翻訳|naturalist
野外における生物(およびその他の自然物)に強い関心を抱き,それを愛好し,あるいは研究しようとする人々のこと。本来は,中世後期からルネサンス期にかけてアリストテレス自然学が自然哲学(今日の狭義の自然科学の源流)と博物学の二つに分化してから,後者に携わる人々を指すものとして使われるようになったことばであり,その限りでは博物学者と訳して問題はない。ところが,博物学が学問的にも社会的にも変容していったために,このことばが意味するものもさまざまに変化し,現在ではかたかなのままで用いられることが多くなった。
ここでその変遷の歴史をすべてたどることはできないが,このことばがその歴史を背負ってさまざまな意味で使われたり理解されたりしているということは確認しておかねばならない。
博物学は長い間分類学のみにかかわってきたが,それが標本の分類になる以前には,野外科学でもあった。18世紀にそれはリンネの伝統とビュフォンの伝統とに分かれた。乱暴な言い方をすれば,前者は形態分類学になっていき,後者は生態の研究につながっていったといえる。形態分類学が主として職業的学者によって担われ,生態研究が主としてアマチュアによって担われてきたという社会的事情があり,さらに分類学者は動物学者zoologist,植物学者botanistと呼ばれるようになってきたという事情がつけ加わり,ナチュラリストは野外で生態を観察するアマチュアの人々というイメージがつくられていった。当時のナチュラリストの背景には,自然神学の立場からの聖職者の自然研究が一方にあり,フランス啓蒙主義者の自然への新しい関心が一方にあった。したがってナチュラリストということばは,単なる自然研究者ないし愛好家というだけでなく,社会的な意味ももっていたのである(芸術における自然主義者もnaturalistと呼ばれる)。
日本に本草学や物産学とは違う西欧の博物学が入ってきたとき,西欧ではナチュラリストのイメージが変わりつつあった。C.ダーウィンによる進化論の確立,生態学と動物行動学の始まり,生物研究者の職業化の始まりなどによって,博物学は分類学から脱却して,新しい生物学の一翼を担うようになり,ナチュラリストは野外生物学者というニュアンスを強くもつようになった。
大正から昭和初期にかけて日本ではこのような意味でナチュラリストということばが使われたことはほとんどなく,博物学者ということばだけしかなかった(ただし,徳冨蘆花,中西悟堂らにおいては,芸術における自然主義を自然研究と同一視しようとしたふしがある)。日本でナチュラリストということばが一般に使われるようになったのは1970年代以後である。そこでは,顕著になった〈自然破壊〉の結果として,それに抵抗する意味での自然研究と,破壊以前の自然に対する懐古的心情とが複雑に入りまじって現れ,そこに18~19世紀的および19~20世紀的西欧ナチュラリストの姿が想起されることになったのであろう。
執筆者:浦本 昌紀
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
…一般には文芸用語として,19世紀後半,フランスにあらわれて各国にひろまった文学思想,およびその思想に立脚した流派の文学運動を指す。ナチュラリスムという原語は,古くは哲学用語として,いっさいをナチュールnature(自然)に帰し,これを超えるものの存在を認めない一種の唯物論的ないし汎神論的な立場を意味していたが,博物学者を意味するナチュラリストnaturalisteという表現や,自然の忠実な模写を重んずる態度をナチュラリスムと呼ぶ美術用語など,いくつかの言葉の意味が重なり合って影響し,文学における一主義を指す新しい意味を獲得するにいたった。文学は科学と実証主義の方法と成果を活用し,自然的・物質的条件下にある現実を客観的に描かなければならないとする理論,これを〈ナチュラリスム〉の名のもとに組みあげていったのは,名実ともに自然主義派の総帥ともいうべきフランスの作家ゾラである。…
※「ナチュラリスト」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
小麦粉を練って作った生地を、幅3センチ程度に平たくのばし、切らずに長いままゆでた麺。形はきしめんに似る。中国陝西せんせい省の料理。多く、唐辛子などの香辛料が入ったたれと、熱した香味油をからめて食べる。...
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