ハト目ハト科Columbidaeの鳥の総称。この科の鳥は極地と砂漠を除いた世界のほとんど全地域に分布し,約42属290種に分類される。全長15~84cm。体は全体にずんぐりしていて,強く羽ばたいて飛び立つため,胸筋と胸骨の竜骨突起は非常によく発達している。頭は比較的小さく,くびと脚は短い。くちばしも短く小さいが厚みがあり,くちばしの基部には蠟膜(ろうまく)か鼻瘤(びりゆう)がある。羽毛は非常に密で豊かであるが,羽毛が抜けやすく皮膚が非常に薄いこともこの科の特徴の一つである。羽毛が密で抜けやすいのは,猛禽(もうきん)類に襲われたときに,羽毛だけ残して,体はつかまらずに逃れるためだといわれている。羽色はさまざまで,熱帯地方のアオバトやキンバトのように色鮮やかなものから,カワラバトのように灰色のくすんだものまである。雄はふつう雌よりやや色がはでだが,北半球では雌雄同色のものも少なくない。
ほとんどの種は主として樹上で生活している。しかし,採食などのため地上に降りることが多く,ウズラバト(Geotrygon属),ムナジロバト(Gallicolumba属),チョウショウバト(Geopelia属),オオハシバト(Didunculus strigirostris)その他は地上生である。大部分は留鳥だが,ごく一部の種は渡りをする。食物は種子,穀物,果実,漿果(しようか)など植物質のものを主食とする。また多量の水を飲む。多量の水を飲むのは,固い種子をやわらかくして消化を助けるためであろうといわれている。水を飲む動作にも特徴があり,他の鳥類のように口に含んだ水を,いちいち頭を上げて飲み込むことをせずに,くちばしを水中につけたまま吸い込んで飲む。
巣は木や崖の岩棚の上に小枝を粗雑に積み上げてつくるが,樹上や地下のトンネルの中に産卵するものもある。卵はほとんどが白かクリーム色で,温帯産のものは1腹2卵,熱帯産のものは1腹1卵が多く,雌雄交替で14~30日ほど抱卵する。雛はやわらかくて白い羽毛がまばらにあるだけの裸で生まれ,親の嗉囊(そのう)の内壁から分泌されるチーズ様のもの(一般にピジョンミルクpigeon milk,ハトの乳と呼ばれている)で育てられる。繁殖期以外は多少とも群れをつくっている。種によっては非常に大きな群れとなる。
ハト科は通常カワラバト,アオバト,カンムリバト,オオハシバトの4亜科に分類される。カワラバト亜科はもっとも大きな亜科で,アオバト亜科に属するアオバト・ミカドバト類を除くほとんどの種を含んでいる。この亜科には樹上生のもの,岩場にすむもの,地上生のものなどがあり,代表種はカワラバトColumba liviaやベニバトStreptopelia tranquebaricaである。野生のカワラバトは南ヨーロッパから北アフリカおよび中央・西アジアにかけて分布するが,古くから家禽化され,飼いバトや伝書バトとなって世界的に広がり,さらに飼いバトが逃げ出して半野生状態になったドバトが公園や神社や広場など人が餌を与えるところにはどこでもすんでいる。一方,かつてはたくさんいたのに絶滅したものもあり,その代表的な例は19世紀まで数百万の大群が北アメリカに生息していたリョコウバトであろう。
アオバト亜科はアオバト属Treron,ヒメアオバト属Ptilinopus,ミカドバト属Duculaなどが代表的なもので,亜熱帯,熱帯に分布し,緑色や黄色や紅色の羽毛をもつ美しいハトである。みな樹上生で,主として果実と漿果を食べる。カンムリバト亜科はニューギニア地方特産で,カンムリバト属Gouraの3種だけからなり,オオハシバト亜科はサモア諸島特産のオオハシバト1種だけを含む。
日本にはカラスバトColumba janthina,リュウキュウカラスバトC.jouyi,オガサワラカラスバトC.versicolor,シラコバトStreptopelia decaocto,ベニバトS.tranquebarica,キジバトS.orientalis,キンバトChalcophaps indica,アオバトSphenurus sieboldii,ズアカアオバトS.formosaeの9種が分布するが,小笠原諸島特産のオガサワラカラスバトと琉球諸島特産のリュウキュウカラスバトは絶滅した。これらによく似たカラスバトは伊豆諸島や西南日本の離島に分布し,全身光沢を帯びた紫黒色の大型のハトである。
キジバトは一名をヤマバトともいい全国的に分布し,ドバトを除いて各地にいちばんふつうに生息している。背面は褐色みのある青灰色,腹はぶどう色でくび側に黒色と水色の縞模様がある。シラコバトとベニバトはキジバトより色が淡く,後頸(こうけい)に黒い模様がある。シラコバトは関東地方だけに分布し数が少なく,ベニバトは迷鳥といわれている。アオバトとリュウキュウアオバトはどちらも全体に緑色で,前者は北海道から九州まで,後者は琉球諸島で繁殖している。キンバトは全体にぶどう赤褐色で,頭上が灰青色,翼が金緑色の小型の美しいハトで,八重山諸島から南アジアにかけて分布する。ハト類は植物食のため飼いやすく,禽舎でも容易に繁殖するので飼鳥として輸入されるものも多い。
執筆者:森岡 弘之
象徴,民俗
キリスト教世界では,一般に鳩は霊魂あるいは聖霊の象徴で,しばしば天啓の訪れや昇天,聖霊降臨などを表現する。とりわけ白い鳩は聖人の魂に擬せられ,殉教者の口からはこれがとび立つと信じられた。あらゆるものに変身できる魔女も鳩にだけは化けられぬとも,この羽を入れた布団に寝かされた重病人は死なないともいわれる。古代ギリシア・ローマでは鳥占いの重要な対象であった。またその旺盛な繁殖力や生命力から豊饒の象徴と考えられた。さらにオリーブの枝をくわえた鳩は平和の象徴に用いられる。これはノアの洪水がおさまったとき,陸地がふたたび現れたかどうかを調べるために箱舟から放たれた鳩がオリーブの小枝をもち帰ったという《創世記》(8章8~11節)の記事に由来する。鳩とオリーブはともに古代から無垢(むく)と平和の象徴とされており,とくに1949年パリで開かれた国際平和擁護会議では,ピカソのデザインによる鳩のポスターがつくられ,世界中に浸透した。また大プリニウスの《博物誌》に見えるように,古くから軍事や民間の通信用(伝書バト)として重視され,愛玩用としてもすでに大きな流行を見せ,掛け合せなどの技法により体が大きなものなど改良種がつくりだされていた。プリニウスは同時に〈鳩はニワトリと違い上を向かずに水が飲める〉などの興味深い観察報告を行っている。
執筆者:荒俣 宏 日本でも,その帰巣本能の強さが注目され,〈お銀小銀〉の昔話では手紙を届ける役目を負っている。ただし,日本での本格的な伝書バトの利用は,明治時代になってから軍事通信用として始まった。鳩(とくに白鳩)は古来八幡神の使わしめと考えられて神聖視された。鳩を神使とみなしたことの連想からか,昔話の〈鳩提灯〉ではちょうちんをくくりつけた鳩を放って,偽りの神告をなしている。また〈鳩不孝〉の昔話によると,かつて人間であったとき,山鳩は親不孝な息子であった。飢饉の折に食物を届ける途中で道草をし,父親を餓死させてしまった。それで悲しみのあまり山鳩となってデデコッケー(父よ粉食え)と鳴くのだという。なお,鳩の鳴声で天候を占ったり,鳩の巣を見るのを不吉としたりするなど,鳩に関する俗信は多く見られる。
執筆者:佐々木 清光