ヘブライズム(読み)へぶらいずむ(英語表記)Hebraism

翻訳|Hebraism

デジタル大辞泉 「ヘブライズム」の意味・読み・例文・類語

ヘブライズム(Hebraism)

古代ヘブライ人の思想・文化。旧約聖書ユダヤ教)および新約聖書の全体を含むキリスト教の精神を包含する語。ヘレニズムとともにヨーロッパ文化の二大源流とされる。

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精選版 日本国語大辞典 「ヘブライズム」の意味・読み・例文・類語

ヘブライズム

  1. 〘 名詞 〙 ( [英語] Hebraism ) 古代ユダヤ教、ヘブライの民族性ないし思考方法。また特に、ユダヤ教・キリスト教の精神を包含した思潮。ヘレニズム(ギリシア文化)とともにヨーロッパ文化の二大思潮をなす。
    1. [初出の実例]「文芸復興は神に人間が隷属し、人間は罪の子である、神の奴隷である、としたヘブライズムから人道主義へ解放して」(出典:女工哀史(1925)〈細井和喜蔵〉一四)

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ヘブライズム」の意味・わかりやすい解説

ヘブライズム
へぶらいずむ
Hebraism

狭義ではヘブライ語法を意味するが、広義ではヘブライ宗教(旧約聖書)によって根本的に規定され特徴づけられたヘブライ思想、文化、生活および伝統の全体、あるいはその特質をさす。とくに精神史的な概念としては、ギリシア精神としてのヘレニズムと類型的に対比されることが多い。この場合には原始キリスト教、さらにはキリスト教的伝統一般を包括するヘブライ的キリスト教的なものの総称である。このような対比は古くから知られていたが、イギリスの詩人で批評家のM・アーノルドが、『教養と無秩序』において、ヨーロッパを歴史的に形成し動かしている二つの動機としてあげてから、一般に有名になった。彼によれば、意識の自発的な働きが支配的観念であるヘレニズムに対して、ヘブライズムの支配的観念は良心の峻厳(しゅんげん)と服従である。

[水垣 渉]

思想

このような宗教的、倫理的態度に特徴をもつヘブライズムは、古代イスラエル民族の唯一神ヤーウェに対する信仰が歴史的な経験を通して展開されることによって形成され、預言者においてその頂点に達したものである。したがってヘブライズムは預言者的精神Prophetismusで代表されることがある。

 ヘレニズムに対するヘブライズムの特徴として一般にあげられるのは、前者観念論、合理主義、客観主義などに対して、後者実在論、非合理主義、主意主義、人格主義、精神と肉体・物質との二元論を排する神の創造による現実主義、歴史とその意味とを創造と終末との間の一回的過程において把握しようとする歴史観などである。しかしこのような一般的見解を学問的に根拠づけ、それでヘブライズムとヘレニズムとの歴史的交渉を究明することは困難な課題に属する。そのような試みの一つとして、ギリシア的存在論に対して、神の存在・働きを示すヘブライ語「ハーヤー」hāyāhに基づく「ハヤトロギア」hajathologiaの提唱(有賀鐵太郎)は重要である。

[水垣 渉]

『トーレイフ・ボーマン著、植田重雄訳『ヘブライ人とギリシア人の思惟』(1970・新教出版社)』『『キリスト教思想における存在論の諸問題』(『有賀鐵太郎著作集 第四巻』所収・1981・創文社)』

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改訂新版 世界大百科事典 「ヘブライズム」の意味・わかりやすい解説

ヘブライズム
Hebraism

ヘレニズムと並ぶヨーロッパ思想の二大源流の一つ。実際には両者は相互に影響して歴史上種々の現れ方をした。ここではヘブライズムの淵源である旧約聖書(一部新約聖書)の根本思想の特色を摘記するにとどめる。

 ヘレニズムがヒューマニズムと本質的につながるのに対して,ヘブライズムは神から人への啓示を根幹とするといえよう。これを,われわれ日本人にとっての仏教思想との対比においても確認しておきたい。この啓示という性格については,従来かなりの誤解があると思われる。啓示をただ超越的な神が天から命令を下し,それに従う者によき報いを与え,従わない者を罰する,というのが日本のみならずヨーロッパやアメリカにおいても広くゆきわたっている俗流の理解である。しかしヘブライズムにおける啓示というのは,この歴史の中で神の霊が言葉と一体をなして働くリアリティをいうのである。硬直した教理的なコトバが外から人を縛る,ということとはおよそ違うのである。神の霊が歴史,さらに自然に内在する恵みの事実が出発点であり,その恵みが言葉として誡命に形をとる。エジプトからの救済がシナイにおける法の啓示(十誡)にいたり,ヘブライズムの本来の出発がなされた,と思われる。そこからパウロが《ローマ人への手紙》7章14節でヘブライズムの真髄として〈律法が霊なるものである〉と簡潔に表現していることが理解される。シナイにおけるごとく霊なる法にふれて人は一度死を経験し,霊なる恵みの神の誡命に生き始める。誡命は個人の生活から社会の生活に及ぶから歴史形成的である。内容からみれば,神への信仰,人への愛,歴史の前途に対する希望であり,この信,愛,望は古き人の無信,無愛,無望の苦しみを通って与えられる。この無の契機は仏教とも通じ,ヘブライズムを含む東洋思想の特質で,霊的充実にいたる生命を生み出すとされる。
執筆者:

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ヘブライズム」の意味・わかりやすい解説

ヘブライズム
Hebraism

西欧精神の根底を構成すると考えられている思考類型の一つ。通常ヘレニズムと対比して考えられる。特にイギリスの批評家 M.アーノルドが提唱してから一般的になった。旧約聖書的思考だけではなく,新約聖書を通してキリスト教に継承され,完成されたとされる。神との一致において知よりも実践を重んじ,深刻な罪の意識をもち,自己克服によって平安を求めようとする努力などがその特徴といわれる。なお新約聖書学では異邦人から改宗したキリスト者に対し,ユダヤ教の伝統を重んじたユダヤ教出自のキリスト者の思考様式,言語ではヘブライ語的な特色をそなえた言い回しなどが,それぞれヘブライズムと呼ばれている。

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山川 世界史小辞典 改訂新版 「ヘブライズム」の解説

ヘブライズム
Hebraism

ヘレニズムとともにヨーロッパ文化の伝統を支えている思想。ヘブライ人ヤハウェ信仰の神中心主義に由来し,キリスト教においては神の啓示による正義と愛を基調とし,ヘレニズムの人間中心主義と対比される。

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百科事典マイペディア 「ヘブライズム」の意味・わかりやすい解説

ヘブライズム

ヘレニズムと並んで西洋の精神史を形づくる思想的伝統。約言すれば聖書に発する世界観,ひいてはキリスト教の世界観をいう。

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旺文社世界史事典 三訂版 「ヘブライズム」の解説

ヘブライズム
Hebraism

ヘブライ人がユダヤ教を基調として形成した思想で,キリスト教をもさす
神の啓示による正義と愛を原理とし,キリスト教に継承されて発展した。ヘレニズムとともに西洋精神の根底をなす。

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世界大百科事典(旧版)内のヘブライズムの言及

【神】より

…この超越神信仰は,神話的な表象によって宇宙を彩る自然神信仰や,人間霊の転変によって世界を解釈しようとする人間神信仰とは異なって,宇宙と世界の調和を一つの抽象的な原理によって説明しようとするところに特徴が見られる。【山折 哲雄】
【ヘブライズムの神】
 古代イスラエル宗教,ユダヤ教,キリスト教,さらにイスラム教の系譜は,ふつう(唯)一神教といわれる。経典では旧約聖書(ユダヤ教では〈律法・預言者・諸書〉略してタナハTanakh),新約聖書,さらにコーランに示される。…

※「ヘブライズム」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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