恒星のスペクトルの特徴を記述,分類するために用いる。現行のスペクトル分類は,20世紀の初めハーバード天文台で始められたものである。ハーバード分類では恒星スペクトルを単純なものから順にA,B,C,……型と配列したが,のちにこれらを整理統合し,さらに星の温度の順に並べかえてハーバード分類は完成した。恒星スペクトルの温度系列は,
O型は約5万Kともっとも高温の星の示すスペクトルで,電離ヘリウムのスペクトル線が見える。B型星の温度は約2万Kで中性ヘリウムの吸収線が強い。A型星は約1万K,水素の吸収線が著しく強い。F型星は約7000Kで水素線は弱まり電離金属の吸収線が現れ,G型星は約6000K,中性金属線が強まる。K型星は約4000K,中性金属の共鳴線が強く,M型星は約3000Kともっとも低温の星で,酸化チタンなど分子の吸収帯が現れる。恒星は巨大なガス球で大部分(約90%)は水素からなり,ヘリウムは残りの約10%,鉄などの金属元素は0.01%以下しかない。O型星からM型星まで恒星の化学組成はほとんど変わらないのに,スペクトルのようすは星の温度によって著しく異なる。
同じスペクトル型の星にも絶対光度の明るい星,暗い星の別がある。同じスペクトル型の星の温度は同じだから,絶対光度の明るい星は半径が大きく,暗い星は小さい。ヘルツシュプルング=ラッセル図で左上から右下に分布する星を主系列星,より明るい星を巨星,さらに明るい星を超巨星という。恒星スペクトルの吸収線の強さはほとんど温度で決まるが,絶対光度の違いによって強さの変わる線もある。これを絶対光度効果という。恒星スペクトルの特徴を温度と絶対光度との二次元に分類する方法は,1940年代にヤーキス天文台のモーガンW.W.MorganとキーナンP.C.Keenanによって完成され,MK分類と呼ばれる。星のスペクトルから温度を知るとその星の絶対光度がわかり,見かけの明るさとの比較からその星の距離がわかる。
星の中には大気の化学組成の異常に起因するスペクトルの特異性を示すものもある。これらの星は特異星と呼ばれる。R型,N型(C型ともいう)は炭素星と呼ばれ,C2,CN,CHなどの吸収帯が強いのは炭素含有量が多いからである。S型ではジルコニウムなど重元素含有量が多い。これら化学組成の異常は恒星進化の結果と考えられている。
執筆者:山下 泰正
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恒星からの光を低分散度の分光器にかけて撮影し、そこに見られる吸収線スペクトルの見かけのようすに従って類別したもの。19世紀末から始められ、20世紀の初めには約23万個の恒星についてのスペクトル型を記載した『ヘンリー‐ドレーパー星表』が出版された。単なる見かけによる系列化に対してアルファベット記号が与えられていたが、しだいに天体物理学的な意味づけが可能になるにつれて順序も入れ替わり、ほぼ恒星の表面温度の高い順に、O、B、A、F、G、K、M型となって定着している。20世紀末になり、赤外線観測でM型星より低温の恒星が見つかり、L型、T型という分類群が加わった。M型近くの低温度星については、組成異常を示すものがあり、R、N、S、C型もある。各型はさらに10に細分され、A0型とF0型の中間の星はA5のように記される。
標準的なスペクトル型は、太陽にみられるような標準元素組成のガスが数万Kから数千Kの温度領域で発するものとして、理論的に詳しく解明されている。さらには恒星物質の圧力の影響がスペクトル線の太さに現れることを利用して、「光度階級」を示すローマ数字Ⅰ~Ⅴを添えて二次元のスペクトル型指定をする方式もある。スペクトルのようすは星間吸収に影響されないので、遠い恒星についてもスペクトル分類ができれば、恒星の質量、絶対光度、距離などを推定するのに役だつ。
[小平桂一・家 正則]
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[スペクトル分類]
星のスペクトルはおもにその有効温度によって吸収線の現れ方が違う。これを利用して星を温度系列に分類したのがスペクトル型である。スペクトル型を表す記号はA.J.キャノンとその協力者がヘンリー・ドレーパー目録The Henry Draper Catalogue of steller spectraに記載した伝統的なもので,O,B,A,F,G,K,Mが用いられる。…
※「スペクトル型」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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