日本大百科全書(ニッポニカ) 「すり」の意味・わかりやすい解説
すり
すり / 掏摸
道または車内など、人ごみの中で巧妙に他人の所持品を盗みとること。またその盗人をいう。窃盗の一種。すりの語源には諸説があり、「摩り」の意味で人に擦り寄り物をとることから、行きずりに懐中の物をとるから、旅行に携帯した簏(すり)(竹で編んだ籠(かご))を盗みとるから、また盗んだ物を簏に入れるから、などがみられる。
すりという語はすでに中世にみられ、江戸時代に多く登場する。すりのことを上方(かみがた)などでは「ちぼ」とよび、『摂陽奇観』には大坂・道頓堀(どうとんぼり)、島之内あたりをちぼ4人が騒がした記事が出ており、当時、市中にすりの出没したことがわかる。またすりは巾着(きんちゃく)切りとよばれた。巾着は革、織物などでできた小銭入れで、おもに腰に提げて持ち歩くものである。それを切り取って中の物をとるので巾着切りといわれた。罪人に対しては腕にいれずみなどの刑を科した。明治時代には、すりの親分として仕立屋銀次の名が知られる。
現在のすりの手口について、警察側では以下のように分類している。〔1〕鞄師(かばんし)(錠やチャックを外し、鞄などの中の物をとる)、〔2〕断ち切り(刃物を使用し、ポケットなどを切って金品をとる)、〔3〕なす環外し(明治時代から昭和初期にみられた手口で、当時流行した懐中時計をとるため、鎖のなす環を外す)、〔4〕抜き取り(もっとも多い手口で、おもに人差し指と中指を使って物をとる)、〔5〕その他、となっている。なお、とくに列車や船内を専門として行うものを箱師とよぶ。
[芳井敬郎]
スリ
すり
Pickpocket
フランス映画。1959年作品。監督ロベール・ブレッソン。犯罪と承知のうえでスリ行為を重ねる孤独なインテリ青年の生き方とその顛末(てんまつ)を、冷徹な正確さで描写する。心理主義的な感情表現や劇的な抑揚をことごとく排した禁欲的な手法によって、罪と罰、贖罪(しょくざい)などのテーマを浮かび上がらせるブレッソンの代表作である。非職業俳優の起用、スリを働く手と一連の鮮やかな手際を、その即物的な官能性においてとらえる凝視のまなざし、厳格な画面作り、音の緻密(ちみつ)な構成、切れ味の鋭い編集など、単純明晰(めいせき)で一切の無駄がなく、力強い独特のスタイルが高い評価を受けた。1950年代に確立したこのような映画作りの美学をブレッソンは以後も貫いていく。
[伊津野知多]