〈こすり絵,摩擦画〉の意味で,物体の粗い表面に紙などをあてて,鉛筆や筆でこする手法,あるいは作品。子どもの遊びや石拓,魚拓などに古くから用いられているが,この手法に積極的な表現の意味を与えたのは,シュルレアリスム時代のM.エルンストである。彼はある雨の日,ホテルで床板を見ていて,その木目がいらだたしさを伴った幻覚を与えるのに耐えきれず,その上に紙をあてて黒鉛でこすってデッサンを作り,幻覚をしずめた。これが〈フロッタージュ〉のはじまりといわれる。エルンストは,レオナルド・ダ・ビンチが顔料を浸した海綿を壁に投げつけて,そのしみの中に幻想的なイメージを見たという故事を先例としてあげているが,シュルレアリスムでは,これを意識下の世界を写しとる,オートマティスムの手法を一歩進めたものとしてとらえた。そこでは,物質の側が心の内部を刺激するのであり,オブジェとならんで,シュルレアリスムの即物的な方向を示すものといえよう。
執筆者:東野 芳明
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「こすること」を意味するが、1925年にマックス・エルンストによって発見、創始され、彼を中心にシュルレアリストの愛好する技法として使われた。エルンストは種々のものに紙を当ててこすって得られたデッサン集『博物誌』『百頭女』などを制作したほか、この技法を絵画にも応用した。以後、現代美術の基本的な技法の一つとみなされ、また第二次世界大戦後にはこれから派生したグラッタージュgrattage(ひっかくこと)の技法などをも生んでいる。
[千葉成夫]
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…22年パリへ移住し,詩人エリュアールとの共編《不死者の不幸》を出版。25年,目の粗い物体の表面に紙をあて,鉛筆などでこすって視像をえる〈フロッタージュ(摩擦画)〉の技法を発見。この技法は〈精神的な諸能力の刺激感応性を強化する〉幻覚の定着方法といわれるが,これにもとづく作品集《博物誌》を翌年刊行した。…
…ヨーロッパでも中世末から教会内の碑銘や墓碑銘を写し取るのに用いられた。現代ではM.エルンストが作品集《博物誌》にこの技法を用い,以後フロッタージュの名称で現代絵画の一造形技法となっている。【坂本 満】。…
…とくに現代では版画というよりも造形的表現手段の一つとなっている。 1点制作という点で,モノタイプを広義にとらえれば,H.セーヘルスの,1点ずつ版や色を変えた色刷版画や,シュルレアリストの用いたフロッタージュ,デカルコマニー,あるいは版画に網,布片,紐などを置いて,それを台材に写し取らせる方法(例えば恩地孝四郎の作品)や墨流しもモノタイプといえる。【坂本 満】。…
※「フロッタージュ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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