ホウロウ(読み)ほうろう(その他表記)porcelain enamel

翻訳|porcelain enamel

改訂新版 世界大百科事典 「ホウロウ」の意味・わかりやすい解説

ホウロウ(琺瑯) (ほうろう)
enamel

鉄板などの金属板の表面に,ガラス質被覆を高温で付けることによって,化学的な耐久性を増大させたもの。エナメルともいう。家庭用品などに使用される一般ホウロウと,化学工業の反応容器などに使用される産業用との2種類がある。後者は化学的耐久性を高めたもので,耐酸ホウロウ,グラスライニングなどがある。七宝(しつぽう)もホウロウの一種である。

 フリットと呼ばれるガラス粉末と粘土やある種の有機物などの添加物との混合物に水を加えて,ボールミルで微粉砕した釉(うわぐすり泥漿を,金属板の表面にスプレーガンで吹き付けるなどの手法で付着させ,乾燥後800~900℃の温度で熱処理をしてガラス粉末を融解させ,均一な薄膜にしたものである。下地金属としては軟鋼鋳鉄アルミニウム,銅,ステンレス鋼などが使用される。ガラス層と金属との密着性を改良するために,表面を清浄にした後に,通常は下釉と呼ばれる釉をまず融着する。この際,金属との結合力が第一に要求されるため,下釉はコバルトニッケルマンガンなどを含み,通常黒色,濃青色などに着色している。下地金属と釉の密着をよくするため,その膨張率を一定の関係に保つことが重要で,一般には,下釉の膨張係数は下地金属の約85%である。下釉をまず850℃前後の温度で融着させ,次に上釉をかける。上釉は,下釉の色をかくすために乳白色にすることが多く,そのために酸化ジルコニウム酸化チタンなどを含む。上釉は780~800℃程度の温度で融着し,膨張係数は下地金属の約70%程度になるような組成となっている。このような2段階の施釉のほかに,1段階の方法もある。また近年では,低い融着温度でありながら,優れた化学的耐久性をもたせるような組成が選ばれている。表にグラスライニング用の下釉と上釉の組成の一例を示す。

 ホウロウ製品は,取扱いを注意しないと表面のガラス層が剝離(はくり)し,その部分から金属の腐食が始まることがある。ことに衝撃にはあまり強くなく,ガラス製品と同様の注意が必要である。家庭用に使用されるホウロウの化学的な耐久性は必ずしも高くはなく,高温の食酢によっても徐々に侵される。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ホウロウ」の意味・わかりやすい解説

ほうろう
ほうろう / 琺瑯
porcelain enamel

鉄、銅、銀、アルミニウム、金などの金属の表面を薄くガラスで覆ったもの。高温でフリット(ガラス質粉末)を焼き付けてつくる。ほうろう鉄器がもっとも多く、古くからさびを防ぐ目的で生活用具に使われてきたが、現在では大型の浴槽、反応容器などにも使われ、またアルミニウムほうろうも用途を広げている。銅、銀、金は美術工芸品に利用され、勲章、七宝(しっぽう)などはその代表的な例である。

 ほうろうの起源は古く、出土品からみると紀元前4世紀にエジプトで金や銀に用いられ、また鉄ほうろうはヨーロッパで1800年には始まっている。このほか、鉄パイプの中でガラス管を加熱、軟化させて内面に融着したガラスライニングパイプや、フリットを焼き付けてからガラスセラミックス(結晶化ガラス)にして強度を高めたものなどがある。ともに化学工業方面に使われるが、後者はとくに強度の点で優れている。

 鉄ほうろうを例にとると、油などの除去を兼ねて加熱後、サンドブラストや酸洗いで表面を清浄にしてから下がけフリットのスリップ(鉱物粉末の濃厚な懸濁液)を吹き付け、乾燥して焼成し、同じ手順で上がけフリットをその上に焼き付けて完成する。スリップ中にはフリットの沈降を防ぐため少量の解膠(かいこう)剤を加える。ほうろうによっては1回の焼成で完成するものも開発されている。

 ほうろうはガラス質なので、水、薬品に強く耐熱性もあって衛生的にも優れているため、品質の向上とともにふたたび用途を広げている。しかし、機械的および熱的衝撃には弱いので注意を要する。

[境野照雄]


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普及版 字通 「ホウロウ」の読み・字形・画数・意味

】ほうろう(はうらう)

道芝の茂み。〔詩、曹風、下泉〕冽(れつ)たる彼の下泉 彼の(ひた)す 愾(がい)として我(われ)寤(ごたん)す 彼の京を念ふ

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【培】ほうろう

小丘。唐・柳宗元〔始めて西山を得て宴游する記〕(まと)ひ白を繚(めぐ)らし、外、天と際し、四一の如し。然る後是の山の特立して、培を爲さざるを知るなり。

字通「培」の項目を見る


【芳】ほうろう(らう)

美酒。宋・陸游〔病後自詠〕詩 狂豪ひ去つて殘を得たり を數啜(すうせつ)して興亦た闌(たけなは)なり

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朗】ほうろう

轟。

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】ほうろう

小さなかめ。

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琅】ほうろう

大きな声。

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【磅】ほうろう

鼓の高くひびく音。

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百科事典マイペディア 「ホウロウ」の意味・わかりやすい解説

ホウロウ(琺瑯)【ホウロウ】

金属の表面にガラス質の釉(うわぐすり)を焼き付けて処理したもので,エナメルともいう。金属の堅牢性とガラスの耐食性,美観を兼備する。素地金属としては鋼板のほか,鋳鉄,アルミニウム,銅なども用いられる。金属表面を清浄にしたのち下釉を焼き付け,さらに上釉を数回焼き付ける。下釉は金属との密着を目的としてコバルト,ニッケルなどの酸化物を加えるため着色している。上釉は白色に仕上げるために酸化チタン,酸化スズなどの白色顔料を加え,必要に応じて色釉を施したり絵付を行う。化学機器,衛生器具,台所用品などに広く使われ,銅,金,銀などを素地にしたものは工芸品の七宝(しっぽう)とされる。
→関連項目エナメルグラスライニング

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ホウロウ」の意味・わかりやすい解説

ほうろう
porcelain enamel

金属の上からガラス質の被膜をコーティングしたもので,金属の強さと,ガラスの耐食性,清潔さとをあわせそなえたもの。家庭用容器をはじめ調理台,洗濯機,冷蔵庫,あるいは化学工業用容器など用途は広い。基材の金属は鉄や鋼が大部分で,鉄器がほうろう製品を代表し,一般にほうろう鉄器といわれる。ほかに金,銀,銅や鋳鉄,アルミニウムなどが使われる。釉は,金属基材に直接密着する下掛けぐすり (コバルト,ニッケル,マンガン,モリブデンなどの酸化物) と,その上に施して装飾性と耐食性を与える上掛けぐすりから成り,さらに着色,色模様をつけるために色掛けぐすりをかける。こうした釉を,表面をきれいにした金属基材にかけ焼成する。焼成温度は,下掛けぐすり 870~920℃,上掛けぐすり 800~850℃程度である。耐食性を強化したほうろうに,耐酸ほうろう,グラスライニングなどがあり,耐熱性を特によくしたものに,耐熱ほうろうやセラミックコーティングなどがある。

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化学辞典 第2版 「ホウロウ」の解説

ほうろう
ホウロウ
enamel

粉末状の酸化物を金属表面に焼き付け,光沢のあるうわぐすり状にしたものの総称.酸化物にはB2O3,Al2O3,SiO2,PbO,アルカリ金属,およびアルカリ土類金属酸化物などが用いられる.基材の金属には,主として軟鉄,鋳鉄,アルミニウムなどを使う.銅,銀などは七宝,工業用の内張りの場合にはガラスライニングとよぶ.金属に焼き付ける温度はガラスの流動温度程度であるから,金属の耐熱性に従ってガラス組成を選ばなければならない.ほうろうの接着強度を高めるなどの目的から金属表面にニッケル処理したり,サンドブラストをかけたり,薄い下掛け用のほうろうをあらかじめかけたりする.

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報

世界大百科事典(旧版)内のホウロウの言及

【七宝】より

…七宝焼の略。ホウロウ(琺瑯)ともいい,英語のエナメルenamel,フランス語のエマイユémailにあたる。金属の素地にガラス釉(ゆう)を焼きつけて装飾する工芸。…

※「ホウロウ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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