翻訳|Darwinism
この語の意味は厳密にきまってはいない。まず第1の定義はC.ダーウィンの学説ということだが,それにもかれの学説の中心であった自然淘汰説をさす場合と用不用説などを含めた学説全体をさす場合とがある。ダーウィンと同時に自然淘汰説を公にしたA.R.ウォーレスはのちに自著の表題を《ダーウィニズム》(1889)としたが,これは前者の場合にあたる。ダーウィニズムの語で進化論一般をさした場合もあり,とくに進化論が大きな思想的影響を与えつつあった時代には進軍の旗印の役もした。例えば19世紀後半以降アメリカでのプラグマティズムの哲学の成立と発展の時期においてである。進化の様相への全般的な見かたに関してこの語が用いられることもある。ダーウィンは進化を緩やかで連続的なものと見ており,そうした漸進的進化観をさすのである。
ところで1870年代よりA.ワイスマンは遺伝についてのダーウィンの見解を修正して獲得形質の遺伝を絶対的に否定し,その観念をもとに自然淘汰説を一本化したネオ・ダーウィニズムneo-Darwinism(新ダーウィン説)を唱えた。かれにより〈自然淘汰の万能〉の語も用いられた。1930年ごろより集団遺伝学の発展にもとづき自然淘汰の組織的研究およびそれによる進化要因の研究が基礎づけられ,新たな意味でネオ・ダーウィニズムの語が適用されるようになった。現在ではおもにこの意味で用いられる。進化研究のこの歩みは同時に生物学の諸分野の遺伝学を中心においた総合でもあるので,その道を進む研究者たちは総合学派と呼ばれ,その基本的な学問傾向はネオ・メンデリズムneo-Mendelismと称されることもあるが,ネオ・ダーウィニズムと結局は同義になる。なお自然淘汰ないし生存競争の観念を社会の問題に適用したものは社会ダーウィニズムと呼ばれる。
→社会進化論
執筆者:八杉 竜一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
(垂水雄二 科学ジャーナリスト / 2007年)
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報
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