改訂新版 世界大百科事典 「サツマイモ」の意味・わかりやすい解説
サツマイモ (薩摩芋)
sweet potato
Ipomoea batatas(L.)Lam.
カンショ(甘藷),リュウキュウイモ(琉球藷),カライモ(唐薯)ともいう。肥大した根を食用やデンプン原料とするために栽培されるヒルガオ科の多年草。
形状
茎はつる性で地面をはい,緑・紫・褐色などで,よく枝分れする。ふつう1~6mに伸び,断面は丸く,直径3~10mm。葉は互生し,葉柄は長さ5~30cm,葉身は縦横10cm前後の心臓形だが,縁に切れ込みのある品種もある。茎葉を切ると白い乳液が出る。葉の付けねから根を出し,その一部は地中で肥大していも(塊根)となる。塊根の形状は品種によって異なり,紡錘形,円筒形,球形などがあり,表面の色も紫・紅・黄白色などがあり,大きさも多様である。花は,温帯地域では晩秋にまれにしか咲かないが,亜熱帯や熱帯地域ではふつうに開花する。花は葉の付けねから伸び出た柄に4~5花ずつつく。アサガオに似た紅・淡紅色の漏斗状花で,直径約5cm。果実は球形の蒴果(さくか)で直径約1cm,中に1~4個の黒色の種子がはいる。
起源と伝播
サツマイモの野生種は知られていないが,染色体数は体細胞で90本ある。大部分のヒルガオ属の野生種染色体数は30本であるので,六倍体と考えられる。サツマイモは野生六倍体種から起源したと推定されるが,そのような野生祖先種の一つとして根が肥大しないイポメア・トリフィダI.trifida G.Donが中央アメリカ(メキシコ)で発見されている。しかし,この種はいもができないだけでなく,つる性の茎は他物に巻きつくなどの特徴があり,サツマイモとは異なっている。またサツマイモに近縁な他の野生種(I.littoralis Bl.(2n=60),I.leucantha Jacq.(2n=30))も中央アメリカに野生している。
サツマイモは中央アメリカ熱帯域では古くから主食として栽培され,南アメリカ域にも前2000年ころには導入されていたらしい。またポリネシアにもコロンブスの新大陸発見以前から栽培されていて,新大陸と旧世界の交流がコロンブス以前にもあった証拠とされている。ニュージーランドのマオリ族やニューギニア高地原住民にとっては重要な主食とされていた。しかし熱帯太平洋の島々で古くから栽培されていたサツマイモは,果実が海流によって伝播(でんぱ)されたもので,人間の移動とは関係がないという意見もある。
東アジア地域には,ヨーロッパまわりで16世紀末には中国に伝わった。日本には1597年(慶長2)に宮古島に入ったのが最初とされ,17世紀には,琉球や長崎,薩摩などに伝わり,南九州で徐々に栽培が広がった。1735年(享保20)に青木昆陽が江戸に導入し,その後,関東や西日本で救荒作物として普及した。
世界での生産量は1.2億tをこえ,ジャガイモの半分弱の生産量である。生産量の最も多い国は中国で,全体の84%を占め,ベトナムがこれに次ぎ,アジアだけで91%を生産する。日本の生産量は世界全体の1%ほどを占める。日本の栽培面積は,明治初期の15万haから,1949年に44万haまで増加したが,第2次大戦後の食糧不足が緩和するにつれ,またこの時期からデンプン原料としてコーンスターチが輸入されるようになり,作付けは徐々に減少し,現在では約5万haほどである。主産地は鹿児島県で,栽培面積,収穫量ともに全体の約1/3を占め,これに茨城,千葉,宮崎など関東や九州を中心とした暖地各県が次ぐ。
品種
日本では各地で栽培されていた在来品種が大正時代から徐々に整理され,第2次大戦前までには,源氏,紅赤(べにあか)などの良質の品種が普及し栽培されていた。組織的な育種は昭和になってから農林省の研究機関によって始められ,農林番号の新品種が1940年ころから普及しだした。現在,食用には,外観がよく,食味のよい高系14号,農林1号,紅赤などが,また工業用には高いデンプン含量で収量の多い農林1・2・3号,タマユタカ,コナセンガンなどが栽培されている。飼料用には,つる・いも両方が多収のシロセンガン,ベニセンガンなどが適する。
栽培
種いもを苗床に伏せ込み,約30℃で1週間置くと多数の芽が出る。続いて23~25℃で4週間ほど育てると,茎は30cmほどに伸びるので,これを切りとって苗とする。畑は畝間60~90cmとし,高い畝をつくり,株間30~45cmに苗を挿す。肥沃地では疎植,やせ地では密植がよい。苗は,平均地温が18~20℃以上で発根するから,植付適期は暖地で5月中旬~6月中旬である。苗の挿し方は,斜めに挿す方法や,水平に置くように挿す方法などいろいろあるが,茎の基部の数枚の葉のついた部分を地中に埋めればよい。肥料は,窒素が多過ぎると根が太らずに〈つるぼけ〉となるので,控えめに施し,またカリ不足にならないように注意する。標準的な施肥量は,10a当り窒素4~8kg,リン酸4~6kg,カリ10~20kgである。植付け後,つるが地面をおおうまでの約1ヵ月間に,雑草抑制を兼ねて1~2回中耕,培土を行う。サツマイモの病気のおもなものは黒斑病で,この防除には,種いもを48℃の湯に15分ほど漬けて消毒する。ほかに黒星病,つる割れ病などがある。また,ナカジロシタバやイモコガなどの幼虫や,土壌センチュウの害をうけることがある。いもは7月下旬から太り始めるが,秋の霜にあうと地上部はたちまち黒く枯れ,いもも腐りやすくなる。収穫は初霜直前がよいが,一般には1~2回霜にあって,葉が枯れたときに行う。つるを刈ってからいもを掘りとる。最近では収穫の機械化が進んでいる。なお,野菜用には8~9月に早掘りするが,ビニルハウスなどでの早期栽培も行われ,5月ころには出荷される。いもは収穫後,簡易な溝穴や,地下約3mの穴むろに貯蔵される。またキュアリング貯蔵といって,あらかじめ高温多湿にして,いもの表皮にコルク層を作らせ,病菌の侵入を防ぎ,その後は約13℃で保温する大規模な屋内人工加温貯蔵法も行われる。
利用
サツマイモの成分は約70%が水分,タンパク質や灰分はそれぞれ1%ほどで,残りの約30%が炭水化物であり,デンプンが主成分である。日本では,第2次大戦直後までは大部分が主食の代用とされていたが,現在では野菜用や間食用として,食用は全体の40%ほどである。デンプン原料としては,終戦後から昭和30年代までは需要が多かったが,現在では全体の30%程度である。デンプンの用途は,あめ,ブドウ糖,食品加工原料,医薬品,紡績糊(のり),化粧品などのほか,ウィスキー,焼酎などのアルコール原料ともなる。また飼料用として,全生産量の20%余が用いられている。
→いも
執筆者:星川 清親
料理
救荒用あるいは補食用として栽培の普及促進が行われたことが示すように,第2次大戦までの日本では,サツマイモを主食,あるいは米飯などの増量材とした地域は少なくない。九州南東部から薩南,奄美(あまみ),沖縄へかけての,いわゆるカライモ地帯などはその代表的な地域であった。しかし,戦後の食糧事情の変化に伴い,現在ではほとんど主食としての役割を失い,料理や間食にのみ用いられている。料理としては,きんとん,含み煮,揚物,汁の実などにされるほか,飯や粥に炊き込まれるが,サツマイモの食べ方としては,やはり焼芋やふかし芋が代表的なものであろう。いわゆる焼芋屋が商ってきた,これらのものについては〈焼芋〉の項目を参照されたい。菓子としては,砂糖で煮つめて甘納豆のようにする〈芋納豆〉,裏ごしして砂糖などを加えて寄せかためた〈芋ようかん〉などいろいろのものが作られる。洋風のものでは,蒸して裏ごしにかけ,バター,牛乳,卵黄,香料などを加えて練ったものを,舟形に切った皮に盛り,卵黄を塗ってオーブンで焼くスイートポテトがある。加工品に,蒸して乾燥した切干芋があり,戦後の食糧不足の時期には菓子がわりに喜ばれたものである。
執筆者:鈴木 晋一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報