翻訳|polio
口から感染するポリオウイルスが神経を侵し、手足などがまひする病気で、5歳未満の乳幼児がかかることが多い。急性灰白髄炎とも呼ばれる。感染者の多くは無症状だが、数%に下痢や
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ポリオウイルスによる急性伝染病で、脊髄(せきずい)神経の灰白質が侵され、夏かぜのような症状が現れたのち、急に足や腕が麻痺(まひ)して動かなくなる疾患をいう。急性灰白髄炎、脊髄性小児麻痺、ハイネ‐メジン病Heine-Medinともよばれていたが、ワクチンの普及以来、単にポリオと略称されることが多くなった。かつて、伝染病予防法では急性灰白髄炎として届出(とどけいで)伝染病に含まれていたが、1959年(昭和34)6月15日厚生省告示第182号により予防方法を施行すべき伝染病として指定され、1976年指定のラッサ熱とともに指定伝染病となった。現在は、1999年(平成11)施行の感染症予防・医療法(感染症法)により2類感染症に分類されている。
[柳下徳雄]
ポリオは紀元前から存在し、全世界に普遍的にみられた疾患で、患者の糞便(ふんべん)が感染源となっておもに経口感染し、ウイルスは下水中に容易にみいだされた。日本でもポリオ生(なま)ワクチンの使用前までは毎年2000~3000人の届出患者があり、欧米では学童期に多発したが、日本では4歳以下の乳幼児が90%以上を占めていた。1960年に北海道と九州を中心に大流行し、届出患者数が5606人に達して社会問題化した。当時欧米でその効果が注目されていたソークワクチン(不活化ワクチン)とセービンワクチン(弱毒生ワクチン)の接種を翌年から全国一斉に実施した結果、ポリオの発生の様相が一変して患者数が激減し、1961年の2436人が翌年には289人に減り、接種実施後3年で100人を割って、1970年代後半からは年間数人の発生をみるにとどまった。これもワクチンのウイルスによる発症とみられるもので、自然発生によるポリオは皆無というのが現状である。しかし、アジア・アフリカ諸国ではときに流行することがあり、旅行者による国内持ち込み(ポリオウイルス保有者)がときどき発見される。こうした現象は欧米諸国でも同様であり、WHO(世界保健機関)では国際ロータリークラブと連携してポリオ絶滅に向けた運動を展開している。
[柳下徳雄]
ポリオウイルスは患者の咽頭(いんとう)や喉頭(こうとう)の分泌物および糞便中に数週間にわたって排泄(はいせつ)され、主として経口感染、まれに飛沫(ひまつ)感染する。感染力は潜伏期後半と発病後1週間がもっとも強い。免疫は、自然感染および生ワクチン接種を問わず1週間後から中和抗体を生じ、1か月後にピークに達したのち、一生持続する。新生児の母親から受け継ぐ抗体は、約6か月で消失する。
[柳下徳雄]
潜伏期は普通7~14日。典型的な病型は麻痺型であるが全体の0.5%にすぎず、大部分(90~95%)は無症状で抗体の上昇だけがみられ、本人も知らないうちに免疫ができて治ってしまう不顕性感染である。そのほか、熱が出て夏かぜ様の上気道のカタル症状や消化器症状を示す初期症状だけの不全型(4~8%)と髄膜刺激症状を示すが麻痺の発現しない非麻痺型(0.5~1.0%)がある。
[柳下徳雄]
感染症指定医療機関に入院して治療するのが望ましいが、特異療法はなく対症療法を行う。急性期(有熱期)には麻痺の進行を抑制するために安静を守り、必要に応じて鎮痛剤や鎮静剤を投与する。解熱して回復期に入ると麻痺の進行はなくなるので、リハビリテーションなどを行い機能回復に努める。呼吸麻痺や延髄麻痺が認められる場合には気管切開や人工呼吸器による治療などが必要となり、後遺症としての麻痺や四肢・体幹の変形に対しては整形外科的治療を行う。
[柳下徳雄・編集部]
麻痺がおこらなければ良好である。麻痺は熱が下がるころ(通常発病後7~10日)にみられ、弛緩(しかん)した麻痺筋は1~2か月後に萎縮(いしゅく)して変形などの後遺症を残す。死因の多くは呼吸障害で、死亡率は流行によっても異なるが通常5~10%である。
[柳下徳雄]
日本では、定期接種は、初回は生後3か月から12か月の間に3回、追加接種として、初回接種から12か月から18か月の間に1回、不活化ポリオワクチンの接種を行う。2012年(平成24)以前に用いられていた経口生ワクチンでは、まれに麻痺の副反応がみられたが、不活化ワクチンではこのような重篤な副反応はみられず、まれに発熱や接種部位の腫(は)れが起こる程度である。
[編集部 2022年12月12日]
ピコルナウイルス科のエンテロウイルス属に属するRNA1本鎖ウイルス。直径28ナノメートル、カプソメア数32で、エンベロープ(被膜)はなく、エーテル耐性である。血清学的にⅠ・Ⅱ・Ⅲ型に分けられる。エーテルや酸に安定。塩素消毒に弱く、50℃30分間で不活化される。ヒトは自然感染する唯一の宿主であり、地域や季節に関係はない。血清学的診断は、発病後すぐの血清と2~3週後の血清の補体結合抗体価を測定し、後者の血清抗体価が4倍以上高い場合は感染したものと判定する。ウイルスの分離は、咽頭粘膜分泌物や糞便材料を対象とし、遠心分離した上澄みを組織培養に加えて細胞変性効果をみる。
[曽根田正己]
届出伝染病の一つで,急性灰白髄炎ともいい,かつては小児麻痺と称した。ポリオウイルスによる感染症で,下肢や上肢の永久的な麻痺を起こす疾患として恐れられた。しかし1954年にJ.E.ソークによって不活性ワクチンが,58年にA.B.セービンによって弱毒ワクチンが開発され,ポリオは著しく減少した。古くから知られた病気で,紀元前にすでに記録されており,古代エジプトの遺跡にもみられる。医学的には,ヘインJ.von Heine(1840),メディンO.Medin(1887)によって記載され,このためヘイン=メディン病とも呼ばれた。19世紀末から20世紀にかけて欧米を中心に世界的流行が繰り返され,日本でも1938年と40年に関西地方,49年には東北,北海道地方で流行をみた。60年には届出患者数5606人であったが,61年に生ワクチンの一斉接種(飲むワクチンであるが,接種という)の結果,75年には21人,76年4人,その後年間の発生は1~2人であるが,届出は0と激減した。
ポリオウイルスは,RNAウイルスのピコウイルス属に属する直径25nmの球状のウイルスで,血清学的にはⅠ型(ブルンヒルデ型),Ⅱ型(ランシング型),Ⅲ型(レオン型)の3型に分類される。このうちⅠ型が大流行をひき起こすといわれる。このポリオウイルスが経口感染すると小腸で増殖し,約1週間で血液中に入って12~14日目に中枢神経に侵入する。ウイルスは脊髄の運動神経細胞を破壊し,その障害は不可逆的なので麻痺を残す。しかし感染を受けたもの全部が麻痺を起こすのではなく,約90%以上は麻痺が起こらない。
ウイルスは患者の便の中に約2週間排出され,それが経口伝染する。日本では6,7月に多発する傾向があった。生後4ヵ月ころまでは母親からの抗体をもっているので感染しないが,3歳未満に多く,1歳台が最も多い。現在では予防接種によって90%以上の小児が抗体をもっている。
ポリオは症状や経過によって,次のように分類される。(1)不顕性感染 感染を受けてもなんの症状も現さないもの。(2)不全型感染 微熱,嘔吐,筋痛などの症状が1~3日続く。その後無症状の時期が2~3日あって,軽い中枢神経機能低下を呈するものもある。(3)非麻痺型 発熱,頭痛,嘔吐などがあり,髄膜炎の症状や検査所見を呈するもの。(4)麻痺型。
発熱が3~5日続き,解熱と同時か1~2日後に麻痺が起こる。麻痺は下肢に多いが,上肢,呼吸筋麻痺も起こることがある。麻痺が下肢から上肢,延髄と順次上に向かうものはランドリー型といわれる。四肢の麻痺は一般に片側性である。麻痺は1~2日進行することがあるが,その後多少は回復の傾向を示す。初めの1~2ヵ月は比較的速やかに回復に向かうが,その後は非常に徐々で,2~3年以上たっても麻痺がみられるものは永久的な麻痺となる。麻痺型の約50%が永久麻痺を残す。
特別な治療法はないが,神経細胞を少しでも回復させる目的でビタミンB6やB12,ATPなどが使用される。急性期には安静を保ち,麻痺が進行しなくなり,回復の兆しがみえたら運動療法,尖足防止のためリハビリテーションも必要である。
予後は麻痺の起こらないものでは良好であるが,麻痺を起こしたものの約5%が呼吸麻痺や肺炎で死亡,15%は重症麻痺を残す。30%が軽度の麻痺を残すか一過性の麻痺,残りは中等度麻痺を残す。
経口生ワクチンにより完全な終生免疫ができる。ポリオウイルスを弱毒化したもので,生後3ヵ月から48ヵ月の間に2回定期予防接種として行われている。1回目と2回目の間は6週間以上の間隔をあければよい。ワクチンにはⅠ,Ⅱ,Ⅲ型すべてが含まれている。
執筆者:渡辺 言夫
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(2014-5-08)
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…メッサラのサークルにはティブルスと,リュグダムスLygdamusやスルピキアSulpiciaが属した。みずから詩人および歴史家でもあったポリオPollioは,文人を集めて朗読会を催す習慣を作った。 ウェルギリウスの最初の傑作《牧歌(詩選)》は,〈新詩人〉の精神に従ってアレクサンドリア派のテオクリトスのジャンルをラテン語で試みたものである。…
…眼球を動かす外眼筋,頭顔部にある表情筋,軟口蓋・咽頭・喉頭・舌などの横紋筋などに運動神経を送っている神経細胞は脳幹にあるが,これらもまた脊髄前角細胞と同類の運動神経細胞である。ポリオ(小児麻痺,急性灰白髄炎)のウイルス(ポリオウイルス)は好んでこれらの運動神経細胞を侵す。もし,ある運動神経細胞がポリオウイルスに侵されると,その運動神経細胞が支配している筋肉が麻痺する(作動しなくなる)わけである。…
…単麻痺は,また神経叢や神経根の損傷によっても生じ,おのおのの部位に応じた特有の運動麻痺を呈する。脊髄前角を侵すポリオ(小児麻痺)も原則としては単麻痺を生ずることが多く,侵された脊髄部分に対応する領域の筋肉に強い運動麻痺と筋萎縮がみられるようになる。 対麻痺paraplegiaは,下半身の両側性の運動麻痺であり,脊髄,とくに胸髄・腰髄の損傷によるものが多いが,下肢の筋肉,末梢神経,神経根,または脳の病変によっても生ずることがある。…
…また多発性神経炎や,ギラン=バレー症候群においては,広い範囲にわたって神経原性筋萎縮が認められる。最も高度の神経原性筋萎縮は,脊髄運動ニューロンの病変によって生ずるが,その代表的なものはポリオと運動ニューロン疾患である。しかしこのほかにも,脊髄腫瘍や脊髄空洞症など,脊髄の病気で神経原性筋萎縮を生ずる原因となるものは少なくない。…
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出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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