フラボノイド(読み)ふらぼのいど(その他表記)flavonoid

翻訳|flavonoid

デジタル大辞泉 「フラボノイド」の意味・読み・例文・類語

フラボノイド(flavonoid)

植物に広く含まれる低分子有機化合物柑橘かんきつ類の皮などから抽出され、血圧降下作用をもつ。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「フラボノイド」の意味・わかりやすい解説

フラボノイド
ふらぼのいど
flavonoid

クロロフィルカロチノイドと並ぶ一群の植物色素の総称。ベンゼン環2個が炭素3個で結ばれ、かつ中央のC3が酸素を含むヘテロ環をつくった構造をしている。ヘテロ環の酸化還元状態の違いによってフラボン類、イソフラボン類、フラボノール類、フラバノン類、アントシアン類、カテキン類(フラバノール類)などに分類される。植物の葉、花など各部分に含まれ、高等植物に広く分布している。代表的なものは黄色のフラボン系色素と、花などの赤・紫・青を現すアントシアン系色素で、前者は化学的にも安定で染料として利用されるものもあるが、後者は光や水素イオン濃度指数(pH)の違いなどによって変色しやすい不安定な物質で染料にはならない。フラボノイドは植物体内では3分子の酢酸単位からできるマロニルCoAフェニルアラニンに由来する桂皮酸類が融合して生成する。フラボノイドは紫外線をよく吸収するので、高等植物はこれらの色素を表皮に含み、紫外線による障害を防いでいるといわれる。

吉田精一・南川隆雄]

 フラボノイドという名称はフラボンに由来しており、テルペノイドやカロチノイドに倣って称されるようになった。樹木の黄色の色素で生理活性を有するものが多く、2003年現在、600種ほどのフラボノイド系色素が植物から単離されている。なお、フラボンはラテン語で「黄色」を意味するflavasが語源である。

[佐藤菊正]

フラボン類flavone

フラボン類の母体化合物は2-フェニルクロモンとよばれ、これをフラボンということがある。1914年にドイツのミュラーMüllerによってサクラソウの葉や実から無色の針状結晶として単離された。水に不溶、石油エーテルに難溶、エタノールに易溶。融点97℃。濃硫酸に溶けて、紫青色の蛍光をもつ溶液となる。2-アセトキシカルコンジブロミドに、酒精性カリを作用させると得られる。この誘導体は高等植物に広く分布しており、代表的なものはクリジンchrysin、ルテオリンなどである。クリジンはポプラの若芽から淡黄色の小片結晶として単離された。エタノール、氷酢酸に易溶、ベンジンに不溶。融点274℃。2,4,6-トリメトキシベンゾイルアセトフェノンをヨウ化水素で処理すると得られる。フラボン類は化学的に安定で、古くから染料として用いられている。

[佐藤菊正]

イソフラボン類isoflavone

イソフラボン類の母体化合物は3-フェニルクロモンというが、これをイソフラボンということもある。しかし天然には存在していない。無色の針状結晶で、濃硫酸に溶けて青い蛍光を発するが、徐々に褐色となる。融点131℃。この誘導体の分布はマメ科、バラ科、アヤメ科、クワ科およびヒユ科に限られている。ゲニステインやダイゼインなどが知られているが、これらはエストロンステロイドホルモンの一種)と同様に発情作用がある。

[佐藤菊正]

フラボノール類flavonol

フラボノール類は2-フェニルクロモンの3位にヒドロキシ基をもつフラボン誘導体の総称。母体化合物は3-ヒドロキシフラボンである。フラボノール類は植物界に広く分布しており、その多くは3位のヒドロキシ基が配糖体となって存在している。代表的なものはガランギンgalangin、フィゼチンFisetin、ケルセチン(クェルセチン)Quercetinなどである。ガランギンはガランガの根から単離された黄色の針状結晶。融点215℃。この加水分解によってフロログルシンと安息香酸が得られたことから、この構造が決定された。

[佐藤菊正]

フラバノン類flavanone

フラバノン類は2-フェニルクロモンの2、3位の二重結合が飽和された化合物およびその誘導体の総称である。フラバノン誘導体は天然にはあまり多く存在していないが、マメ科、ミカン科などから得られている。フラバノンは無色の針状結晶。融点76℃。これを濃水酸化カリウム水溶液と混合して加熱すると、複素環部分が開裂する。この反応はフラボンの場合と同様、構造決定に重要である。たとえば、リキリチゲニンを加水分解するとレスアセトフェノンとp(パラ)‐ヒドロキシ安息香酸が得られたのでその構造が明らかにされた。

[佐藤菊正]

アントシアン類anthocyan

アントシアン類は植物の花、葉、および果実の美しい色をもった部分に存在し、酸性溶液中では紅色を呈し、アルカリ性溶液中では青色を呈する。発色のもとになる色素の本体(アグリコン)をアントシアニジンanthocyanidin、これに糖が結合したもの(色素配糖体)をアントシアニンといって、この両者をあわせてアントシアンと称している。市販のアントシアニン色素(食用天然色素)としてはシソニン(シソ色素)、デルフィニジン(ハイビスカス色素)、マルビン(ブドウ果汁色素)などが知られている。これらアントシアニン色素による千差万別の花の色は、花卉(かき)細胞のpHによるものではなくて、アントシアニンと金属イオンとのキレート形成やアントシアニンの規則正しい分子内または分子間の会合によるものである。用途として飲料、洋酒、梅漬け、柴漬け、冷菓、洋菓子などがある。

[佐藤菊正]

『谷村顕雄・片山脩他編『天然着色料ハンドブック』(1979・光琳)』『飛田満彦編『カラーケミカル事典』(1988・広済堂)』『三橋博・田中治・野副重男・永井正博編『天然物化学』(1992・南江堂)』『吉川敏一編『フラボノイドの医学』(1998・講談社)』『梅鉢幸重著『動物の色素――多様な色彩の世界』(2000・内田老鶴圃)』


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化学辞典 第2版 「フラボノイド」の解説

フラボノイド
フラボノイド
flavonoid

広く植物界に分布し,二つのフェニル基が3個のC原子を介して結合した,C6-C3-C6炭素骨格をもつ化合物の総称.普通A環の5,7位,B環の3′,4′位にヒドロキシ基またはメトキシ基が結合しており,ほとんどが図示した骨格の3位のO-グリコシド誘導体で,現在までに4000種類以上が知られている.その骨格はカルコンフラバノン,フラバン-3-オール,フラボンフラボノールイソフラボン,オーロン,アントシアニジン,ジヒドロカルコンなどに分類される.このうち,色をもつものはカルコン,フラボン,フラボノール,アントシアニジンである.A環はマロニルCoA,中央の三つの炭素と,B環はフェニルアラニン由来のケイ皮酸とCoAの縮合物とから生合成される.生合成に関与する酵素類については詳細な研究が行われている.フラボノイドには,種子の発芽や成長に関与したり,ファイトアレキシン作用を示すものもあるが,生理的役割のわかっていないものも多い.フラボノイドはラジカルスカベンジャーとしての作用が強く,とくにヒドロキシラジカルとの反応性は高い.その反応性はアグリコンの構造に依存し,糖の効果はない.

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改訂新版 世界大百科事典 「フラボノイド」の意味・わかりやすい解説

フラボノイド
flavonoid

フラボンを基本構造にもつ黄色色素の一群の総称。天然には,各種の植物の花,葉,根,茎,果実などに含まれている。なおフラボンの名称はラテン語のflavus(黄色)に由来する。植物の表皮細胞にあって紫外線をさえぎる役割を果たしているといわれる。これらは多くの場合水溶性配糖体として存在しており,アグリコン(非糖成分)はフラボン,イソフラボン,フラボノール,フラボノン,ケルセチンなどである。

構造上重要な植物色素アントシアニン類によく似ていて,フラボノイドのあるものは古くから染料として用いられてきた。(表参照)
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漢方薬・生薬・栄養成分がわかる事典 「フラボノイド」の解説

フラボノイド【flavonoid】

ポリフェノールの一種。植物に広く分布する色素成分。緑茶、ぶどう、食用菊、そば、たまねぎ、大豆、レモンなどに多く含まれる。種類は4000以上あり、たまねぎ・ブロッコリーなどの「フラボノール類」、大豆などの「イソフラボン類」、緑茶などの茶葉に含まれる「カテキン類」に大別される。少量でも発がん物質の活性化を阻害するほどの抗酸化作用を発揮するほか、活性酸素の働きを抑制、血液循環の改善、動脈硬化予防、血圧の正常化維持などに効果が期待できる。

出典 講談社漢方薬・生薬・栄養成分がわかる事典について 情報

百科事典マイペディア 「フラボノイド」の意味・わかりやすい解説

フラボノイド

植物界に広く分布する色素化合物(環状有機化合物)の総称。カルコン,フラバノン,フラボン,フラボノール,フラバノノール,フラバノール,イソフラボン,および一部のアントシアン類などを含む。いずれもフラボン核をもつフェノール性物質。赤,紫,青などを示すアントシアン類を除くと,多くは無色,黄色,だいだい色。種類が多く,花弁,果実,葉,樹皮,種子,材などに含まれる。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「フラボノイド」の意味・わかりやすい解説

フラボノイド
flavonoid

フラボンで代表される植物色素の一群。共通の炭素骨格をもっていて,そのポリオキシ誘導体が多数知られている。たとえば,ケルセチン,ミリセチンなどのフラボノールや,カテキンなどがある。一般に黄色色素として知られているが,無色のものもある。アントシアニジンや,花の赤色色素カルタミンの基本骨格 (カルコン) もフラボノイドの構造と近縁な関係にある。

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栄養・生化学辞典 「フラボノイド」の解説

フラボノイド

 2-フェニルベンゾ-γ-ピロンを基本骨格とする植物色素の配糖体の総称.

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世界大百科事典(旧版)内のフラボノイドの言及

【カルコン】より

…たとえばブテイン(ダリアの黄色品種やキバナコスモスなどの花に配糖体として含まれる黄色色素)やカルタミン(ベニバナの花冠に含まれる紅色色素,日本では食紅としても用いられる)などの植物色素がある。その閉環異性体がフラバノンflavanoneで,フラボン,アントシアニンなどとともに,これら黄色色素化合物の総称としてフラボノイドflavonoidと呼ばれ,アセチルCoAを出発物質にして生ずるポリケチドpolyketideの一種である。ポリケチドとは,一般式R(CH2CO)nCO2Hで示されるβ‐ポリケト酸を経て生合成される物質の総称である。…

【カンゾウ(甘草)】より

…甘みはサポニン,グリチルリチンglycyrrhizin(ショ糖の150倍の甘みがある)やブドウ糖を含有していることによる。そのほかにフラボノイドflavonoidも含み,鎮咳(ちんがい),鎮痛や利尿作用がある。そのため風邪や咽喉の病気,さらに胃腸薬として用いられている。…

【色素】より

…カロチンは動物体内でビタミンAとなり,視紅と呼ばれる色素タンパク質を形成し,視覚に重要な役割を担っている。(2)フラボノイドflavonoid C6-C3-C6の炭素骨格をもち,植物のほとんど全組織にひじょうに広く分布している黄色の色素。フラボン類,フラバノン類,アントクロール,アントシアン,カテキンなどがある。…

【カルコン】より

…たとえばブテイン(ダリアの黄色品種やキバナコスモスなどの花に配糖体として含まれる黄色色素)やカルタミン(ベニバナの花冠に含まれる紅色色素,日本では食紅としても用いられる)などの植物色素がある。その閉環異性体がフラバノンflavanoneで,フラボン,アントシアニンなどとともに,これら黄色色素化合物の総称としてフラボノイドflavonoidと呼ばれ,アセチルCoAを出発物質にして生ずるポリケチドpolyketideの一種である。ポリケチドとは,一般式R(CH2CO)nCO2Hで示されるβ‐ポリケト酸を経て生合成される物質の総称である。…

【カンゾウ(甘草)】より

…甘みはサポニン,グリチルリチンglycyrrhizin(ショ糖の150倍の甘みがある)やブドウ糖を含有していることによる。そのほかにフラボノイドflavonoidも含み,鎮咳(ちんがい),鎮痛や利尿作用がある。そのため風邪や咽喉の病気,さらに胃腸薬として用いられている。…

【色素】より

…カロチンは動物体内でビタミンAとなり,視紅と呼ばれる色素タンパク質を形成し,視覚に重要な役割を担っている。(2)フラボノイドflavonoid C6-C3-C6の炭素骨格をもち,植物のほとんど全組織にひじょうに広く分布している黄色の色素。フラボン類,フラバノン類,アントクロール,アントシアン,カテキンなどがある。…

【センブリ(千振)】より

…湯の中で1000回振り出してもまだ苦いのでセンブリ(千振)の和名がある。苦味配糖体スウェルチアマリンswertiamarin,フラボノイドを含み,苦味健胃薬として消化不良,食欲不振などの家庭薬の原料として用いる。センブリのアルコール抽出物は脱毛症に効果がある。…

※「フラボノイド」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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