ゼニガタアザラシ(読み)ぜにがたあざらし(英語表記)harbour seal

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ゼニガタアザラシ」の意味・わかりやすい解説

ゼニガタアザラシ
ぜにがたあざらし / 銭形海豹
harbour seal
common seal
[学] Phoca vitulina

哺乳(ほにゅう)綱鰭脚(ききゃく)目アザラシ科の動物ゴマフアザラシ属の1種で、近縁のゴマフアザラシP. larghaが海氷上で繁殖するのに対して、本種は陸岸で繁殖する。北太平洋と北大西洋の沿岸域に広く分布し、形態的、生態的に変異が著しい。分布が温帯にまで達し、一年中沿岸に定着しているので、人々に親しまれている一方、開発や海洋汚染の影響を受けやすい。

 このうち、北海道から千島クリル)、アリューシャン列島に生息する本種の亜種P. v. stejnegeriは形態的、生態的に特異性が認められ、独立種(英名はKuril seal)P. kurilensisとする意見もある。分布南限は襟裳岬(えりもみさき)。毛皮には、黒い地色に名称の由来である白い穴あき銭模様が散在するが、個体による変異が大きい。成体体長は、雄は1.9メートル、雌は1.7メートルで、他の亜種や近縁のゴマフアザラシに比べて一回り大きく、また雌雄間の差も大きい。日本では道東の流氷の影響のない沿岸に一年中定着し、モユルリ島、大黒島(だいこくじま)、襟裳岬などの岩礁に集団で上陸して休息し、繁殖も同じ場所で行う。出産期は5月。岩礁上で生まれる子の毛皮は成体と同じで、他の海氷上で繁殖するアザラシの特徴である白いふわふわの新生子毛は母胎内で抜ける。狩猟や開発のために生息数が激減し、日本では1970年代から1980年代の初めに350頭前後となった。文化庁は1973年(昭和48)12月に天然記念物指定の方針を決定したが、告示には至っていない。1980年代後半から生息数は増加し、2006年(平成18)の調査では757頭が確認された。環境省の作成するレッド・データ・ブックでは、絶滅危惧ⅠB類に分類されている。

[新妻昭夫]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ゼニガタアザラシ」の意味・わかりやすい解説

ゼニガタアザラシ
Phoca vitulina; harbour seal

食肉目鰭脚亜目アザラシ科ゴマフアザラシ属。雄は体長約 1.9m,体重 70~150kg。雌は体長約 1.7m,体重 60~110kg。出生体長 65~100cm,出生体重8~12kgである。全身に小輪や銭型状の斑を呈し,なかでも背部に多い。毛色は明黒灰色あるいは黒茶色のものが多く,腹部淡色である。出生仔は銀灰色で,出生から数週間で換毛する。体型は太い紡錘形で,頭は小さく額が狭い。鼻孔は小さく吻端にありV字状を呈する。耳介はなく,耳孔は眼の後方やや下側に位置し比較的大きい。前肢は短く,指間に蹼 (みずかき) があり,後肢は鰭 (ひれ) 状で,四肢には毛が密生する。尾は短い。門歯は上顎6本,下顎4本,犬歯は上顎と下顎に各2本,頬歯は上顎と下顎に各 10本である。警戒心がきわめて強く,陸上では集団で休息するが,海上では単独あるいは小さい群れで行動する。繁殖期は2~10月で交尾は海中で行い,4~7月に出産する。食性範囲が広く,表層から底生性の魚類,イカ類,タコ類および甲殻類を沖合いで捕食する。鰭脚類中,最も広範囲に分布する種。分布は北半球に限定され,温帯から北極域にかけて出現し,回遊せず,大陸棚とその斜面の沿岸に生息する。ポルトガル北部からアイスランドおよびグリーンランドを含む北極までの大西洋東部に分布するもの,アメリカからカナダ領北極海までの大西洋西部に分布するもの,バハカリフォルニア半島中部からアリューシャン列島東部までの太平洋東部に分布するもの,日本からカムチャツカ半島までの太平洋西部に分布するものの4亜種に分けられる。北海道沿岸からカムチャツカ半島に生息するものは絶滅危惧種である。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

小学館の図鑑NEO[新版]動物 「ゼニガタアザラシ」の解説

ゼニガタアザラシ
学名:Phoca vitulina

種名 / ゼニガタアザラシ
科名 / アザラシ科
日本にいる動物 / ◎
解説 / 鰭脚類の中で、最も広く分布しています。とても用心深く、おくびょうです。海岸、岩場、氷上で繁殖します。
体長 / 1.2~1.9m
体重 / 60~150kg
食物 / 魚、タコやイカ、甲殻類
分布 / 北半球の温帯から北極までの海

出典 小学館の図鑑NEO[新版]動物小学館の図鑑NEO[新版]動物について 情報

世界大百科事典(旧版)内のゼニガタアザラシの言及

【アザラシ(海豹)】より

…南半球では種分化を促す陸地の障壁が北半球ほど複雑でないため種類が少ない。北半球では,北太平洋にクラカケアザラシ(イラスト),アゴヒゲアザラシ,ゴマフアザラシ(イラスト)の3種,北大西洋にハイイロアザラシ(イラスト),ズキンアザラシ,タテゴトアザラシ(イラスト)の3種,両方にワモンアザラシ(イラスト),ゼニガタアザラシ(イラスト)の2種が分布する。北半球の低緯度地方にはモンクアザラシ類3種とキタゾウアザラシが分布し,カスピ海やバイカル湖にもワモンアザラシ類2種が分布する。…

【ゴマフアザラシ】より

…体長は1.8m前後,体重は雄150kg,雌120kgになる。陸岸で繁殖するゼニガタアザラシは近縁種であり,近年まで同一種とされていた。背部は光沢のある灰黒色の地色を呈し,白色,黒色小斑がたくさんあり,ゴマをまいたように見える。…

※「ゼニガタアザラシ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

今日のキーワード

プラチナキャリア

年齢を問わず、多様なキャリア形成で活躍する働き方。企業には専門人材の育成支援やリスキリング(学び直し)の機会提供、女性活躍推進や従業員と役員の接点拡大などが求められる。人材の確保につながり、従業員を...

プラチナキャリアの用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android