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質量を持つ物体が運動することで、重力によって周りの時空(時間と空間)がゆがみ、波として光速で宇宙空間に伝播する現象のこと。「時空のさざ波」とも呼ばれる。ユダヤ人理論物理学者アルベルト・アインシュタインが、1916年に発表した一般相対性理論の論文の中でその存在を予言。79年には米国の宇宙物理学者ジョゼフ・テイラーとラッセル・ハルスが、連星中性子星の観測から重力波の存在を間接的に証明した。テイラーとハルスはこの成果により93年にノーベル賞を受賞した。
理論的には、質量を持つあらゆる物体は周りの時空をゆがめるが、極めて微弱である。直接観測の対象となってきた、ブラックホールや中性子星など非常に重い天体同士の合体や超新星爆発などによって生じる重力波でさえ、地球と太陽との距離(約1億5000万キロメートル)がわずか水素原子1個分変化する程度の効果しかない。一般相対性理論の予言から100年近くも直接観測されなかったことから、「アインシュタインからの最後の宿題」と呼ばれ、世界中で物理学者らが初観測を目指してきた。観測されれば、一般相対性理論の正しさを改めて裏付けると共に、光や電波では観測できない天体現象を解明する新たな重力波天文学につながるとされる。特に宇宙の誕生時に発生した重力波は原始重力波と呼ばれ、観測されれば宇宙が爆発的な膨張によって誕生したとされるインフレーション理論の根拠になると考えられている。
16年2月12日、マサチューセッツ工科大学やカリフォルニア工科大学など米国を中心とした15カ国1000人以上の国際研究チーム「LIGO(ライゴ)」は、宇宙から届いた重力波を直接観測することに成功したと発表した。LIGOは、1辺が4キロメートルの管をL字型に配置した重力波検出装置を使い、2方向に同時に放ったレーザー光を4キロメートル先の鏡で反射させ、受信した反射光のずれから時空のゆがみを検出した。
日本では、15年にノーベル物理学賞を受賞した梶田隆章・東京大宇宙線研究所所長らが、大型低温重力波望遠鏡「KAGRA(かぐら)」(岐阜県飛騨市)を用いて重力波の世界初直接観察を目指していた。観測された重力波の由来を知るには、複数の場所で観測する必要があり、KAGRAを含めた世界各地の施設が協力して観測を目指す。KAGRAはLIGOと異なり地下に建設されており、地震などの影響を100分の1以下に減らし、更に鏡を極低温にして分子レベルの振動を抑える工夫がなされている。
17年10月3日、LIGOを率いて重力波の初観測に貢献した米マサチューセッツ工科大名誉教授のレイナー・ワイス、米カリフォルニア工科大名誉教授のバリー・バリッシュ、同大名誉教授のキップ・ソーンの3氏にノーベル物理学賞が贈られることが発表された。
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(1)アインシュタインの一般相対性理論において重力場の方程式から導き出される波動。伝搬速度は光速度。重力場の量子(グラビトン,重力子)の存在と密接に関連する。重力波は宇宙的な現象で発生するが,きわめて微弱なので,非常に精度の高い測定を要する。重力波はまだ検出されていない。(2)水面波とも。水面の波のうち,おもに重力の作用でできるもの。海や湖で見る波は普通これである。波長は約1.7cm(正確には(式1),ここでγは液体の表面張力,ρは密度,gは重力加速度)より大きく(それより小さいものは表面張力波),波の速度は水深に比べて波長が小さい場合はだいたい(式2)で表される(λは波の波長)。
→関連項目波|ハルス|表面波
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(1)gravitational wave 静止している物質分布が重力場を作るようすは,静止している電荷分布や磁石が,そのまわりに電場や磁場を作るようすに似ている。もしも電荷や電流が振動すると,振動する電場や磁場が空間を伝搬する。これが電磁波である。同様に,物質分布が振動すると,振動する重力場が波動として伝搬すると期待される。実際,アインシュタインの重力場の方程式の解の中には,真空中を光速度cで伝わる波動の解が存在する。
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質量を持つ物体によって時空にできたゆがみが波となり、宇宙空間に光の速さで伝わる現象。1916年、理論物理学者のアルベルト・アインシュタインが自身の一般相対性理論に基づいて予測した。代表的な発生源に、連星系をなす中性子星やブラックホールの合体、超新星爆発などがある。欧米を中心に重力波検出装置による観測が行われており、74年に連星パルサーの公転周期の観測から間接的に存在が確認された。その後、2016年に米国にあるLIGO重力波観測所の国際研究チームが、史上初となる直接観測に成功したと発表。日本でも大型低温重力波望遠鏡「KAGRA(かぐら)」が重力波の直接検出を目指している。
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一般相対性理論に基づく重力理論によると、重力場の変動は光速で伝播(でんぱ)し、エネルギーがそれに伴って輸送されることになる。この重力変動の伝播を重力波という。重力波は物質の運動状態を激しく変化させる際につねに発生するが、その発生率は非常に小さく、強力な重力波が実際に発生するのは天体の爆発などの場合である。星の進化の終末におけるブラック・ホール形成時などに発生する、キロヘルツ程度の振動数をもつ重力波を地上で観測するための検出器が開発されつつあるが、まだ検出には成功していない。重力波検出器の原理は、重力波が通過するときにおこる微小な振幅の振動をレーザーの技術を用いて測定することにあり、アメリカにはマイケルソン干渉計で測る4キロメートルにもわたるL字形の大きな装置LIGOが2002年から観測している。日本でも雑音を抑えるためにレーザーの反射鏡を低温にしたKAGRA(カグラ)がつくられた。
重力波の直接測定ではないが、パルサーを含む近接二重星の公転周期が短くなる現象が観測されており、これは重力波放出に伴う効果であると解釈されている。重力波の直接検出が可能になれば、宇宙観測の新しい手段として画期的なものとなる。
[佐藤文隆]
『アーサー・クライン著、竹内均訳『新しい重力理論――ニュートンから重力波まで』(1973・講談社)』▽『ヨゼフ・ウェーバー著、藤田純一訳『一般相対論と重力波』(1974・講談社)』▽『P・C・W・デイヴィス著、松田卓也訳『重力波のなぞ』(1981・岩波書店)』▽『坪野公夫著『時空のさざ波――重力波を求めて』(1986・丸善)』▽『藤本真克著『重力波天文学への招待』(1994・日本放送出版協会)』▽『日本物理学会編『ニュートリノと重力波――実験室と宇宙を結ぶ新しいメディア』(1997・裳華房)』▽『中村卓史著『最後の3分間――重力波がとらえる星の運命』(1997・岩波書店)』▽『中村卓史・三尾典克・大橋正健編著『重力波をとらえる――存在の証明から検出へ』(1998・京都大学学術出版会)』
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〘名〙
① (gravity wave の訳語) 水波の一種。波長が水深に比べて非常に小さい波(表面波)の中で、重力の影響が強い波をいう。
② (gravitational wave の訳語) 重力場の変化によって生ずる波で、その伝播速度は光速度に等しい。天体の爆発などによって発生すると考えられる。一九一六年アインシュタインの一般相対性理論によって予測された。万有引力波。
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世界大百科事典内の重力波の言及
【場】より
…そして,マクスウェルの電磁波に対応して,真空中を光速cで伝播する波動の存在が導かれる。これが重力波である。重力の作用もこの重力場を通じて有限の時間をかけて伝達されるのである。…
※「重力波」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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