バガバッドギーター(英語表記)Bhagavadgītā

デジタル大辞泉 「バガバッドギーター」の意味・読み・例文・類語

バガバッド‐ギーター(〈梵〉Bhagavad-gītā)

《主の歌の意》ヒンズー教聖典の一。クリシュナ化身したビシュヌ神への信愛バクテイを説く宗教哲学詩。大叙事詩マハーバーラタ」の一部をなす。

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精選版 日本国語大辞典 「バガバッドギーター」の意味・読み・例文・類語

バガバッドギーター

  1. ( 原題[サンスクリット語] Bhagavadgītā 神の歌の意 ) 宗教哲学詩篇。原型は一世紀ごろ成立し、インドの大叙事詩「マハーバーラタ」中の第六巻二三~四〇章として編入された。七百頌よりなり、骨肉相食む戦いに懐疑をもつ王子アルジュナを、最高神ビシュヌの権化である御者クリシュナが鼓舞激励し宇宙の哲理を説く。ヒンドゥー教徒の最高聖典。

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改訂新版 世界大百科事典 「バガバッドギーター」の意味・わかりやすい解説

バガバッドギーター
Bhagavadgītā

インド古代の叙事詩《マハーバーラタ》の一部をなす宗教・哲学的教訓詩編。略して《ギーター》ともいう。作者不詳。1933-72年にプネーで出版されたクリティカル・エディションでは,第6巻の23~40章がこれにあたる。表題は〈尊き(神の)歌〉を意味する。古来より時代と宗派を超えて愛好され,独立の詩編として扱われることも多い。《マハーバーラタ》の中でも比較的早い時期に成立したとされ,1世紀ころの成立と考えられる。元来は,一部族の英雄神クリシュナを信仰する非バラモン的宗派,バーガバタ派の聖典であったとされる。バーガバタ派がクリシュナをビシュヌ神の権化の一つと位置づけることにより,正統バラモン文化の中に吸収され,重要な位置を占めるようになる過程で,その聖典も《マハーバーラタ》の一部として取り入れられた。

 この詩編は,親族同士が殺し合う大戦が始まろうとする場面におかれている。最強の戦士アルジュナは敵方にいる親族,朋友を見て動揺し,戦意を失う。アルジュナに対し,何事も顧みることなく各自の本分を尽くすべきことを説き,彼に戦闘を決意させようとするクリシュナのことばとして,《ギーター》は語られるのである。クリシュナはまず,人間の本体すなわち個我は永遠不滅であり,肉体のみが生滅するのだから,殺すとか殺されるとかの相対に煩わされることはないと説く。各人の本分はサーンキヤ学派のいう三つのグナ(要素)の結合によって制限され,人間の行動は神の幻力(マーヤー)に動かされている。したがって,自らの欲望からではなく,また事の成否,報酬の有無などを顧みることなく,各人の本務(スバダルマsvadharma)を行うなら,それは解脱への道であるとも説く。さらに,その無欲の行動をだれにも可能なものとする神への信愛(バクティ)の道,すなわち神に帰依し,結果は神にゆだね行動することが説かれている。

 このように,行動の指針を人格神への信愛を中心にした一神教教義として説いたこと,そしてその論理にさまざまな思想折衷的に用いたことが,《バガバッドギーター》の特徴とされ,多くの人々を引きつける理由ともなっている。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「バガバッドギーター」の意味・わかりやすい解説

バガバッド・ギーター
ばがばっどぎーたー
Bhagavad-gītā

インドの代表的な古典。紀元前1世紀ころの成立。もとバーガバタ派の聖典であったが、のちに叙事詩『マハーバーラタ』の一節に組み入れられ現在に至る。全18章700詩からなる。

[矢島道彦]

骨子

聖地クルクシェートラを舞台とするバラタ人の戦争がいままさに開始されようとするとき、王子アルジュナは骨肉の戦いに疑念を抱いて逡巡(しゅんじゅん)する。そこでビシュヌの化身(けしん)たる御者クリシュナは、人は行為の結果を顧慮せず、私心を捨て去って、ひたすら自己の本務をなすべきである。唯一神への献身的な愛(バクティbhakti)によってのみ人は救われると王子に説き示し、その疑念を取り払う。このバクティに基づく本務の遂行を説くところに本書の一大特徴があるが、同時にサーンキヤ、ヨーガベーダーンタなど当時の諸哲学思想をも折衷・統合して、きわめて幅広い内容をもった宗教的哲学詩となっている。本書が古来ヒンドゥー教徒の「バイブル」として愛唱され親しまれてきたゆえんである。早くから各国語に翻訳・紹介されるなどして文学的評価も高く、広く世界に知られている。

[矢島道彦]

『辻直四郎著『バガヴァッド・ギーター』(1980・講談社)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「バガバッドギーター」の意味・わかりやすい解説

バガバッド・ギーター
Bhagavad-gītā

インドの聖典。「主神 (バガバット) の歌 (ギーター) 」の意。省略してギーターとも呼ばれる。インドのサンスクリット語叙事詩『マハーバーラタ』の第6巻に含まれる 18章から成る詩篇で,その原型は前2世紀頃に成立した。バラタ族に含まれる同族のクル国の 100人の王子とパーンドゥの5人の王子たちとの間に戦闘が始ろうとするとき,パーンドゥの王子アルジュナは,肉親同士が殺し合うこの戦いを悲しみ,出陣を前にして悩みを御者クリシュナに漏す。クリシュナは武人の本務を説き,結果のいかんにかかわらず,この正義の戦いにのぞんでその本務を遂行すべきであるといい,最高神ビシュヌに対する熱烈な信仰によって救済されることを明かす。悩みを解消したアルジュナは,戦いにのぞむ。以上の筋書のほかに,種々の教えが説かれている。後世これにならって種々の,いわゆるギーター文学が成立した。

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百科事典マイペディア 「バガバッドギーター」の意味・わかりやすい解説

バガバッドギーター

マハーバーラタ》の1詩編である宗教・哲学的教訓詩。題名は〈神の歌〉の意。1世紀ごろの成立。バラタ戦争の開始に先だって,王子アルジュナが牧童クリシュナから王者の義務としての戦いについて,教訓を受けるという形式をとる。インドの宗教・哲学思想の根本をよく要約している叙事詩として,現在でもヒンドゥー教徒の座右の聖典である。
→関連項目ヒンドゥー教

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世界大百科事典(旧版)内のバガバッドギーターの言及

【クリシュナ】より

…クリシュナは前7世紀以前に実在した人物であるとみなされ,遊牧に従事していたヤーダバ族Yādavaの一部ブリシュニ族に生まれたという。バーラタ(バラタ)族の大戦争に参加しパーンダバ軍を助けたことは,大叙事詩《マハーバーラタ》,およびその一部であるヒンドゥー教の代表的聖典《バガバッドギーター》によってうかがい知ることができる。やがてクリシュナはヤーダバ族の奉ずる神バガバットと同一視され,さらに太陽神ビシュヌの化身とみなされるようになり,ビシュヌ教のバーガバタ派の最高神となった。…

【バクティ】より

…ベーダの祭式は,王侯や司祭階級バラモンたちの独占するところであり,またウパニシャッドに説かれる自己と宇宙に関する深遠な洞察は,知的エリートにのみ可能であった。バクティの概念を前面に打ち出したのは《バガバッドギーター》が最初であるが,ここにようやく,ベーダ以来の正統的宗教が一般民衆に開かれたものになり,ヒンドゥー教が急速に発展する基盤が形成されたのである。バクティは,とくに南インドのビシュヌ派諸派の間で重要視された。…

【ビシュヌ派】より

…なかでもラーマとその妃シーター,クリシュナとその妃ラーダーは,しばしば文芸の対象になり,広くインド全土で熱烈に崇拝されてきた。この派の存在は,前5~前4世紀以降の文献などによって確かめられるが,その教義がまとまった形をとったのは,叙事詩《マハーバーラタ》の一部に組み込まれている《バガバッドギーター》においてである。また,この派に関連の深い文献としては,《マハーバーラタ》の付編として扱われている《ハリバンシャ》,および《ビシュヌ・プラーナ》《バーガバタ・プラーナ》などのプラーナなどがある。…

【ベーダーンタ学派】より

… 《ブラフマ・スートラ》は,当時有力であった,純粋精神プルシャと根本物質プラクリティの二元論を説くサーンキヤ学派に対抗して,ウパニシャッドの中心論題であるブラフマンを宇宙の唯一絶対の究極原因であるとして,一元論を展開した。〈ベーダーンタ〉という語はウパニシャッドを指し,ウパニシャッドに絶対的権威を認め,その統一的解釈と体系化を目ざしたが,学派の伝統が確立すると,ウパニシャッドのみならず,《バガバッドギーター》と《ブラフマ・スートラ》をも併せて,〈三つの体系(プラスターナトラヤPrasthānatraya)〉と呼び,基本的な文献と見なした。 《ブラフマ・スートラ》成立後の学派の展開は必ずしも明確ではないが,8世紀前半のシャンカラの出現に至るまでのおよそ300年間に活躍した学者の名前が10名ほどあり,その著作も現存している学者に,文法学にベーダーンタ哲学を導入したバルトリハリ(5世紀後半),仏教の影響を強く受けたガウダパーダ(640ころ‐690ころ),その弟子でシャンカラの師と伝えられるゴービンダGovinda(670ころ‐720ころ),シャンカラとは立場を異にする不二一元論を説いたマンダナミシュラMaṇḍanamiśra(670ころ‐720ころ)がいる。…

※「バガバッドギーター」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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