マルファン症候群は、背が高く細長い手足と指、背骨や胸の変形といった体型的な特徴のほかに、眼のレンズがずれる(水晶体亜脱臼(あだっきゅう))、心臓を出てすぐの大動脈のつけ根の部分が風船のようにふくらんでこぶ状になる(大動脈瘤(りゅう))、大動脈の血管壁が内膜と外膜の2層にはがれる(大動脈解離(かいり))、といった重篤な症状を呈することもある、遺伝性の病気です。
約5000人に1人にみられます。性別に関係なく親から子へ50%の確率で遺伝(常染色体優性遺伝)しますが、症状の現れ方や程度には親子でも差があります。多彩な症状を認めますが、なかでも大動脈の病変は、解離を起こすまで自覚症状はほとんどありませんが、いったん解離すると命に関わるので、とくに注意が必要です。
血管系の症状が強く、水晶体亜脱臼を伴わない2型マルファン症候群は、最近、ロイス・ディーツ症候群として分類されています。ロイス・ディーツ症候群は血管・骨格・皮膚等に特徴的な症状を呈し、常染色体優性遺伝をする病気で、TGF
全身の骨、筋肉、血管、皮膚などの枠組みを作っている結合組織の成分のひとつである、フィブリリンという分子に生まれつき障害があります。これは、フィブリリン1という遺伝子のDNA配列に異常があるために、フィブリリン
この遺伝子異常は、患者の75%では親から受け継いだものですが、25%では精子あるいは卵子が作られる時に生じた突然変異によるものです。
骨格・眼・大動脈・皮膚などに症状が現れますが、症状の個人差が非常に大きい病気です。生まれてすぐに呼吸障害や筋緊張低下がみられることも、まれにありますが、多くは、幼児期から高身長、長い手足と細長い指、柔らかい関節を認めるようになります。水晶体亜脱臼のために、ものが二重に見えたり、見にくくなったりする症状が出る場合もあります。
その他、近視・乱視、背骨の
理学的所見(医師による診察)や家族歴に加え、骨格系のX線検査、心臓血管超音波検査、眼科的検査、胸腹部CT検査、MRI検査などにより、ゲント基準と呼ばれる国際的診断基準にしたがって総合的に診断します。
ただし、診断基準を満たしていなくても大動脈病変がみられることがあるので、注意が必要です。遺伝子検査は一部の機関で行われています。
心臓や大動脈の管理が最も重要で、大動脈基部拡張が進行したり大動脈解離に至った場合は、人工血管や人工弁に取り替える手術を行います。また、降圧薬で血圧をコントロールする必要があります。背骨や胸の変形に対しては、必要に応じて
個人差が大きい病気なので、個々の症状に合わせて、主治医と相談しながら生活管理をしていく必要があります。一般的には、血圧を上げる動作や、身体や頭をぶつけることの多いスポーツを避けることがすすめられます。
受診する科目としては、小児科、整形外科、眼科、循環器科、遺伝科となります。
森崎 裕子
体を構成する細胞と細胞や、組織と組織をつなぐ結合組織に、異常を来す遺伝性の疾患です。主に骨格系、眼、心臓血管系に病変が認められ、特徴ある体型を示しています。
生命に関わるのは大動脈の病変です。血管壁の結合組織が弱くなっている場合には、血管内の圧力により少しずつ大動脈が拡大して、大動脈弁が閉じなくなり、大動脈弁の逆流を生じたり、血管壁に解離が起きて危険な状態になることがあります。早期に診断して定期的に検診を行い、症状によっては手術治療となります。
染色体の異常な遺伝子による病気で、
また、TGF
背が高くやせており、長い手足と指をもつ体型を示します。脊椎
心臓血管系の病気が重要です。無症状の段階で診断されやすいものとしては、大動脈弁を含む大動脈基部の拡大、大動脈弁閉鎖不全、
心臓血管系の病気は、年が経つにつれて進行することがあり、経過を追ってみていくことが大切です。
眼の症状としては水晶体亜脱臼、偏位、近視などがみられます。また、
家族歴や骨格の診察に加えて、骨格系のX線検査、心エコー検査、眼科的検査、腰椎仙骨部のCTやMRIなどが行われます。これらの所見をもとに、どの臓器にどのような異常があるかの組み合わせによって、診断が行われます。遺伝子検査は診断というより、原因を調べるために行われています。
突然の重篤な事態を少しでも回避するには、心臓血管系の対策が最も重要です。大動脈基部が5㎝以上に拡大したり、大動脈解離を生じた時は手術がすすめられます。手術の成績は非常によくなっています。治療に使用される薬剤は、血圧を下げたり血管の保護を目的として、
この病気は、人により症状が異なります。定期的に主治医と相談し、症状や心臓血管系の状態に合わせて生活管理をしてください。血圧を上げる動作や激しい運動、体がぶつかり合う運動は避けて、大動脈、眼、骨が傷つく危険を減らしてください。必要な時期が来たら手術をすることが重要です。禁煙は必要です。
丹羽 明博
出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報
骨格と眼と心臓血管系の異常を特徴とする遺伝性の病気で,1896年フランスの小児科医マルファンB.J.A.Marfan(1858-1940)がこの病気の骨格の異常を記載したことから,この名で呼ばれている。知能は侵されないが,患者の体型は細長く,手足が長く,関節の支持がゆるい。手足の指は細長く,くも指症と呼ばれる。脊柱や胸郭にも変形がみられる。眼は水晶体の支持が弱く,偏位し,脱臼しているのが特徴的であるが,近視や網膜剝離(はくり)などもみられる。心臓血管系の異常は生命にかかわるものが多く,上行大動脈の拡張,大動脈弁閉鎖不全,解離性大動脈瘤,僧帽弁閉鎖不全などを生じる。この病気の本態はまだ解明されていないが,結合組織の先天性の異常によると考えられている。常染色体優性遺伝性疾患で,人種によらず発生し,性差もない。アメリカの第16代大統領A.リンカンはマルファン症候群であったといわれている。
→遺伝病 →心臓弁膜症
執筆者:柳沢 正義
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
…東京など各地の〈酉(とり)の市〉が扱う熊手は,落葉などをかき集める竹製の道具の模型を飾りたてたもので,1年間の福をかき集め繁盛を願う室内装飾品だが,もとは鉄のつめをもつ武器だった。マルファン症候群の患者などに〈蜘蛛(くも)指〉という指の長い手を見るが,指を蜘蛛の長脚にたとえた名称である。巨人症などでは手も大きく,すでに松浦静山《甲子(かつし)夜話》には手首より中指先まで約29cmある身長7尺3寸(約2m20cm)の釈迦嶽(しやかがたけ)という力士の手形の話がある。…
※「マルファン症候群」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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