紀元前後に成立したインドの六派哲学の一派。サンスクリットでミーマーンサカMīmāṃsakaと呼ばれる。古く,ベーダ聖典の解釈学的研究は,一般に〈ミーマーンサー(考究)〉と呼ばれたが,なかでも,ベーダ聖典のうち祭式を規定した部分(祭事部)を考究する学問は祭事ミーマーンサーと呼ばれ,ときにベーダ聖典の知識部を考究するブラフマ・ミーマーンサーに対して〈前ミーマーンサー〉と呼ばれる。このブラフマ・ミーマーンサー(後ミーマーンサー)の伝統を継承したのがベーダーンタ学派で,前ミーマーンサーの伝統を継承したのがミーマーンサー学派であり,両学派は互いに補助しあいながら,正統バラモン教哲学学派の中核を形成した。
ミーマーンサー学派の開祖はジャイミニ(前200ころ-前100ころ)であるとされる。また,ジャイミニはこの学派の根本経典《ミーマーンサー・スートラ》(別名《ジャイミニ・スートラ》)の作者と伝えられているが,この経典が現存の形に編纂されたのは実際には後100年ころである。この経典によれば,この学派の目的は,人間がなすべき義務,つまりダルマ(法)の探求である。ダルマとは,ベーダ聖典が命ずるところのものであり,実際には祭式のことである。人はこの祭式をつつがなく執行することによって生天をはじめとする至福を獲得することができるのである。ところが,ベーダ聖典の記述には,矛盾した記述,むだな反復が多々見られる。そこでこの学派は,ベーダ聖典は絶対の真実であり,いかなる矛盾もむだな反復もないという前提のもとに,とくに祭式の記述の整合的な解釈を行うことを旨とした。例えば,ある一連の問題領域について,その解釈根拠を分類し,より有力,優先的な根拠の順を定めた。直接表示,慣用的意味,文章論的関係,前後の関係,位置,名称というのがそれである。さらに彼らは,ベーダ聖典は人間や神が作ったものではなく,無始以来の永遠の昔から実在したものであり,また語は単なる無常な音声ではなく,同一の意味を伝える常住のものであると考えた。この点で,ベーダ聖典は作られたものであり,しかも語は音声以外の何ものでもなく,したがって無常であるとするニヤーヤ学派バイシェーシカ学派と鋭く対立した。
《ミーマーンサー・スートラ》に対しては,6世紀ころにシャバラスバーミンが注釈(現存するものでは最古)を加えたが,さらにそれに対して,クマーリラ(650ころ-700ころ)が《シュローカ・バールッティカ》《タントラ・バールッティカ》《トゥプティーカー》を著し,プラバーカラが《ブリハティー》を著した。この両者の見解は多くの点で相違したため,以来,この学派は,クマーリラ派(バーッタ派)とプラバーカラ派(グル派)とに分かれた。
執筆者:宮元 啓一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
インド六派哲学の一つ。ベーダーンタ学派と姉妹関係にある。ベーダ聖典の権威とそれに規定されるダルマ(宗教的義務)すなわち祭祀(さいし)の実行を重視するという意味でもっとも正統的な学派。祭祀実行上の細部に関する諸説間の矛盾を、除去統一するための論議考究は古くから行われ、ミーマーンサー(考究)とよばれたが、その伝統のなかから祭祀実行の意義一般を中心に哲学的・解釈学的論議が積み重ねられ、体系化され、学派として成立したものである。開祖とされるジャイミニは、学派の根本経典である『ミーマーンサー・スートラ』の作者ともされる。この書に対して、シャバラスバーミン(550ころ)が『ミーマーンサー・スートラ注解』を著した。さらにそれに対して、クマーリラ(650―700ころ)とプラバーカラ(700ころ)がそれぞれ復注を書いて、バーッタ派、グル派の祖となった。
ミーマーンサー学派では、ことばは永遠であると考え、ことばからなるベーダ聖典も作者をもたぬ永遠の存在であると主張する。その過程で絶対神の存在を否定、神々は祭祀を完璧(かんぺき)に遂行するための道具立ての一つにすぎぬとした。また、祭祀の果報は、祭祀実行直後に祭主に新たに生ずる余力を介して将来かならず実現されると考え、その果報の享受者としてのアートマン(我)の存在を主張した。解脱(げだつ)のための実践としては、知行併合論(ちぎょうへいごうろん)的立場をとる。また、この学派で確立した聖典解釈上の諸原則は法典解釈の場などでも援用され、普遍的な価値を認められている。
[倉田治夫]
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…(4)バイシェーシカ学派 ニヤーヤ学派と密接な関係があり,実体,属性など六つの範疇を立てて現象界の構成を明らかにしようとし,原子論を説き,インドの自然哲学を代表する。(5)ミーマーンサー学派 ダルマ(法)の研究を目指し,ベーダの規定する祭礼・儀礼の実行の意義を哲学的に考究する。(6)ベーダーンタ学派 ミーマーンサー学派と密接な関係にあり,ウパニシャッドの主題ブラフマンの考究を目指し,宇宙の根本原理として純粋に精神的原理ブラフマンのみを想定する。…
…古代インドのミーマーンサー学派,ベーダーンタ学派,文法学派が主張した説。言葉は常住,ないし言葉と意味の結合関係は永遠不変であるとする。…
…観念論【茅野 良男】
[インド]
インドでは,古来,日常使われる言葉の対象(常識に考えられている世界の諸相)が実在するか否かについて,激しい論争がたたかわされてきた。実在すると主張する側の代表は,ニヤーヤ学派,バイシェーシカ学派,ミーマーンサー学派などである。それによれば,個物はもちろんのこと,普遍とか関係とかも実在することになる。…
…インド哲学,ミーマーンサー学派の学匠。700年ころの人で生没年不詳。…
※「ミーマーンサー学派」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
11/21 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新
10/29 小学館の図鑑NEO[新版]動物を追加
10/22 デジタル大辞泉を更新
10/22 デジタル大辞泉プラスを更新
10/1 共同通信ニュース用語解説を追加