デジタル大辞泉 の解説
ポリティカル‐コレクトネス(political correctness)
[補説]「ブラック」を「アフリカンアメリカン(アフリカ系アメリカ人)」、「メリークリスマス」を「ハッピーホリデーズ」、「ビジネスマン」を「ビジネスパーソン」と表現するなどの例がある。日本語でも、「看護婦・看護士」を「看護師」、「保母・保父」を「保育士」などの表現に改めたことが、これに相当する。
略称PC。アメリカで1980年代ごろから多用されるようになった言葉で、差別や偏見に基づいた表現や認識を「政治的に妥当」なものに是正すること。とくに、アメリカ社会の伝統的な文化や価値観が、西ヨーロッパ社会・白人男性至上主義に基づいて形成されてきたという認識に立脚し、アメリカ社会の民族構成に即した多文化主義の立場から文化や価値観の多様性を主張し、マイノリティ(少数派、少数民族)に対する従来の差別的な表現や認識を「政治的に妥当」なものに改めることを目ざす姿勢や考え方。さらに環境保護、動物愛護、社会的弱者の人権擁護の立場にたつなど、あらゆる分野において「政治的妥当性」を重要視する姿勢。
具体的には、フェミニズムの立場から「チェアマンchairman」を「チェアパーソンchairperson」に、マイノリティの尊厳回復の立場から「アメリカ・インディアンAmerican Indians」を「ネイティブ・アメリカンNative American」、「黒人Black」を「アフリカ系アメリカ人African-American」にいいかえる。また、コロンブスの「アメリカ大陸発見」を「新世界と旧世界との遭遇」に改めるなど、歴史的事実に関する表現とともにその根底にある偏向した価値観是正をも目ざす。こうした差別是正運動は、1960年代の公民権運動、女性解放運動、マイノリティの権利拡張・尊厳回復運動の流れを汲(く)むもので、80年代から大学を中心に大きな流れを形成してきた。従来の西洋文化偏重のカリキュラムを多文化主義のカリキュラムに変更した大学も少なくない。しかし、こうした動きは保守派の反発を招き、それが言論や学問の自由を抑圧するものだという批判も相次ぎ、大きな議論に発展した。また「政治的妥当性」を要求する行きすぎた姿勢が揶揄(やゆ)されることも少なくない。
[川口 薫]
『脇浜義明編『アメリカの差別問題』(1995・明石書店)』
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