ティル(英語表記)Till, Emmett

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ティル」の意味・わかりやすい解説

ティル
Till, Emmett

[生]1941.7.25. イリノイシカゴ
[没]1955.8.28. ミシシッピ,マネー
14歳で白人に殺され,アメリカ合衆国公民権運動拡大のきっかけをつくったアフリカ系アメリカ人。フルネーム Emmett Louis Till。シカゴ南部に暮らす労働者階級の両親のもとに生まれた。1955年夏,ミシシッピ州マネーにある,大おじモーゼス・ライトの家に滞在し,綿花の収穫作業を手伝うことになった。当時は,1954年にアメリカ合衆国連邦最高裁判所ブラウン対トピカ教育委員会裁判において「公立学校における人種隔離教育は違憲である」との判決をくだした影響によって,特にアメリカ南部でアフリカ系アメリカ人に対する敵意が増していた。そのため滞在にあたり,母親から,口笛を吹くというような北部では許容されるふるまいも,南部では過剰な反応を引き起こしうることを警告されていた。
1955年8月24日,その日の作業が終わると,ティルは 10代の仲間とともに町の雑貨店に入った。その後起こったことについての説明はさまざまであった。少年たちの一人が,ティルを店のレジにいた白人女性キャロリン・ブライアントに声をかけさせたと証言するものもいた。報告では,ティルが店を出るときにキャロリンに向けて口笛を吹き,手か腰にさわって誘惑したとされた。同年8月28日の早朝,ティルはキャロリンの夫ロイ・ブライアントと義理の兄弟の J.W.ミランによって誘拐されたのち,激しく殴打された。さらに目をえぐられ,タラハッチー川岸で頭部銃弾を受けて殺害された。遺体は 2人によって巨大な金属製の綿繰機の回転翼に有刺鉄線でくくりつけられ,川に沈められた。数日後,暴行されたために顔が判別不能となった遺体が川で発見された。父親の指輪をはめていたことが決め手となって身元は判明し,ティルの遺体は暴行事件から 2週間後,自宅のあったシカゴに運ばれた。ティルの母親は息子の棺桶を開け放し,葬儀に訪れた数万の人々に息子が受けた暴力の跡を公開した。無残な遺体の写真は雑誌や新聞に掲載され,事件は公民権運動のうねりを生むきっかけとなった。

ティル
Tyl, Josef Kajetán

[生]1808.2.4. クトナーホラ
[没]1856.7.11. プルゼニ
チェコ劇作家。小説家,編集者,評論家,俳優,演出家などとしても活動したが,主として 1830年代から 40年代にチェコの文芸復興運動に貢献,民主的な民族精神の高揚のため演劇を通じて活躍した。チェコ演劇の実際上の創始者で,作品には民衆的な要素が強い。喜劇『フィドロバチカ』 Fidlovačka (1834) ,おとぎ話風の『ストラコニツェのバッグパイプ』 Strakonický dudák (47) ,史劇『ヤン・フス』 Jan Hus (48) など。

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改訂新版 世界大百科事典 「ティル」の意味・わかりやすい解説

ティル
Josef Kajetán Tyl
生没年:1808-56

チェコの散文作家,劇作家,ジャーナリスト。チェコ演劇の組織者。民主主義的思想を自分の作品,特に芝居で表現した。代表作に喜劇《フィドロバチカ祭》(1834),おとぎ話的芝居《ストラコニツェのバッグパイプ吹き》(1847),歴史劇《クットナー・ホラの坑夫たち》(1847)など。旧チェコスロバキア国歌のチェコの部分の歌詞の作者である。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ティル」の意味・わかりやすい解説

ティル
てぃる
Josef Kajetán Tyl
(1808―1856)

チェコスロバキアの劇作家、批評家、演出家。当時の文芸の各ジャンルで活躍したが、俳優も兼ね、とくに演劇界に新風をもたらし民族的な型を確立した。チェコの現国歌「わが祖国はいずこ」は彼の笑劇『フィドロバチカ』(1834)中で初めて歌われた。史劇『クトナー・ホラの坑夫たち』(1847)、『ヤン・フス』(1848)などのほか、小説もある。

[飯島 周]

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岩石学辞典 「ティル」の解説

ティル

泥炭を切る際に移動させた泥炭の表面部分のゲール(Gaelic)語の名称[Fraser : 1943].

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百科事典マイペディア 「ティル」の意味・わかりやすい解説

ティル

氷河による浸食で生産された大小さまざまな岩屑(がんせつ)。

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世界大百科事典(旧版)内のティルの言及

【堆積作用】より


[氷河の堆積作用]
 流動する氷河中に取り込まれて運搬された岩屑は氷がとけることにより,そこに残留する。その堆積物は無分級,無層理で特徴づけられ,ティルtillと呼ばれる。しかし,融氷河流によってこれらの岩屑がさらに運搬されると成層した堆積物がつくられる。…

【ダム】より

…高さ106m)などがある。
[中空重力ダムhollow gravity dam]
 上流側のダイヤモンドヘッド(貯水を止めるため上流側に設けるブロックで,八角形の断面をもつものが多いのでこう呼ぶ),中間の扶壁,下流側のティル(耐震性を増すため扶壁の下流端に張ったコンクリート壁)が一体となったIまたはII字形の水平断面をもつコンクリートを並べたダム。その内部に空洞があるのでダム底に作用する揚圧力が少なくなるという利点を生かし,さらに上流面のこう配を緩くした三角形の横断面としてその上にのる貯水池の水の重さを利用して空洞によりダムの重量が減った分を補っており,重力ダムと同様にして転倒や滑動に対する安定性を確保している。…

【熱帯黒色土壌】より

…熱帯を中心に亜熱帯から暖温帯にまで分布する粘土質で暗色の土壌に対する総称で,いくつかの土壌型が含まれる。インドのレグールregurや黒綿土(こくめんど)black cotton soil,インドネシアのマーガライト土margallitic soil,中央アフリカの熱帯チェルノーゼム,スーダンのバドーブbadob soil,南アフリカのフライvlei soil,北アフリカのティルtir,ポルトガルのバロスbarros,バルカンのスモニッツァsmonitzaまたはスモルニッツァsmolnitza,オーストラリアの黒色土,アメリカのグルムソルgrumsolなど多くの地方名があり,アメリカ合衆国の土壌分類体系《Soil Taxonomy》(1975)ではバーティソル目に含まれている。これらに共通する特徴は,モンモリロナイト質粘土に富み,乾季に乾燥するといちじるしく収縮して大きな亀裂を生じ,雨季に湿ると膨潤して亀裂が閉じることが毎年反復されるので,土塊が摩擦し合って鏡肌とよばれる特有な平滑な面ができ,地表にはギルガイgilgaiとよばれる凹凸のある微地形を生ずることである。…

【分級作用】より

…分級が進んだ堆積物はまた淘汰が良いとも呼ばれ,長期にわたり風の作用下に置かれる砂漠の砂や流水エネルギーの高い波打ちぎわの砂礫(されき)はその好例である。逆に,分級度の低い,言い換えれば淘汰の悪い堆積物の代表はティルtillと呼ばれるものである。これは氷河の末端が解けて流氷の作用を受けずに泥や礫がその場に混じり合って堆積したものである。…

【チェコスロバキア】より

…1918年から92年まで続いた中欧の共和国。国名通称はチェコ語,スロバキア語ともČeskoslovensko。1920‐38年,1945‐60年の正式国名は〈チェコスロバキア共和国Českoslovká republika〉。1948年以後は社会主義体制をとり,60年からの正式国名は〈チェコスロバキア社会主義共和国Československá Socialistická republika〉。1969年よりチェコ社会主義共和国とスロバキア社会主義共和国の連邦制に移行したが,89年の〈東欧革命〉の進行過程で両共和国で連邦制の見直しが図られ,正式国名を〈チェコおよびスロバキア連邦共和国Česká a Slovenská Federativní Republika〉に変更した。…

※「ティル」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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