有害廃棄物の国境を越えた移動を規制する条約。1989年にスイス・バーゼルでの国連環境計画(UNEP)主催の会議で採択され、92年に発効した。プラスチックごみは対象外だったが、輸入国での不法投棄や海洋汚染が問題化。生態系への悪影響も指摘され、2019年の締約国会議で日本とノルウェーが共同提出したプラごみも対象とする条約改正案が採択された。
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有害廃棄物による汚染の防止を目的とする条約。正式名称は「有害廃棄物の国境を越える移動及びその処分の規制に関するバーゼル条約Basel Convention on the Control of Transboundary Movements of Hazardous Wastes and their Disposal」であり、1989年3月に採択され、1992年5月に発効した。日本では、1993年(平成5)9月の加入書寄託を経て同年12月に発効した。
1976年にイタリアのセベソにある農薬工場で爆発事故が起き、汚染された土壌が国外へ持ち出されたため、ヨーロッパ共同体(EC)や経済協力開発機構(OECD)によって有害物質の越境移動の規制が検討された。その後、1988年にイタリアなどからナイジェリアに持ち込まれた発癌(がん)性化学物質を含む有毒廃棄物により深刻な汚染被害が発生した。また、同様の事件がアフリカおよびカリブ地域で続出したため、国連環境計画(UNEP)によって国際的な条約作成のための作業が進められた。
この条約は、発生国および輸出国に第一次的な責任と義務を負わせている。その規制の対象とされる物質は、毒性、揮発性、感染性、腐食性などの有害性を有する廃棄物であり、再利用されるものも含まれる。これらの物質は、輸送と最終的処分が環境的に健全である場合に限って輸出が認められる。有害廃棄物の行方不明防止のために、輸出者から最終受領者に至るまでを監視するための事前通告および事後報告手続ならびに情報管理手続が定められている。また違反に関する通報制度も定められている。なお、輸出国は、契約条件に反する場合には、輸出した廃棄物を再輸入しなければならないとされている。
さらに、規制の強化を求めて1995年に、先進諸国から開発途上国への輸出を全面禁止する改正が採択された。しかし、発効に至らないため、2011年の締約国会議において、その発効を促進するための決議が採択された。最終的に、1995年改正は2019年12月に発効した。
他方で、1999年12月には、有害廃棄物の国際移動および処分に伴う損害に対する責任および補償に関する議定書が採択された。それは、有害廃棄物の越境移動と処分に伴う損害に対して賠償責任および十分な補償のための総合的な制度を樹立することを目的としている。通告者、処分者、輸出者または輸入者には厳格責任(いわゆる無過失責任)が適用され、保険、保証金またはその他の財政保証措置を用意しておくことが義務づけられている。
補償については、有害廃棄物の積載量に応じて段階的な限度額の下限(たとえば、25~50トンは400万SDR(国際通貨基金の特別引出権)以上、同1000~1万トンは1000万SDR以上など)が定められているが、具体的な金額の設定は各国の国内法に委ねられている。この補償が実際の損害額を下回る場合に備えて、既存の基金制度を用いて十分かつ迅速な補償のための追加的および補足的措置をとることが予定されている。この議定書は2021年時点で未発効である。
一方で、プラスチック(プラ)ごみによる海洋汚染が増大しており、それらの微細小片(マイクロプラスチック)は、魚介類からも見つかっている。この問題への国際的な関心は高く、2018年6月の主要7か国(G7)首脳会議は「海洋プラスチック憲章」を採択した(日米は未署名)。2019年6月の主要20か国・地域(G20)首脳会議は、2050年までに新たな汚染をゼロにするための「大阪ブルー・オーシャン・ビジョン」を採択した。東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳会議(同年6月)も、海洋ごみ削減に関する「バンコク宣言」を採択した。
この問題の一因は先進国から開発途上国へ再生資源として輸出されるプラごみであるため、バーゼル条約も対応策を定めた。2019年5月の第14回締約国会議において、有害な特性を示すプラごみを附属書Ⅷ(有害廃棄物リスト)に追加するとともに、再生に適したプラごみを附属書Ⅸ(対象外リスト)に追加する改正が採択された。つまり、規制対象となるのは「汚れたプラごみ」であり、その輸出には輸入国の同意が必要とされる。その改正は2021年1月1日から適用された。
バーゼル条約について、日本では「特定有害廃棄物等の輸出入等の規制に関する法律(バーゼル法)」(平成4年法律第108号)が対応しており、輸出入については、「外国為替及び外国貿易法」も関係している。
[磯崎博司 2021年9月17日]
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(杉本裕明 朝日新聞記者 / 2007年)
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…スペイン継承戦争以降,同族関係にあったスペインとフランスは同盟を結んでいたが,92年にパリ革命政府がルイ16世を処刑し,スペインに宣戦布告をすると,スペインはヨーロッパの王政諸国と歩調を合わせ,革命政府打倒の方針を打ち出した。しかし,革命政府との戦い(1793‐95)では,カタルニャ地方やバスク地方が自らのナショナルな感情と王政擁護の立場から果敢な抵抗を試みたものの,スペインは敗北し,戦後処理のために結ばれたバーゼル条約(1795)で,領有していたサント・ドミンゴ島の半分をフランス革命政府へ割譲した。この敗北を機に,カルロス4世の寵臣M.ゴドイは,スペインの海外植民地へ触手をのばし始めたイギリスに対抗するためにも,フランス革命政府,次いでナポレオンに対して宥和政策を打ち出した。…
…前後7回にわたり,ほとんどすべてのヨーロッパ諸国がそのいずれかに参加してフランスと戦ったが,全体を通じてこれらの同盟の中心となったのはイギリスであり,第1次から第5次まではフランスの勝利に,第6,7次はフランスの敗北に終わった。第1次は,1792‐93年にオーストリア,プロイセン,イギリス,オランダ,スペインなどの間で結ばれたが,フランスとプロイセン,スペインとのバーゼル条約(1795)およびオーストリアとのカンポ・フォルミオ条約(1797)によって解消した。第2次は,98年にイギリス,ロシア,トルコ,オーストリア,両シチリアなどの間で結ばれたが,オーストリアとのリュネビル条約(1801)およびイギリスとのアミアン条約(1802)によって解消した。…
※「バーゼル条約」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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