物体が動くと周囲の空間がゆがみ、波のように宇宙に広がっていく現象。「時空のさざ波」とも呼ばれる。アインシュタインが1916年に存在を予言した。重い天体が動くと大きな重力波が出て地球にも到達するが、空間のゆがみがごくわずかなため長く検出できなかった。2015年に重力波望遠鏡「LIGO」のチームが二つのブラックホールが合体して出た重力波を初めて観測し、今年のノーベル物理学賞に決まった。(共同)
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一般相対性理論に基づく重力理論によると、重力場の変動は光速で伝播(でんぱ)し、エネルギーがそれに伴って輸送されることになる。この重力変動の伝播を重力波という。重力波は物質の運動状態を激しく変化させる際につねに発生するが、その発生率は非常に小さく、強力な重力波が実際に発生するのは天体の爆発などの場合である。星の進化の終末におけるブラック・ホール形成時などに発生する、キロヘルツ程度の振動数をもつ重力波を地上で観測するための検出器が開発されている。また、重力波の直接測定ではないが、パルサーを含む近接二重星の公転周期が短くなる現象が観測されており、これは重力波放出に伴う効果であると解釈されている。
重力波検出器の原理は、重力波が通過するときにおこる微小な振幅の振動をレーザーの技術を用いて測定することにあり、アメリカにはマイケルソン干渉計で測る4キロメートルにもわたるL字形の大きな装置LIGO(ライゴ)(Laser Interferometer Gravitational-Wave Observatory)があり、2002年から観測を始め、2015年に重力波の検出に成功している。日本でも雑音を抑えるためにレーザーの反射鏡を低温にしたKAGRA(カグラ)がつくられた。
[佐藤文隆]
『アーサー・クライン著、竹内均訳『新しい重力理論――ニュートンから重力波まで』(1973・講談社)』▽『ヨゼフ・ウェーバー著、藤田純一訳『一般相対論と重力波』(1974・講談社)』▽『P・C・W・デイヴィス著、松田卓也訳『重力波のなぞ』(1981・岩波書店)』▽『坪野公夫著『時空のさざ波――重力波を求めて』(1986・丸善)』▽『藤本真克著『重力波天文学への招待』(1994・日本放送出版協会)』▽『日本物理学会編『ニュートリノと重力波――実験室と宇宙を結ぶ新しいメディア』(1997・裳華房)』▽『中村卓史著『最後の3分間――重力波がとらえる星の運命』(1997・岩波書店)』▽『中村卓史・三尾典克・大橋正健編著『重力波をとらえる――存在の証明から検出へ』(1998・京都大学学術出版会)』
(1)gravitational wave 静止している物質分布が重力場を作るようすは,静止している電荷分布や磁石が,そのまわりに電場や磁場を作るようすに似ている。もしも電荷や電流が振動すると,振動する電場や磁場が空間を伝搬する。これが電磁波である。同様に,物質分布が振動すると,振動する重力場が波動として伝搬すると期待される。実際,アインシュタインの重力場の方程式の解の中には,真空中を光速度cで伝わる波動の解が存在する。これが重力波であり,一般相対性理論の重要な帰結の一つである。重力は時空のまがり方で表されるのであるから,重力波は,時空のひずみが伝搬するものといってよい。この理論によれば,物質を振動させれば(直線上,あるいは球対称でない限り),必ず重力波が発生しているはずである。しかし,その発生するエネルギーはきわめて小さい。ここに電磁波と重力波の大きな違いがある。すなわち,電磁波が発生するエネルギーは電荷によって決まるが,重力波の場合これに相当するのは,万有引力定数Gに,関与する質量の2乗をかけた量となる。その値は,通常の物体の質量の場合,電荷に比べて何十桁も小さく,したがって観測にかかる効果を生ずるには至らない。問題となり得るのは天体規模の現象である。例えば星の重力崩壊など,爆発的な過程に際して,エネルギーが重力波として放出されるであろう。またパルサーのように,高速度で回転する天体は,回転の振動の2倍の振動数の重力波を出していると期待される。最近の発見によると,連星系をなすパルサー(PRS1913+16)の公転周期が減少していることが観測され,これが重力波放出によるエネルギーの減少の結果とする理論的計算とよく一致している。重力波の存在を示す初めての事実であろう。
電荷をもつ物体に電磁波が入射すると振動電流が生ずる。これが電磁波の受信であるが,重力波も,物質分布に振動を生じさせる。しかしその強さは,やはりGと質量の2乗の積に比例するので,発生する振動の振幅はきわめて小さい。現在試みられている重力波受信装置は,数百kgから数t程度の金属の棒,あるいは板に生ずる微小な長さの変化を観測しようとするものが主である。先に述べたような天体現象によって生ずる重力波を受信するには,振幅が10⁻13cm程度の振動を感知しなければならず,非常に精度の高い測定を必要とする。金属体の一部にとりつけたコイルやコンデンサーを通じて振動を検知するが,重力波以外のさまざまな原因による振動を遮へいするために入念な設計が要求される。とくに物体内の熱振動の影響をとり除くことがもっとも重要であり,そのために,装置全体を絶対零度近くまで冷却する技術が開発されつつある。数年以内には,宇宙からの重力波をつかまえることができるものと期待されている。
→相対性理論
執筆者:藤井 保憲(2)gravity wave 重力を復元力とする波をいう。例えば,海の風波では,その波長が約2cm以下の場合には表面張力も復元力として作用するが,それ以上の場合には重力だけが復元力として働く。密度の鉛直こう配の大きい海や大気で起こる内部波にも重力を復元力とするものがある。
→波浪
執筆者:寺本 俊彦
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(葛西奈津子 フリーランスライター/2016年)
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(2016-2-13)
出典 (財)日本水路協会 海洋情報研究センター海の事典について 情報
…そして,マクスウェルの電磁波に対応して,真空中を光速cで伝播する波動の存在が導かれる。これが重力波である。重力の作用もこの重力場を通じて有限の時間をかけて伝達されるのである。…
※「重力波」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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