へどろ(読み)ヘドロ

デジタル大辞泉 「へどろ」の意味・読み・例文・類語

へどろ

河口海岸・沼などの底に堆積たいせきしてできた柔らかな泥。特に、産業廃棄物有機物などが堆積したもの。

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精選版 日本国語大辞典 「へどろ」の意味・読み・例文・類語

へどろ

  1. 〘 名詞 〙
  2. 河、湖沼、海などの底に堆積している軟らかな泥。
    1. [初出の実例]「此落たる辺の水辺はヘドロ也ければ群集の人の勢にて橋梁を泥中へ踏込みし也」(出典:随筆・兎園小説余録(中央公論社版新燕石十種所収)(1829‐32)一)
  3. 工場排水や産業廃棄物などが堆積してできた泥状物質。汚泥。
    1. [初出の実例]「流れ込む汚水や汚物は一日約五百トンにものぼり、ドロドロになった沈でん物がヘドロとなって」(出典:毎日新聞‐昭和四二年(1967)一二月一六日)

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「へどろ」の意味・わかりやすい解説

へどろ

河川・湖沼や、港湾海域などの底層に浮遊・堆積(たいせき)した微細粒子群のこと。土木工事関係者が、その取り扱いにくさ、異臭などによる不快さを嘆き、「へど」と「泥」から造語した俗語で、そうした性状を有するもの。1960年代後半、静岡県田子ノ浦港が周辺パルプ工場から排出された製紙かすと廃液で埋まり、大型船舶の航行が制限されて社会的に大きな関心をよび、「へどろ公害」とよばれたことから、このことばが広まり、環境汚染と関連して広く使われるようになった。

 へどろは人間活動あるいは自然に由来し、有機性のもの、無機性のものに大別される。生活排水や工場排水に由来する有機物や有害物を多く含むものがしばしば問題とされ、有機物の場合、分解されるとまず水中の溶存酸素が消費され、嫌気性分解が進むと有毒ガスが発生して、どちらの場合も水生生物の生息を妨げる。また窒素やリンを放出して藻類を異常発生させ、富栄養化を引き起こす。有害物には水銀カドミウム、鉛などの重金属類やPCB、農薬、ダイオキシン類などの有機物があり、水系を汚染するとともに、食物連鎖のなかで生物濃縮されて魚介類の汚染を引き起こす。一方、河川水中の微粒子は河口で海水と接すると凝集沈降するが、この際に、へどろ状を呈することが少なくない。

 へどろ対策には、流入汚濁負荷の軽減、浄化用水の導入、へどろの浚渫(しゅんせつ)などがある。浚渫されたへどろは、そのまま、あるいは凝集剤セメントなどを添加し固化・安定化して投棄・処分するが、その際、二次汚染の防止に十分な注意が必要である。

[高橋敬雄]

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改訂新版 世界大百科事典 「へどろ」の意味・わかりやすい解説

へどろ

港湾,河口,湖沼などの水域に堆積した泥状物質。語源は明らかでないが,名古屋地方の方言では海底の黒色汚泥をいい,また神奈川県の旧津久井郡や奈良県宇陀郡の方言では泥や泥濘(でいねい)を指している。へどろは,周辺から流入する生活排水や臨海工業地帯からの排水が停滞しがちな水理条件下で,それらの排水中の懸濁物質有害物質が凝集して沈殿堆積することで生成する。へどろが公害問題として注目されたのは,昭和40年代の田子ノ浦港のパルプ工場排水によるへどろ堆積と硫化水素などの発生による悪臭が始まりである。このとき,約210万m3/日の排水が流され,約3000tのへどろが堆積したと推定されている。その後全国でへどろ問題が顕在化したが,とくに水俣湾海域の水銀を含むへどろの堆積をはじめとして,水銀,PCB,鉛,カドミウムを含む有害へどろについての対策が必要となった。処理処分法としては,浚渫(しゆんせつ)して除去する方法と,へどろの存在する位置で覆土処理するか固化処理してしまう方法がある。有害物質を含まないへどろは浚渫処理が容易で,海岸埋立てや沖捨て処分が実施されているが,自然環境保護の見地から浚渫,埋立てが困難な場合には,へどろを原位置に封じ込める覆土や固化処理が採用される。例えば有機へどろは赤潮の原因物質である窒素,リンを含んでいることから,これらが浸出してこないように砂や土による覆土工法が利用される。また有害物質を含むへどろは,浚渫時に有害物質を含む懸濁物質の汚染拡散を防止することと,浚渫したへどろを処理によって安定化して埋立処分することが必要で,さまざまな方法の開発が試みられ実施に移される段階にきている。
汚泥
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「へどろ」の意味・わかりやすい解説

へどろ

河口,湖沼,湾などの底に堆積した有機物を含む汚泥。灰泥 (はいどろ) ,維泥 (いどろ) のなまった言葉ともいわれ,産業廃棄物などが水底にたまって粘っこい泥状になったものをさす。 1970年静岡県富士市田子ノ浦で,紙・パルプ工場から放流された未処理の廃水によってできたへどろが港を埋め,大型船の入港ができなくなり,硫化水素を発生して住民の健康を脅かす公害問題を起し,水質汚濁防止法制定の契機の一つとなった。また駿河湾,東京湾,瀬戸内海の各所で工場廃水あるいはプランクトンの死骸によるへどろが沈積し,水質汚濁,魚介類の被害などが出ている。なおへどろ汚染の著しい海域では,へどろ除却などによって海域を浄化する政策が進められている。

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百科事典マイペディア 「へどろ」の意味・わかりやすい解説

へどろ

流れのゆるやかな河川,港湾,運河,湖沼,ダムなどの水底に堆積(たいせき)している柔らかい汚泥。原因は工場排水,鉱山排水,農業排水,自然現象などによるが,工場排水によるものは有害物質を含んでいる可能性がある点でとくに重要。へどろの公害形態には,有害物質を含み魚介類を通じて人体に害を及ぼす,有機物を大量に含み堆積中に変化を起こして有毒ガスを発生する,堆積により港湾機能を阻害するなどがある。田子ノ浦港,伊予三島港などでは,紙・パルプ排水のへどろにより硫化水素ガス発生,航行障害などをひき起こし社会問題となった。→工業排水

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栄養・生化学辞典 「へどろ」の解説

ヘドロ

 →スラッジ

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世界大百科事典(旧版)内のへどろの言及

【汚泥】より

…また港湾,湖沼,河川,ダムなどの堆積汚泥は,公共水域に排出した都市下水,工場排水などに含まれている浮遊物質や,市街地道路から雨水とともに流出してきたり,森林,田畑から流出してきた浮遊物質などが沈殿して生成される場合と,水中のプランクトンが死滅沈降して堆積して生ずる場合などがある。 このように汚泥はさまざまな分野,過程から発生し,したがってその性状も,電解苛性ソーダ工業,めっき工業などから発生する有害物質を含む汚泥,下水道,屎尿処理施設,浄化槽,製紙パルプ業,食品工業などから発生する有機汚泥,窯業,金属工業,鉱山から発生する無機性汚泥,石油関連業から発生する含油汚泥,港湾,湖沼,河川などに堆積する有機無機混合汚泥(いわゆるへどろ)など多岐にわたる。 〈廃棄物の処理及び清掃に関する法律〉(略称〈廃棄物処理法〉)では,これらの汚泥を事業活動に伴って発生する産業廃棄物としての汚泥と,屎尿浄化槽汚泥などの日常生活に伴って生ずる一般廃棄物としての汚泥に分類している。…

【紙・パルプ工業】より

…また,紙・パルプ工業は原料輸送と用水の面で集中立地する傾向があり,静岡県富士市地区,愛媛県伊予三島・川之江地区などではこれにより被害はいっそう深刻となり,70年前後には一大社会問題となった。とくに富士市では,県の行政指導が廃水処理を各工場に要求しないというものであったため,月量200万tの各種廃水が無処理で田子ノ浦港に流入し,日量3000tのへどろが港内に沈積した。このため,68年から港内の浚渫(しゆんせつ)が行われへどろの沖合投棄が行われたが,駿河湾特産のサクラエビをはじめとする沿岸漁業の被害が大きく,漁民の抗議で70年4月から浚渫は中止された。…

※「へどろ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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