改訂新版 世界大百科事典 「シバ」の意味・わかりやすい解説
シバ (芝)
Japanese lawngrass
Korean lawngrass
Zoysia japonica Steud.
イネ科の多年草で,北海道南部から南の日本全土に広く自生し,朝鮮半島,中国北部にも分布する。ススキとともに日本の原野植物の代表種である。造園ではノシバの名がある。草高は10~15cm,冬に地上部の葉は枯れ,春3月中旬を過ぎて萌芽する。長い地上匍匐(ほふく)茎を伸ばし,これが分枝して広がり,マット状になる。匍匐茎は3節が短縮して1節状になり,そこから1~2本の直立茎を生ずる。また各節から多数の根が出て地面に固着する。直立茎は短く,下部に短い苞葉を生じ,上部から通常葉を出す。通常葉の葉身は細長く,長さ5~10cm,扁平で,葉面に毛がある。直立茎は踏圧,刈込みなどの刺激が与えられると,しばしば匍匐茎に転化し,二次的に直立茎を出し,また下節から不定芽を生ずるので,芝生が密生状態になる。5~6月ころ直立茎の上部から花茎を出し,総状花序をなして,小穂を多くつける。風媒花であるが,稔実はあまりよくない。
強健でやや酸性の土壌を好み,過湿には弱くやせ地や乾燥地でもよく生育する。耐暑性が強く,一方耐寒性もかなりある。大気汚染や潮風にもよく抵抗する。また軽度の踏圧や刈込みは生育を促進し,芝生がよい状態になる。病害にも強いが,日照不足には強くないので,大型植物とは共存できない。種子の発芽はおおむね不良で,長期間に徐々に発芽する。実用的には,発芽促進法として冷湿処理,苛性ソーダ処理,ジベレリン処理を順次行うのが有効である。
古来庭園の芝草として用いられ,今日では公園,運動競技場,ゴルフ場,競馬場,飛行場など大面積の芝生,踏圧の激しい芝生用に広く使用される。また土壌侵食防止を兼ねた法(のり)面緑化用として,道路側部,河川や池沼の堤防などに古くから使われている。一方,放牧地などに広く自生して牛馬の飼料となっている。昔,家屋のかやぶき屋根の棟の押さえに切芝を使う風俗があって,今日も一部に残っている。シバの植付けには,芝生を表土とともに長方形にはぎとった切芝を用いることが多い。
近縁種
シバ属Zoysiaは日本に自生が多く,シバとともに芝生用に使われるものもある。コウシュンシバZ.matrella(L.)Merr.(英名Manila grass)は九州南部とその周辺島嶼(とうしよ),沖縄から台湾,東南アジアなどに広く分布し,芝生あるいはゴルフ場のグリーン用として一般にコウライシバと呼ばれ,品種も多く,シバよりも密なマットの芝生をつくるが,寒さにはやや弱い。コウライシバZ.tenuifolia Willd.(英名mascarene grass,Korean velvet grass)は九州南部,沖縄,東南アジアに分布。シバ類のなかでは小型で繊細な種で,芝生用としてビロードシバと呼ばれるが,密生すると直立茎の分枝がもりあがる性質がある。耐寒性は弱い。
→芝生
執筆者:北村 文雄
シバ
Śiva
ビシュヌやブラフマー(梵天)と並ぶヒンドゥー教の主神。《リグ・ベーダ》のルドラと同一視され,ハラHara,シャンカラŚaṃkara,マハーデーバMahādeva(大天),マヘーシュバラMaheśvara(大自在天)などの別名を有する。彼はまた世界を救うために,太古の〈乳海攪拌〉の際に世界を帰滅させようとする猛毒を飲み,青黒い頸をしているので,ニーラカンタNīlakaṇṭha(青頸(しようきよう))と呼ばれる。天上から降下したガンガー(ガンジス)川を頭頂で支え,その頭に新月を戴き,三叉の戟を手にし,牡牛ナンディンNandinを乗物とする。常にヒマラヤ山中で苦行していたが,苦行の妨害を企てた愛の神カーマを,額にある第三の眼から発射した火焰で焼き殺したとされる。また舞踊の創始者とされ,ナタラージャNaṭarāja(踊り手の王)と呼ばれている。ブラフマーが世界創造神,ビシュヌが世界を維持する神であるのに対し,シバは世界破壊神である。世界を破壊するときに恐ろしい黒い姿で現れるので,マハーカーラMahākāla(大黒)と呼ばれる。その他の場合も破壊神としてのイメージが強く,金・銀・鉄でできた悪魔の三つの都市(トリプラ)を一矢で貫いて焼き尽くしたので,〈三都破壊者〉と呼ばれる。彼はまた,妻サティーSatīの死を悲しんで,彼女の父ダクシャの祭式を破壊する。ヒマラヤの娘パールバティーPārvatī(ウマー,ドゥルガー,ガウリーなどとも呼ばれる)はサティーの生れ変りとされ,苦行の末に彼の妻となった。その間に生まれた息子が軍神スカンダ(韋駄天)である。象面のガネーシャ(聖天)も2人の息子とされる。
→ルドラ
執筆者:上村 勝彦
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報