穫量も200万トンを超えた。その後大きな増減はなかったが、第二次世界大戦後急増し、1949年(昭和24)に44万ヘクタールに達し、敗戦後の食糧不足を救った。その後は減少し、2007年の作付面積は約4万0700ヘクタール、収穫量は約97万トンである。主産地は鹿児島、茨城、千葉、宮崎の各県などである。

[星川清親 2021年6月21日]

 2018年の作付面積は3万5700ヘクタール、収穫量は79万6500トンである。都道府県ごとの収穫量は、鹿児島、茨城、千葉、宮崎の順で多い。

[編集部 2021年6月21日]

用途

日本では、収穫量の約49.7%が食用とされ、約39.5%がデンプンやアルコールなどの原料用、約7.5%が加工食品用、約0.3%が飼料用である(2015)。デンプンは飴(あめ)や食品原料、紡績糊(のり)や薬品原料など用途が多く、コーンスターチ(トウモロコシのデンプン)の輸入が増え、デンプン原料用は減少してはいるが、いまなお約12万トンが消費されている。アルコール用も減少していたが、焼酎(しょうちゅう)の人気により、増加に転じた。飼料用としては、専用の品種もあり、いもばかりでなく茎葉も利用する。とくに養豚業での消費が多い。

[星川清親 2021年6月21日]

食品

なまのいもの可食部100グラム中には炭水化物31.5グラム、タンパク質1.2グラム、脂質はわずか0.2グラム含まれ、熱量は132キロカロリー。ビタミンCは多く、29ミリグラム含まれ、肉質が黄色のいもではカロチンが比較的多く、50マイクログラム含まれている。日本で栽培されているいも類のなかで繊維質がもっとも多い。

 サツマイモは加熱すると酵素が働いて、いものデンプンが糖に変わり、甘味が出る。日本では、かつてはふかしいも、焼きいもを主食の補足や代用としていたが、現在では総菜や菓子、間食用が中心である。野菜としては煮物やきんとん、てんぷら、種々の日本料理の材料として利用される。間食用としては、焼きいもや、揚げたてのいもに水飴(みずあめ)と炒(い)りごまをまぶした大学いもなどがある。保存用として蒸し切干しがある。これは蒸したいもを薄く切って乾燥させたもので、そのまま、あるいは火であぶって食べる。なまのまま乾燥させたものを生切干しといい、これを増量材として米に混ぜて炊いたものをかんころ飯などとよぶ。郷土菓子としては、東京の芋ようかん、埼玉県の芋落雁(いもらくがん)(初雁城(はつかりじょう))、料理は大分県の芋切り羹(かん)、かんころ餅(もち)が知られる。鹿児島県の芋焼酎(いもじょうちゅう)も名高い。

 アジア、アフリカの熱帯では、いまも主食とされている。欧米では食用としての需要はあまり多くなく、菓子として食べる程度である。代表的な菓子はスイートポテトで、焼いたいもを裏漉(うらご)しし、シロップやバター、クリーム、香料、調味料などを練り込んで形づくり、表面に卵黄を塗ってオーブンで焼く。

[星川清親 2021年6月21日]

民俗

熱帯アメリカ原産のサツマイモが日本に移入されたのは、およそ17世紀のことであるが、当時種いもは各地で秘蔵され、また持ち出しがしばしば禁止されたために、その伝播には多くの逸話が伴っている。中国の福建省から琉球(りゅうきゅう)(沖縄)に初めてサツマイモを運んだ野国総管(のぐにそうかん)は「芋大王」とよばれ、さらに琉球から薩摩(鹿児島県)に伝えた前田利右衛門は「からいもおんじょ」といわれた。ここからサツマイモは全国に伝播されるが、巡礼に出て種いもを郷里への土産(みやげ)にもらった伊予(愛媛県)大三島(おおみしま)の下見(あさみ)吉十郎(1673―1755)は「芋地蔵」として祀(まつ)られている。石見(いわみ)(島根県)大森銀山の代官井戸平左衛門(1672―1733)は、享保(きょうほう)の飢饉に際し、その救済のためサツマイモを移植して「芋代官」の名を残している。このような伝播の様相は、トウイモ、カライモ、リュウキュウイモなどの異称からもうかがえる。

 1734年(享保19)青木昆陽が江戸・小石川の薬園で試作し、普及の礎(いしずえ)をつくった。サツマイモは乾燥を好むため、耕地の乏しい海村や畑作地帯に進出していった。しかし、主食にはならず、飯の糧(かて)、間食、代用食などになるにすぎなかった。また腐りやすいので、乾燥芋や九州天草のコッパなどのように切干しにされることが多く、すりつぶしてかい餅にされたり、あるいは粉食にされ、そのほか羊かんや焼酎の原料にもなっている。江戸期には焼きいもが茶道の菓子に用いられた例もあるが、一般的には食糧が不足がちな人々の間で重宝され、調理法もさほど発達しなかった。第二次世界大戦中および戦後の食糧難の時代には多くの日本人が必要とし、そのつるまで食べたにもかかわらず、社会が安定してくるとほとんど見向きもされなくなった。その後は食料としての魅力が乏しくなって、デンプン源としての役割が大きくなったが、現在では斜陽作物の感がある。サトイモなどの日本在来のいもが、なんらかの農耕儀礼に彩られた栽培史をもつのに対し、サツマイモに伴う民俗は極端に乏しい。

[湯川洋司 2021年6月21日]


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改訂新版 世界大百科事典 「サツマイモ」の意味・わかりやすい解説

サツマイモ (薩摩芋)
sweet potato
Ipomoea batatas(L.)Lam.

カンショ(甘藷),リュウキュウイモ(琉球藷),カライモ(唐薯)ともいう。肥大した根を食用やデンプン原料とするために栽培されるヒルガオ科の多年草。

茎はつる性で地面をはい,緑・紫・褐色などで,よく枝分れする。ふつう1~6mに伸び,断面は丸く,直径3~10mm。葉は互生し,葉柄は長さ5~30cm,葉身は縦横10cm前後の心臓形だが,縁に切れ込みのある品種もある。茎葉を切ると白い乳液が出る。葉の付けねから根を出し,その一部は地中で肥大していも(塊根)となる。塊根の形状は品種によって異なり,紡錘形,円筒形,球形などがあり,表面の色も紫・紅・黄白色などがあり,大きさも多様である。花は,温帯地域では晩秋にまれにしか咲かないが,亜熱帯や熱帯地域ではふつうに開花する。花は葉の付けねから伸び出た柄に4~5花ずつつく。アサガオに似た紅・淡紅色の漏斗状花で,直径約5cm。果実は球形の蒴果(さくか)で直径約1cm,中に1~4個の黒色の種子がはいる。

サツマイモの野生種は知られていないが,染色体数は体細胞で90本ある。大部分のヒルガオ属の野生種染色体数は30本であるので,六倍体と考えられる。サツマイモは野生六倍体種から起源したと推定されるが,そのような野生祖先種の一つとして根が肥大しないイポメア・トリフィダI.trifida G.Donが中央アメリカ(メキシコ)で発見されている。しかし,この種はいもができないだけでなく,つる性の茎は他物に巻きつくなどの特徴があり,サツマイモとは異なっている。またサツマイモに近縁な他の野生種(I.littoralis Bl.(2n=60),I.leucantha Jacq.(2n=30))も中央アメリカに野生している。

 サツマイモは中央アメリカ熱帯域では古くから主食として栽培され,南アメリカ域にも前2000年ころには導入されていたらしい。またポリネシアにもコロンブスの新大陸発見以前から栽培されていて,新大陸と旧世界の交流がコロンブス以前にもあった証拠とされている。ニュージーランドのマオリ族やニューギニア高地原住民にとっては重要な主食とされていた。しかし熱帯太平洋の島々で古くから栽培されていたサツマイモは,果実が海流によって伝播(でんぱ)されたもので,人間の移動とは関係がないという意見もある。

 東アジア地域には,ヨーロッパまわりで16世紀末には中国に伝わった。日本には1597年(慶長2)に宮古島に入ったのが最初とされ,17世紀には,琉球や長崎,薩摩などに伝わり,南九州で徐々に栽培が広がった。1735年(享保20)に青木昆陽が江戸に導入し,その後,関東や西日本で救荒作物として普及した。

 世界での生産量は1.2億tをこえ,ジャガイモの半分弱の生産量である。生産量の最も多い国は中国で,全体の84%を占め,ベトナムがこれに次ぎ,アジアだけで91%を生産する。日本の生産量は世界全体の1%ほどを占める。日本の栽培面積は,明治初期の15万haから,1949年に44万haまで増加したが,第2次大戦後の食糧不足が緩和するにつれ,またこの時期からデンプン原料としてコーンスターチが輸入されるようになり,作付けは徐々に減少し,現在では約5万haほどである。主産地は鹿児島県で,栽培面積,収穫量ともに全体の約1/3を占め,これに茨城,千葉,宮崎など関東や九州を中心とした暖地各県が次ぐ。

日本では各地で栽培されていた在来品種が大正時代から徐々に整理され,第2次大戦前までには,源氏,紅赤(べにあか)などの良質の品種が普及し栽培されていた。組織的な育種は昭和になってから農林省の研究機関によって始められ,農林番号の新品種が1940年ころから普及しだした。現在,食用には,外観がよく,食味のよい高系14号,農林1号,紅赤などが,また工業用には高いデンプン含量で収量の多い農林1・2・3号,タマユタカ,コナセンガンなどが栽培されている。飼料用には,つる・いも両方が多収のシロセンガン,ベニセンガンなどが適する。

種いもを苗床に伏せ込み,約30℃で1週間置くと多数の芽が出る。続いて23~25℃で4週間ほど育てると,茎は30cmほどに伸びるので,これを切りとって苗とする。畑は畝間60~90cmとし,高い畝をつくり,株間30~45cmに苗を挿す。肥沃地では疎植,やせ地では密植がよい。苗は,平均地温が18~20℃以上で発根するから,植付適期は暖地で5月中旬~6月中旬である。苗の挿し方は,斜めに挿す方法や,水平に置くように挿す方法などいろいろあるが,茎の基部の数枚の葉のついた部分を地中に埋めればよい。肥料は,窒素が多過ぎると根が太らずに〈つるぼけ〉となるので,控えめに施し,またカリ不足にならないように注意する。標準的な施肥量は,10a当り窒素4~8kg,リン酸4~6kg,カリ10~20kgである。植付け後,つるが地面をおおうまでの約1ヵ月間に,雑草抑制を兼ねて1~2回中耕,培土を行う。サツマイモの病気のおもなものは黒斑病で,この防除には,種いもを48℃の湯に15分ほど漬けて消毒する。ほかに黒星病,つる割れ病などがある。また,ナカジロシタバやイモコガなどの幼虫や,土壌センチュウの害をうけることがある。いもは7月下旬から太り始めるが,秋の霜にあうと地上部はたちまち黒く枯れ,いもも腐りやすくなる。収穫は初霜直前がよいが,一般には1~2回霜にあって,葉が枯れたときに行う。つるを刈ってからいもを掘りとる。最近では収穫の機械化が進んでいる。なお,野菜用には8~9月に早掘りするが,ビニルハウスなどでの早期栽培も行われ,5月ころには出荷される。いもは収穫後,簡易な溝穴や,地下約3mの穴むろに貯蔵される。またキュアリング貯蔵といって,あらかじめ高温多湿にして,いもの表皮にコルク層を作らせ,病菌の侵入を防ぎ,その後は約13℃で保温する大規模な屋内人工加温貯蔵法も行われる。

サツマイモの成分は約70%が水分,タンパク質や灰分はそれぞれ1%ほどで,残りの約30%が炭水化物であり,デンプンが主成分である。日本では,第2次大戦直後までは大部分が主食の代用とされていたが,現在では野菜用や間食用として,食用は全体の40%ほどである。デンプン原料としては,終戦後から昭和30年代までは需要が多かったが,現在では全体の30%程度である。デンプンの用途は,あめ,ブドウ糖,食品加工原料,医薬品,紡績糊(のり),化粧品などのほか,ウィスキー,焼酎などのアルコール原料ともなる。また飼料用として,全生産量の20%余が用いられている。
いも
執筆者:

救荒用あるいは補食用として栽培の普及促進が行われたことが示すように,第2次大戦までの日本では,サツマイモを主食,あるいは米飯などの増量材とした地域は少なくない。九州南東部から薩南,奄美(あまみ),沖縄へかけての,いわゆるカライモ地帯などはその代表的な地域であった。しかし,戦後の食糧事情の変化に伴い,現在ではほとんど主食としての役割を失い,料理や間食にのみ用いられている。料理としては,きんとん,含み煮,揚物,汁の実などにされるほか,飯や粥に炊き込まれるが,サツマイモの食べ方としては,やはり焼芋やふかし芋が代表的なものであろう。いわゆる焼芋屋が商ってきた,これらのものについては〈焼芋〉の項目を参照されたい。菓子としては,砂糖で煮つめて甘納豆のようにする〈芋納豆〉,裏ごしして砂糖などを加えて寄せかためた〈芋ようかん〉などいろいろのものが作られる。洋風のものでは,蒸して裏ごしにかけ,バター,牛乳,卵黄,香料などを加えて練ったものを,舟形に切った皮に盛り,卵黄を塗ってオーブンで焼くスイートポテトがある。加工品に,蒸して乾燥した切干芋があり,戦後の食糧不足の時期には菓子がわりに喜ばれたものである。
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食の医学館 「サツマイモ」の解説

サツマイモ

《栄養と働き》


 サツマイモは、紀元前3000年以上前からすでに栽培されていた、歴史の古い野菜です。
 紀元前2000年ころに南アメリカに伝わり、その後コロンブスによってヨーロッパへ、そして世界へ広まりました。
 わが国へは1615年に三浦按針(みうらあんじん)(ウイリアム・アダムズ)が平戸に持ち込んだという記録がありますが、それ以前に琉球から薩摩(さつま)経由で入ってきました。
 江戸時代、享保(きょうほう)の飢饉(ききん)のときにサツマイモをつくっていた薩摩藩で餓死(がし)する人が少なかったという話があり、このことから、その強い生命力と栄養価が注目され、栽培が広がったといわれています。
〈加熱調理に強いビタミン類がたっぷり〉
○栄養成分としての働き
 糖質を多く含みますが、炭水化物の代謝をうながすビタミンB1を比較的多く含むので、エネルギーが燃焼しやすくなっています。加熱によるCの損失が少ないのも特徴で、煮たり焼いたりしても約70%が残ります。
 ビタミンCは、生では100g中29mgで、ジャガイモの35mgを下回りますが、蒸すと20mgと、ジャガイモの15mgを上回ります。Cは細胞の結合を強化するコラーゲンの生成を助ける作用があるので、美肌効果が期待できます。
 食物繊維では、便量をふやす効果の高いセルロースを多く含んでいます。便秘(べんぴ)改善はもちろん、血液中のコレステロールを低下させる作用や血糖値をコントロールする働きがあるので、大腸がんや動脈硬化、糖尿病予防にも役立ちます。
 また、サツマイモの切り口からにじみでる樹脂状の白い液ヤラピンには、便をやわらかくする作用があります。食物繊維の働きとともに、便秘改善が期待できます。
 ビタミンEもサツマイモがもつおもな栄養成分の1つです。Eは老化現象の要因となる過酸化脂質が体内にできるのを抑える働きがあり、がん予防も期待できます。豊富なカリウムがナトリウムを排泄(はいせつ)させ、高血圧予防にも有効です。

《調理のポイント》


 現在は多くの品種がでていますが、栄養成分に特徴のあるものといえば、アヤムラサキ、ベニハヤトです。紅(紫)イモは眼精疲労(がんせいひろう)に効果があるアントシアニン含有量が多く、ベニハヤトはカロテン含有量が多いのが特徴です。
 サツマイモの旬(しゅん)は9~11月ころまでですが、貯蔵してからある程度水分の蒸発した1~3月ころのものがもっともおいしいといわれます。
 サツマイモの加工品である「蒸し切干」は、ビタミンCこそ少ないですが、水分が減少している分だけ食物繊維が多いのが特徴です。100gあたり5.9gもの食物繊維を含んでいるので、便秘ぎみの人のおやつとしておすすめです。手軽に食べられるので常備しておくといいでしょう。

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百科事典マイペディア 「サツマイモ」の意味・わかりやすい解説

サツマイモ

カンショ(甘藷),カライモとも。熱帯アメリカ原産のヒルガオ科の多年生作物。温帯では一年草。コロンブスがヨーロッパに持ち帰って以後,世界各地に伝播(でんぱ)。日本へは17世紀ごろフィリピンから長崎に,あるいは中国・琉球から九州南部に伝わり,18世紀に普及。茎はつる性で長さ0.6〜6m,紫,緑褐,緑色などを呈する。葉は互生し,長い柄があって心臓形。根の一部が肥大し,球形,紡錘形などの塊根となる。塊根は紫,黄,紅色などで,多量のデンプンをたくわえ,食用となる。花はヒルガオに似るが,温帯ではほとんど咲かない。春,温床に種芋を伏せこみ,初夏に定植,秋に収穫する。在来のサツマイモと,アメリカイモの二つの系統があり,それぞれ品種が多い。第2次大戦前には在来品種の紅赤(べにあか)(金時),太白(たいはく)などが栽培されていたが,現在では高系(こうけい)14号,ベニコマチ,コガネセンガンなどが広く栽培されている。主産地は鹿児島,茨城,千葉。ふかし芋,焼芋,煮物,揚物として食用とするほか,デンプン,アルコール工業原料,合成酒,泡盛(あわもり),芋焼酎(いもじょうちゅう)などの醸造用,また飼料とする。
→関連項目青木昆陽いも(芋/藷/薯)

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栄養・生化学辞典 「サツマイモ」の解説

サツマイモ

 [Ipomoea batatas].ナス目ヒルガオ科サツマイモ属のつる性の植物で,塊根を食用にする.カロテン,ビタミンB群,Cに富む.世界的に広く栽培されているイモ.

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世界大百科事典(旧版)内のサツマイモの言及

【いも(芋∥薯∥藷)】より


【主要ないも類とその栽培地域】
 多くの野生や栽培植物がいもとして食用に利用はされているが,そのなかで生産量が多く作物として重要なものは数種である。 サツマイモ(英名sweet potato)は,中央アメリカの熱帯原産のヒルガオ科植物で,根が肥大していもを形成する。コロンブスのアメリカ大陸発見以前は,中南米とオセアニアの一部で栽培されていたが,現在では広く熱帯圏のみならず,日本のような温帯圏の夏季作物として栽培されている。…

【いも(芋∥薯∥藷)】より

…その食用の利用も,掘りあげたいもを煮るか焼いて食用にするため,穀類に見られるような脱穀から精白や精粉,さらにそれら粉状や粒状のものを食物に調理する複雑な過程がなく,農耕具や調理体系で見ると農耕文化としては単純な段階にとどまっている。これら熱帯圏のいも農耕地帯では,新大陸熱帯起源のキャッサバ,ヤウテア,サツマイモが旧世界まで広く栽培されているし,東南アジア起源のダイジョは西アフリカで重要な栽培植物になっている。また,東南アジアや東アジア地域はサトイモやヤマノイモ類の起源地であるが,現在では稲作が中心となり,いも類は主食としての重要性がなくなっている。…

【農耕文化】より

…それらは二つの大類型に区分することができる。
[根栽農耕文化]
 新大陸では,南アメリカの熱帯低地で大きないものとれるキャッサバ(マニオク)と旧大陸のタロイモによく似たヤウテアが栽培化され,また中部アンデスの高地でジャガイモが,さらにメキシコでサツマイモが栽培化されるなど,すぐれたいも類が作物化されている。このうち南アメリカ東部の熱帯低地に展開した文化は,キャッサバを主作物とする焼畑農耕を生業の基礎とした典型的な根栽農耕文化である。…

【パプア人】より

…人々はすべて形あるものは精霊から授けられると信じ,また呪術が部族間,部族内を問わずはびこっていた。彼らは根茎類(ヤムイモ,タロイモ,サツマイモ,キャッサバなど)の栽培を生業とする自給農民であるが,主として女性が農耕に従事する。主食のサツマイモは約300~350年前にポルトガル人あるいはマレー人によって海岸地方にもたらされ内陸部に達したもので,これが高地の人口を増加させ,社会を変えたといわれる。…

【焼芋】より

…サツマイモを焼いたもの。サツマイモの食べ方として最も簡便,かつ美味な方法なので,日本でもサツマイモの渡来直後から行われていたはずである。…

※「サツマイモ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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