タカ目タカ科の鳥のうち,比較的体が小さく,尾と脚が長いものの総称。一方,体が大きく,尾は短く,脚が太くたくましいものをワシ(英名eagle)と呼ぶ。しかし,タカとワシは分類学上の区別ではなく,またクマタカのように名まえはタカだが,実際はワシである例もある。鷹狩につかわれる鳥は,主としてタカとハヤブサ類で,まれにワシであることもある。約220種あるタカ科Accipitridaeの鳥は,形態と生活様式から約10の分類群に分けられる。このうち,一般にタカに相当するのは,1種で1群を構成するミサゴ,トビ類,チュウヒ類,ハイタカ類,ノスリ類の五つのグループである。クマタカ類はイヌワシ属に近縁で,ワシの仲間といえる。一方,カンムリワシ類は,大きさの点でも生活様式からもタカ類に近い。
どのグループのタカも軽快に飛び,空中あるいは地上の獲物を襲って鋭いつめのある脚でつかまえ,鋭く曲がったくちばしで小さく引き裂いて食べる。雌雄異型の種が多く,一般に雌のほうが大型である。また雌雄異色の種も多い。ほとんどの種が高い木の枝に巣をかけ,1腹の卵数は1~6個。ミサゴは魚食に適応し,外側のあしゆびは前向きにも後向きにもなる。トビとチュウヒ類は細く長い翼をもち,沼沢地や草原の上を飛びながら獲物を求める。短かめの丸い翼をもつハイタカ類は森林の中で鳥をつかまえる。ノスリ類は幅広い翼と尾を広げて帆翔(はんしよう)し,高空から地上の獲物をさがす。
ミサゴは北半球に広く分布し,湖沼や内海で魚をとる。この鳥をミサゴ科として独立させる説もある。トビ類には17属約30種があり,ハチクマとトビが日本に分布している。ハチクマはおもにクロスズメバチ(ジバチ)の幼虫やさなぎを食べ,トビは腐肉食性が強い。ともに暗褐色のじみな姿をしているが,この仲間には,白色,青灰色,黒色の配色が美しい種も多い。中央・南アメリカとフロリダにすむタニシトビRostrhamus sociabilisはもっぱら淡水産の巻貝を食べることで有名である。同じく新大陸産のツバメハイイロトビElanoides forficatusは,ツバメのように二またに割れた長い尾をもち,空中で大型の昆虫をとる。チュウヒ類は草原や沼沢地の上を低く飛びながら,小型の鳥,爬虫類,ネズミなどを襲って捕食する。3属13種があり,オーストラリア産のウスユキチュウヒCircus assimilisとアフリカチュウヒダカPolyboroides typusのほかは,地上に巣をつくる。日本ではチュウヒが少数北日本で繁殖するほか,ハイイロチュウヒが冬鳥として渡ってくる。ノスリ類には10属約50種があり,日本に一年中すむノスリと,夏鳥のサシバが含まれる。あまり特殊化していないグループであり,まばらな林にすみ,地上の獲物をとるものが多い。ケアシノスリButeo lagopusとアカゲノスリB.regalisだけが,脚が指の付け根まで羽毛におおわれている。
ハイタカ類はもっとも典型的なタカで5属約50種がある。一般に森林にすみ,待ち伏せて,または追いかけて鳥をつかまえる。日本には大きいほうからオオタカ,ハイタカ,アカハラダカ,ツミの4種が分布し,森の中や林縁で鳥をとっている。アフリカ産のウタオオタカMelierax metabatesは,サバンナにすみ,木に止まって獲物を待つ。美しい音色でよく鳴くことで有名。
タカ類は,ワシとともに力の象徴としてたいせつにされることが多いが,一方では狩猟鳥であるキジ・ライチョウ類やカモ類を減少させるものとして,狩猟者にはきらわれている。このため各国で法律により保護されるようになるまでは,不当に狩られる時期が続いた。現代では生息環境の悪化もあり,ほとんどすべての種にわたって減少している。
→ワシ
執筆者:竹下 信雄
ワシよりは小さな猛禽(もうきん)で種類が多く,俗に四十八鷹という。飛翔力が強く,生きた小鳥獣を捕食して死肉は食べない。この習性を利用したのが鷹狩である。鷹狩には通常雌が用いられるが,雄より雌のほうが大きく,雌を弟鷹(だい),雄を兄鷹(しよう)と称する。勇猛な性質のうえに容姿に威厳があるので,昔話の〈鳥の王の選挙〉では結局はミソサザイの知力に敗れはするが,鳥の王のイメージが付されている。中世には,鑑賞用鷹狩り用として,貴人への引出物にされた。鷹は霊鳥として射てはならない鳥の一つに数えられ,これを神使とする神社もある。また,鷹そのものをまつる寺社があり,その鷹を百合若大臣の愛鷹緑丸であると伝えている。鷹は人間が容易に近づくことのできない絶壁や樹上に営巣するので,その巣の中には名器が隠されているとの俗信を生じた。
執筆者:佐々木 清光 鷹はときにワシやハヤブサと混同され,太陽,光,力,速さなどの象徴に用いられるが,とくに〈高貴〉の属性が強調される。エジプトのヒエログリフ(聖刻文字)では〈神〉を意味し,同地ではこれを殺すと死罪になったという。ホルス,アポロン,スフィンクス,ロキをはじめ,太陽や火にかかわる神々を象徴する。ギリシア神話では,アルテミスに娘を殺されたダイダリオンDaidaliōnが悲しみのあまり正気を失い,パルナッソス山の頂上から身を投げたが,アポロンによって鷹に変えられたと伝えられる。太陽の象徴といわれるアポロンにささげられる霊鳥キルコスkirkosは鷹かカラス,あるいはハヤブサと考えられており,太陽神ヘリオスの娘キルケとともにこの鳥の鳴声に由来する名といわれる。鷹はまた霊魂を表し,中世の宗教画ではウサギやスズメ(肉欲の象徴)を引き裂く姿が霊の優位の隠喩に用いられる一方,キリスト教図像学では〈ねたみ〉を表現する鳥ともされる。猛禽類であるために狂暴,残忍などの悪いイメージがないわけではなく,ヘブライでは不浄な鳥と考えられた(《レビ記》11:16など)。古代ギリシア・ローマの鳥占いにおいても重視され,大プリニウスは《博物誌》の中で,片脚が不自由な鷹が現れれば結婚の取決めや家畜の入手に吉,海戦においてノスリが主戦艦に飛んでくれば吉などと例示している。さらに中世にあっても吉兆の鳥とされ,鷹が広間に飛び込んでくれば幸福な生活が送れるとして喜ばれた。また鷹の羽は風を生む力,あるいは生命の象徴に用いられる。
執筆者:荒俣 宏
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鳥綱タカ目タカ科に属する鳥のうち、中形から小形のものの総称。これに対し、大形で強力な種はワシとよばれる。しかし、タカとワシの区別はかなり便宜的なもので、分類学的な分け方ではない。一方、タカのなかにハヤブサ科の鳥を含める場合もある。昼行性の猛禽(もうきん)で、嘴(くちばし)は先が鉤形(かぎがた)に曲がり、つめは鋭い。雌が雄より大きい種が多く、とくに雌雄の色彩が違う種ではそれが著しい。
タカ科の鳥は世界に分布し、約210種がある。日本には22種がおり、ワシと名のつく7種を除いた15種がタカである。ミサゴ属1種、ハチクマ属1種、トビ属1種、ハイタカ属4種、ノスリ属3種、サシバ属1種、クマタカ属1種、チュウヒ属3種が含まれる。いずれも動物質のものを食べるが、多くの種では生きた動物をとらえる。ノスリ類はネズミ、ハイタカ類は鳥、ハチクマはハチの幼虫や蛹(さなぎ)、ミサゴは魚と、狩猟の対象とするおもな動物が決まっている種もある。サシバやチュウヒはカエル、ヘビ、ネズミを、クマタカは大形の鳥や哺乳類(ほにゅうるい)を捕食する。トビはネズミの死体や魚のあらを食べることが多い。獲物は足で押さえ、嘴でちぎって食べ、骨や羽毛などの不消化物はあとで塊にして吐き出す。これをペリットという。
獲物が違うのに伴って、狩猟の方法もそれぞれ異なる。空中で鳥を追いかけて後ろからつかむもの、広い範囲を飛び回って地上の獲物を探し、みつけると急降下してとらえるもの、枝に止まって待ち伏せし、地上の獲物に襲いかかるもの、草原や葦原(あしはら)の上空を低く飛び、獲物が逃げ込む前につかみ取るものなどがあり、いくつかの方法を使う種もある。ノスリ、ミサゴ、ハイイロチュウヒなどは下の獲物をねらうとき、複雑に翼と尾を動かしながら空中の1か所で停空飛翔(ひしょう)をする。トビ、ノスリ、クマタカなどは広い翼をもち、上昇気流を利用して羽ばたかないでゆっくり飛ぶことが多いが、ハイタカ類は速い羽ばたきと短い滑翔を交互に行い、速く直線的に飛ぶ。しかし条件のよいときには、どの種も上空で輪を描いて飛ぶ。
多くの種は、高い木の上に枯れ枝を使って大形の巣をつくり、1~5個の卵を産むが、チュウヒ類のように草原の地上に営巣したり、ノスリやミサゴのように岩上や岩棚に巣をつくったりするものもある。雛(ひな)は綿羽に覆われ、数十日間親の哺育(ほいく)を受けて巣だつ。季節の変化による長い移動はしない種が多いが、サシバとハチクマは夏鳥で、秋になると大群で南へ渡る。昔は鷹狩(たかがり)にオオタカが用いられ、地方によってはクマタカも使われた。また、家紋としてタカの姿や羽を用いたものが多い。
[高野伸二]
『古今著聞集(ここんちょもんじゅう)』に、摂津国(兵庫県・大阪府)で飼われていたタカが、人々を脅かしていた大蛇を退治した話が載っているが、このほかに、遠征の帰途家臣の裏切りで孤島に残された英雄百合若大臣(ゆりわかだいじん)が、愛鷹(あいよう)「緑丸」の助けにより故国への復帰を遂げたという話も有名である。他面、タカに愛児をさらわれたという話もあり、飛騨(ひだ)(岐阜県)に伝わる手毱唄(てまりうた)に、「一人もらった男の子、鷹にとられて今日七日――」というのがあり、東京の子守唄にも「泣くとお鷹にとられます、黙ってねんねんねんねんよう」というのがあった。また、タカの鋭い目玉を眼病の霊薬とした所もあった。羽は矢羽として珍重されたせいか、タカが自らの抜け羽を深山の岩の間にしまっておく羽蔵をみつけると、一生楽に暮らせるという話もあった。
[最上孝敬]
古代エジプトでは、タカはその飛翔力(ひしょうりょく)から、天空を支配する神格と結び付けている。エジプト人は天空はタカの頭であると考え、右目が太陽、左目が月であるとした。太陽の神ホルスの名は、天空を飛ぶタカに由来し、ホルスは五色の翼をもつタカ、あるいはタカの頭部をもつ神の姿で表現された。オーストラリアの先住民の火の起源神話では、タカが特徴的に登場している。タカが最初に火をおこしたとか、他の動物のもっている火を人間のなかに広めたとかいう。ボルネオ島の先住民には、タカを神の使者とするものが多い。タカを祀(まつ)ると幸いがあるとか、タカを見た人はよいことがあるとかいう。タカの飛び方で吉凶を判断する民族もある。タカが円を描いて飛ぶと多数の人が死ぬなどという。アイヌ民族では、タカは悪い神に食物を供給する料理番であると伝えるが、タカそのものはよい神で狩猟のときに獲物を追い出してくれるという。熊送り(くまおくり)と同類のタカ送りの儀礼を行う習慣もあった。タカを籠(かご)に入れてたいせつに飼育し、殺すとき、タカのようなりっぱな射手になるようにと祈ると、聞き入れられるという。
[小島瓔]
鷹狩に用いられたのでなじみ深く、早くから文学作品によくみられ、『万葉集』にも大伴家持(おおとものやかもち)に鷹を詠んだ二つの長歌がある。平安時代には屏風歌(びょうぶうた)の画題として秋の「小鷹狩」や冬の「大鷹狩」がしばしば詠まれ、『古今六帖(こきんろくじょう)』第二「野」の項目にも、「大鷹」「小鷹」「大鷹狩」「小鷹狩」の題が設けられている。また、「鷂(はしたか)」もよく詠まれ、「鷂のとがへる山」という類句にもなっている。『大和物語(やまとものがたり)』152段の帝(みかど)が逃げた鷹を思って「言はで思ふぞ言ふにまされる」と詠んだ話、『蜻蛉日記(かげろうにっき)』天禄(てんろく)元年(970)6月条の出家を願う母に同調した道綱(みちつな)が鷹を逃がして決意を示した話などはよく知られる。俳句の季題は「鷹」「鷹狩」が冬、「小鷹」「小鷹狩」が秋。「鷹一つ見付けてうれし伊良古崎(いらごさき)」(芭蕉(ばしょう))。
[小町谷照彦]
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…〈凧〉の字は国字である。たこの呼名は江戸時代に江戸から広まったもので,関西では〈いか〉〈いかのぼり〉〈のぼり〉,九州では〈たこばた〉〈はた〉,その他地方によって〈たか〉〈たつ〉〈てんぐばた〉など方言も多い。英語のkiteはトビ,ドイツ語Dracheは竜,スペイン語cometaはすい星,ヒンディー語patangはチョウが原義で,いずれも空を飛ぶものを表している。…
※「タカ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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