バナジウム(英語表記)vanadium

翻訳|vanadium

精選版 日本国語大辞典 「バナジウム」の意味・読み・例文・類語

バナジウム

〘名〙 (vanadium) 金属元素の一つ。元素記号原子番号二三。原子量五〇・九四一五。鋼灰色で、空気中で安定、鋼に添加すると強さを増すので特殊鋼の材料として用いられる。バナジン

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デジタル大辞泉 「バナジウム」の意味・読み・例文・類語

バナジウム(vanadium)

バナジウム族元素の一。単体は銀灰色の金属。空気中では安定。鋼に少量加えると強度が増すので、添加剤として重要。また空気中で熱して得られる五酸化バナジウムV2O5触媒として用いられる。天然には堆積岩中に分布。元素記号V 原子番号23。原子量50.94。バナジン。

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改訂新版 世界大百科事典 「バナジウム」の意味・わかりやすい解説

バナジウム
vanadium

周期表第ⅤA族に属するバナジウム元素の一つ。ドイツ語から俗にバナジンVanadinということもある。1830年スウェーデンのセフストレームN.G.Sefström(1787-1845)がスウェーデン産の鉄鉱石中から新元素を発見し,これを北欧神話の美の女神Vanadis(フレイヤFreyjaの別名)にちなんでバナジウムと命名した。これは,1801年メキシコのデル・リオA.M.del Rioがメキシコ産鉛鉱石中から発見してエリスロニウムと名づけていたもの(彼はのちにクロム酸鉛であったとして撤回していた)と同じであることが明らかにされた。地表に広く分散しているが,経済的鉱床は知られていない。おもな産地は南アフリカで,含チタンバナジウム磁鉄鉱に1%程度含まれている。アメリカでは含バナジウムウラン鉱,リン鉱石に含まれて存在し,これらから回収している。また石油中にも含まれ,原油燃焼残渣,重油火力発電所のフライアッシュ,含バナジウム廃触媒からも回収される。日本の資源としては磁鉄鉱などの漂砂鉱床に含まれるが,高品位の砂鉱でも酸化バナジウム(Ⅴ)として0.3~0.5%程度である。

光沢のある銀白色の高融点の金属。常温では安定であるが,空気中で熱すると酸化され,酸化が進むと褐色V2O,灰色VO,黒色V2O3,暗赤色VO2,橙赤色V2O5となる。塩素とは反応してVCl4となり,塩酸,希硫酸に不溶,硝酸,フッ化水素酸,熱濃硫酸には溶ける。アルカリには少し侵される程度であるが,融解アルカリにはたやすく溶ける。

鉱石を塩化ナトリウムと焙焼(ばいしよう)してNaVO3とし,これを水で抽出して取り出して結晶化し,アンモニウム塩としてから融解して酸化物V2O5にする。V2O5カルシウムと硫黄で還元するか,炭素で炭化物とし,さらに塩素化してVCl4とし,熱分解してVCl3としてからマグネシウムで還元する。精製するのには電子ビーム溶解する。

バナジウムは鉄鋼材料の結晶粒を微細化し,炭化物を安定化するので,フェロバナジウムとして高張力鋼などに広く用いられ,チタン-バナジウム合金などは航空機用に用いられている。4.3~4.4Kで超伝(電)導を示し,超電導材料として注目されている。また熱中性子吸収断面積が比較的小さいことから,高速炉用構造材料としても注目されている。このほか接触硫酸製造,ナフタレンから無水フタル酸製造のさいの触媒とされ,バナジン酸イットリウムはカラーテレビの赤色蛍光材料に用いられている。

酸化数Ⅱ,Ⅲ,Ⅳが普通である。酸化物は低酸化数では塩基性が強く,高酸化数では酸性を呈する。すなわちVOは塩基,V2O3はいくぶん塩基,VO2は両性,V2O5は酸性。また,酸化数Ⅱの塩は一般に紫,Ⅲの塩は緑,Ⅳの塩はVOX2型で淡青色,Ⅴでは無色が多い。
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化学辞典 第2版 「バナジウム」の解説

バナジウム
バナジウム
vanadium

V.原子番号23の元素.電子配置[Ar]3d34s2の周期表5族遷移金属元素.旧元素名バナジン.1830年,スウェーデンのN.G.SefströmとJ. Berzelius(ベルセリウス)が同国産の鉄鉱石を分析して発見し,北欧神話の愛と美の女神Freyja Vanadisから命名したが,じつは1801年にメキシコのA.Manuel del Rioがすでに見いだしていたものであることがわかった.原子量50.9415(1).天然には唯一の安定同位体.質量数51(99.750(4)%)と50(0.250(4)%)(半減期1.4×1017 y,β,EC)が存在する.このほか,40~65の放射性同位体がある.
バナジウムの地殻中の存在度は230 ppm で,堆積岩中にかなり広く分布しているが,単独の鉱床として存在することはまれである.主要鉱物はパトロン石(patronite,複雑な硫化物),褐鉛鉱(vanadinite,Pb5(VO4)3Cl),カルノー石(carnotite,K(UO2)VO4(3/2)H2O)などがある.資源として利用されるものは,チタン磁鉄鉱,カルノー石(ウラン鉱石),リン鉱石,鉛・亜鉛鉱石,原油などの副成分で,チタン磁鉄鉱自身,または主要目的物を得る際の鉱さい,重油ボイラーの煙灰や使用済み石油精製用脱硫触媒を原料としてV2O5が得られる.金属はV2O5のAlによる還元(テルミット法)や,塩化物のカルシウムによる還元による.超高純度( > 99.95%)のものは,ヨウ化物VI2の熱分解(van Arkel-deBoer法)や,塩化物VCl2の溶融塩電解で得られる.世界の可掘埋蔵量の38% ずつがロシアと中国,ついで南アフリカ(23%)で,おもにチタン磁鉄鉱である.わが国は,ほぼ全量を南アフリカ(49%),中国(25%),ロシア(8%)などから輸入している(2005年).超高純度のバナジウムは,腐食されにくい硬い鋼色の金属である.密度6.11 g cm-3(19 ℃).融点1887 ℃,沸点3377 ℃.5.40 K 以下で超伝導を示す.通常の酸化数2~5.水,塩酸,アルカリ水溶液に不溶,硝酸,熱濃硫酸,王水,フッ化水素酸,過塩素酸に可溶.高温ではたいていの非金属と反応し,塩素とはVCl4,窒素とは侵入型化合物VNをつくる.As,C,Si,Bなどとも反応して,多くは侵入型,非化学量論的化合物をつくる.空気中で熱すると,灰色VO,黒色V2O3,暗青色V2O4,橙赤色と順次変化し,V2O5まで酸化される.
バナジウムを鉄鋼に添加するとすぐれた高抗張力性,耐熱性,靭性,耐摩耗性などを示すので,高抗張力鋼,構造用鋼,高速度鋼製造用に大量に使用される.チタン,アルミニウム,ジルコニウムとの合金材料としても広く用いられる.Ti-Al-V合金は航空機・宇宙用材料,ゴルフクラブ用材料.鉄鋼分野の需要が約90% を占めるが,触媒,顔料用としても使われる.産業にとって欠くことのできない重要なレアメタルの一つで,国家備蓄制度の対象となっている.「バナジウム及びその化合物」は大気汚染防止法・有害大気汚染物質である.[CAS 7440-62-2]

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「バナジウム」の意味・わかりやすい解説

バナジウム
ばなじうむ
vanadium

周期表第5族に属し、バナジウム族元素の一つ。原子番号23、元素記号V。1801年メキシコの鉱物学者デル・リオAndrés Manuel del Rio(1764―1849)は鉛鉱石から新元素を発見し、エリスロニウムerythronium(赤い元素の意)と命名したが、のちに誤認であるとして取り消した。1830年スウェーデンのセフストレームNils Gabriel Sefström(1787―1845)はスウェーデン産鉄鉱石から化合物がさまざまな色を呈する新元素を発見し、スカンジナビアの愛と美の女神バナディスVanadisからバナジウムと命名した。同年ドイツのウェーラーはエリスロニウムとバナジウムが同一元素であることを確認した。

 バナジウムは堆積(たいせき)岩に広く分布し、地殻中の存在度は比較的高いが、富化鉱床は少ない。石炭、石油に含まれ、ホヤ類の血液細胞にも存在する。バナジウム酸塩を還元して得られる単体金属は銀白色であるが、不純物の除去が困難であり、性質も不純物によって大きく影響を受ける。フッ化水素酸以外の非酸化性酸には侵されないが、酸化性酸、アルカリには溶ける。空気中で加熱すると、褐色、灰色、黒色、暗青色、橙赤(とうせき)色と変化して酸化バナジウム(Ⅴ) V2O5にまで酸化される。延伸性、機械的強度を増加させる合金鋼材料として利用される。酸化数+Ⅱから+Ⅴまでの化合物が多数知られているが、酸化状態および結合状態によってさまざまな色調を呈する。

[岩本振武]


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百科事典マイペディア 「バナジウム」の意味・わかりやすい解説

バナジウム

元素記号はV。原子番号23,原子量50.9415。融点1917℃,沸点3420℃。元素の一つ。1830年セフストレームが確認。鋼灰色の金属。空気中で安定。酸には侵され難いが,硝酸,フッ化水素酸などに溶ける。合金とするほか,酸化物は接触式硫酸製造の触媒として用いられる。堆積岩中に広く少量分布。主要鉱石はバナジン石,カルノー石など。酸化物を金属カルシウムなどで還元して金属を得る。
→関連項目耐熱鋼チタン合金レアアース

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「バナジウム」の意味・わかりやすい解説

バナジウム
vanadium

元素記号V,原子番号 23,原子量 50.9415。周期表5族元素。天然にはカルノー石,パトロナイトなどとして産出する。岩石中に広く分布し,地殻における存在量は 135ppm,海水中の平均濃度は 2μg/l 。海洋生物,特にホヤ類中に著しく濃縮されていることが知られている。単体は銀白色の金属で,高品位のものは展延性がある。単独で用いられることはほとんどなく,特殊鋼や強力チタン合金などの添加元素として用いられ,合金の性質を改善する効果が大きい。融点約 1700℃,比重 5.98。塩酸,冷硫酸に不溶,熱硫酸,フッ化水素酸,硝酸に可溶。酸化数4,5の化合物が安定である。モリブデン-バナジウム鋼,クロム-バナジウム鋼などの高張力鋼の製造に用いられる。

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栄養・生化学辞典 「バナジウム」の解説

バナジウム

 原子番号 23,原子量50.9415,元素記号 V,5族(旧Vb族)の元素.遷移元素で,微量必須元素の一つ.

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世界大百科事典(旧版)内のバナジウムの言及

【語り】より

…口頭的言語活動の一種。動詞カタルの名詞形。カタルはイフ(言),ツグ(告)などの平常の発話とは異なって,始まりと終りのある方式のととのった物言いをいう。その語源は不明だが,型,象(かた)に関係づける説があって,物語を順序だてて述べることとも,出来事を模して述べることとも解されている。また,ノル(宣),トナフ(唱),ウタフ(歌)など,語義の隣接する語の用法を比較して,これらが話者の一方的な発話であるのに対して,カタルは聞き手を意識し,その期待,要求,疑問に答えて,何事かを説明,解説しようとする性格を持つとされる。…

【落語】より

…日本の大衆芸能の一種。滑稽なはなしで聴衆を笑わせ,終りに落ちをつける話芸。演出法は,落語家が扇子と手ぬぐいを小道具に使用し,講談や浪曲(浪花節)のような叙述のことばを省略して,会話と動作によってはなしを展開する。はじめは,単に〈はなし〉といわれ,この言いかたは,現在も〈はなしを聴きに行く〉とか,〈はなし家〉とかいうように残っているが,天和・貞享(1681‐88)以後は,上方を中心に,〈軽口(かるくち)〉〈軽口ばなし〉などと呼ばれ,この上方的呼称である〈軽口〉時代が,上方文学の衰退期である明和・安永(1764‐81)ごろで終わり,文学の中心が主として江戸に移って,江戸小咄時代になると,もっぱら〈落(おと)し咄〉というようになった。…

※「バナジウム」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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