日本大百科全書(ニッポニカ) 「ピロン」の意味・わかりやすい解説
ピロン(データノート)
ぴろんでーたのーと
(C5H4O2, 分子量 96.1) |
α-ピロン(2-ピロン) | |
融点 | 5℃ |
沸点 | 206~207℃ |
比重 | 1.1880(測定温度22℃) |
屈折率 | (n) 1.5277 |
γ-ピロン(4-ピロン) | |
融点 | 32℃ |
沸点 | 119℃/35mmHg、215℃/742mmHg |
比重 | ― |
屈折率 | ― |
ピロン(古代ギリシア哲学者)
ぴろん
Pyrrhōn
(前360ころ―前270ころ)
エリス出身の古代ギリシア懐疑派の創始者。ピュロンともいう。彼の思想によってピロニズム(ピュロニズム)という懐疑論の呼称が生まれた。当時の哲学者、学派の見解の対立、およびアレクサンドロス大王死後の政治的・社会的混乱、新しい習慣と法律の登場がその背景にあった。(1)ものの本性は何か、(2)われわれの態度はどうあるべきか、(3)その結果は何であるか、の問いをたてた。相互に矛盾する感覚経験があるとおり、われわれはものの本性それ自体を知るのでなく、その現れを受容するだけである。そこで、ものについての判断を中止すべきであり、そこから何事が起こっても心の平静を保ち、なにものにも心を煩わされないことが帰結する。ピロンはこの平常不動心を知恵とよび、そこに人生最終目標としての幸福を据えた。そして自分の哲学に従って静かで穏健禁欲的な生涯を過ごした。弟子のティモンによって懐疑主義の生きたモデルとして描かれた。したがって彼の懐疑論は、後のアカデメイア懐疑派のように理論的・弁証論的でなく、本質的に生き方、人生態度であった。
[山本 巍 2015年1月20日]
ピロン(複素環式化合物)
ぴろん
pyrone
6員環内に酸素原子1個をもつ複素環式化合物で、α(アルファ)-ピロンとγ(ガンマ)-ピロンの2種類が知られている。
α-ピロンは、2-ピロンともよばれ、無色の液体で水に溶ける。γ-ピロンは、4-ピロンともよばれ、吸湿性をもつ無色の結晶で、水、エタノール(エチルアルコール)、エーテルなどの溶媒によく溶ける。ピロンをアンモニアと反応させると、酸素が窒素(NH基)により置換されてピリドンになる。この反応で2-ピロンからは2-ピリドン、4-ピロンからは4-ピリドンができる。2-ピロンおよび4-ピロンにベンゼン環が縮合した誘導体であるクマリン、クロモン、キサントンなどは天然に存在し、香料や色素として知られている。
[廣田 穰 2015年7月21日]
ピロン(Germain Pilon)
ぴろん
Germain Pilon
(1525ころ―1590)
フランスの彫刻家。パリ生まれ。1560年代初頭からフォンテンブローに滞在していたと考えられ、アンリ2世のための『三美神』(1561、ルーブル美術館)にみられる優美なプロポーションは、1532年以後フォンテンブロー宮造営に参画したイタリア人画家プリマティッチオの芸術の特徴を受け継いでいる。廟(びょう)上に故人生前の着衣肖像彫刻を、その内部に横臥(おうが)像で裸体の死者を表現するという、16世紀フランスに始まる墓碑型式は、ピロンの『アンリ2世とカトリーヌ・ド・メディシスの墓碑』(1563~70、サン・ドニ修道院聖堂)と『バランタン・バルビアーニの墓碑』(1583、ルーブル)で頂点を迎える。死者の姿をリアルにうつしながら、理想化が認められ、尊厳な表現になっている。また『復活のキリスト』群像は、彼のミケランジェロへの傾倒を明らかにしている。肖像彫刻、メダルも制作した。
[上村清雄]