ムージル(その他表記)Robert Musil

デジタル大辞泉 「ムージル」の意味・読み・例文・類語

ムージル(Robert Musil)

[1880~1942]オーストリア小説家。第一次大戦前後のオーストリアの世相を描いた未完大作特性のない男」は、20世紀文学を代表する作品一つに数えられる。ほかに、長編「若いテルレスの惑い」、短編三人の女」など。

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

精選版 日本国語大辞典 「ムージル」の意味・読み・例文・類語

ムージル

  1. ( Robert Musil ローベルト━ ) オーストリアの小説家。分析的でイロニーを含んだ精細な叙述で、人間の精神と行為の分裂、現実と非現実との二重性の世界を描く。代表作に未完の長編「特性のない男」。(一八八〇‐一九四二

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報 | 凡例

改訂新版 世界大百科事典 「ムージル」の意味・わかりやすい解説

ムージル
Robert Musil
生没年:1880-1942

オーストリアの作家。オーストリアのクラーゲンフルトに生まれた。父は機械工学の教授。陸軍高等実科学校に学び,ブリュン工科大学に入る。兵役を終え,予備少尉となる。1903年ベルリン大学へ行き,論理学と実験心理学を修め,エルンストマッハに関する論文で学位を得た。未完の大作《特性のない男》を残したムージルは,死後十数年を経てはじめて再評価され,世界文学に特異な位置を占めるに至ったが,上記のムージルの歩みはオーストリア・ハンガリー帝国の精神風土とともに彼の創作に深く影響する。作品に共通するのは,ある茫漠たる空間の中での精緻な心理分析である。処女作《若いテルレスの惑い》(1906)はオーストリアの上流の子弟をあずかる寄宿学校を舞台とした長編で,盗みを犯した同級生へのサディスティックな制裁の場面,それに立ち会うテルレスの戦慄が,彼の生への不安と懐疑とともに描かれる。このような心のゆらぐ状態の中で,彼は虚数をめぐって考えるうちに論理的世界のかなたに広がる領域を予感するのであった。テルレスが陥った内的空虚は,ムージルの描く他の主人公たちにも生じ,彼らは突然日常的現実を出て異様な体験をする。愛が共通の問題である。だが個々の光景の鮮烈さにもかかわらず,全体としては奇妙になにごとも起こらぬかのような雰囲気が小説にただようのである。そのような短編類をあげると,《愛の完成》と《おとなしいベロニカの誘惑》を収めた《和合》(1911),《グリージャ》《ポルトガルの女》《トンカ》の3編をまとめた《三人の女》(1924),《黒つぐみ》(1928)など,そして戯曲《夢想家たち》(1921)などである。長編《特性のない男》には,ムージルのすべてが投入されるが,完成を見ることはなかった。長い試作の段階を経て1930年に第1巻が,3年後に第2巻が発表された。第1次大戦直前のオーストリアの,その独特の空気の中で,時代の混乱した様相が鋭い皮肉をこめて描かれ,偽りの統一や観念によって事態に対処する者たちに対し,特性のない男ウルリヒ(軍人,技師,数学者の経歴をもつ)は厳密な思考と可能性への感覚をもって状況を認識し,状況に耐えつつ,全的な合一を求めて精神の冒険を続ける。ムージルは38年,ナチスのオーストリア併合後,夫人とスイスに亡命,ジュネーブで困窮のうちに客死したが,作品は死の日まで書き続けられた。
執筆者:

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ムージル」の意味・わかりやすい解説

ムージル
Musil, Robert

[生]1880.11.6. オーストリア,クラーゲンフルト
[没]1942.4.15. スイス,ジュネーブ
オーストリアの小説家。軍人の道から転進,大学で工学,のちに論理学,実験心理学を学びながら小説『士官候補生テルレスの惑い』Die Verwirrungen des Zöglings Törleß(1906)を発表,これが反響を呼び作家として立つことを決意。短編集『和合』Die Vereinigungen(1911),『三人の女』Drei Frauen(1924),戯曲『夢想家たち』Die Schwärmer(1920)などを発表するかたわら,長編小説『特性のない男』Der Mann ohne Eigenschaften(1930~43)を書いた。後年世界的に話題となったこのライフワークは,1938年のスイス亡命後も書き進められたが,作者の急病死により未完に終わった。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

百科事典マイペディア 「ムージル」の意味・わかりやすい解説

ムージル

オーストリアの作家。機械工学や心理学を学び,処女作《若いテルレスの惑い》(1906年)で注目され文筆生活に入る。短編集《三人の女》などの後,《特性のない男》(1930年―1952年)の制作にかかるが,1938年スイスに亡命,急病死し,この大作は未完に終わった。精神の冒険に生きる男ウルリヒを議論や対話で描き,《ユリシーズ》や《失われた時を求めて》にも比すべき20世紀文学の傑作。
→関連項目古井由吉

出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報

世界大百科事典(旧版)内のムージルの言及

【特性のない男】より

…オーストリアの作家R.ムージルの未完の長編小説。作者の死後十数年を経て再評価され,J.ジョイスやM.プルーストの小説に比すべき,20世紀の重要な作品とみなされる。…

※「ムージル」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

今日のキーワード

カイロス

宇宙事業会社スペースワンが開発した小型ロケット。固体燃料の3段式で、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が開発を進めるイプシロンSよりもさらに小さい。スペースワンは契約から打ち上げまでの期間で世界最短を...

カイロスの用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android