改訂新版 世界大百科事典 「モクズガニ」の意味・わかりやすい解説
モクズガニ
Eriocheir japonicus
十脚目イワガニ科の甲殻類。各地で食用にするカニで,カワガニ,ケガニ,ズガニ,モクゾウなどと呼ぶ地方も多い。しかし,ハイキュウチュウ(肺吸虫)の第2中間宿主になることがあるので,注意を要する。甲幅6cmほどで,甲の輪郭は丸みのある四角形。甲域は浅く分けられている。額は広く,前縁は波状に張り出している。甲の前側縁は深い切れ込みが二つと痕跡的な切れ込みが一つある。はさみ脚の腕節先端部,掌部,両指基部には長い軟毛が密生していて,これが藻くずをつけているように見えるのでこの名がある。歩脚の各節はやや扁平で,長節前縁の末端近くに1本のとげがある。
サハリン,北海道から台湾,沖縄までの日本各地,小笠原諸島,韓国南東部,香港にも分布する。内湾の磯や河口域に見られるが,海水の影響のまったくない中流域までさかのぼっている。雑食性で小動物や草,海藻を食べる。秋になって産卵のために多くのカニは川下りを始めるが,雨の日や夜間にもっとも著しい。河口域で1週間ほど体液の塩分濃度を調節するために石の下でじっとしている。その後潮間帯に移って,異性に出会うと交尾する。交尾終了後20時間くらいで雌は石の下や岩かげで第1回目の産卵をする。直径0.3mmほどの卵で,甲幅5.5cmの雌で約100万個に達する。2ヵ月半ほどでゾエア幼生が孵化(ふか)すると,5~6日後に第2回目,約50万個を産卵する。やはり2ヵ月半くらいで孵化するがなかには第3回目に10万個くらい産卵するものも見られる。その後,親ガニは再び川を上る。また海に下らず川で越冬した親ガニは4月中旬から5月上旬の雨の日か夜に川を下る。すなわち,約半年を周期として川と海を交互にすみ分けているが,個体群により川下りの時期が異なるため,全体としては海でも川でも一年中見ることができる。
近縁のチュウゴクモクズガニE.sinensisは外形的にモクズガニによく似ているが,額歯,前側縁歯とも鋭く,歩脚が細長い。またモクズガニでは前側歯が3歯,チュウゴクモクズガニでは4歯という違いがある。チュウゴクモクズガニは朝鮮半島西部と中国北部に分布するが,船により運ばれたものか,現在ではヨーロッパの河川でも広く見られる。
執筆者:武田 正倫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報