改訂新版 世界大百科事典 「モチノキ」の意味・わかりやすい解説
モチノキ
Ilex integra Thunb.
赤い実のなるモチノキ科の常緑小高木。樹皮から良質の鳥黐(とりもち)をとり,また樹形を整えて庭に植える。高さ15m,径50cmに達し,密に分枝する。幹の樹皮は灰白色で褐色を帯びる。葉は互生し,長楕円形で長さ4~8cm,革質で表面は深緑色を呈する。雌雄異株で,4月前年枝の葉腋(ようえき)に淡黄緑色の小さい花を束生し,各花は4枚の平開する花弁をもつ。おしべは4本。晩秋径1cmほどの球形の核果が赤く熟し,小鳥が好んで食べる。白い果肉の中心に4~8個の核があり,中の種子は果肉を除かないと発芽しない。宮城・山形県以南琉球列島までと朝鮮南部および中国舟山列島の暖帯に分布し,山間の適潤肥沃地に生える。春・夏に樹皮をはぎとって水につけて腐らせ,それを臼で搗(つ)いてゴム状の黐をとる。モチノキ属Ilex(英名holly)のほとんどの種にこの成分があるが,モチノキのものを本黐(ほんもち)といい,タラヨウ,イヌツゲの青黐(あおもち)から区別する。和歌山,三重,奈良3県が主産地である。小鳥や虫を捕るもちや,包帯液,絆創膏の添加物などに使われた。材は淡緑白色で堅く緻密均質で光沢があるので,ろくろ細工,櫛(くし),印材とする。剪定,栽培が容易なのでよく庭園のかなめの木として用いられるが,すす病にかかりやすい欠点があり,近年はすす病に強いクロガネモチI.rotunda Thunb.(中国名,鉄冬青)の方が喜ばれる。関東,北陸から台湾,中国,インドシナまでの沿海地に多い。
モチノキ属は約440種が世界の暖帯を中心に分布し,ホリーをはじめ庭園にも植えられるものが多い。日本には常緑,落葉合わせて約20種があるが,ヒメモチI.leucoclada Makinoは本州日本海側と北海道南西部の多雪地に生育する低木である。タラヨウI.latifolia Thunb.(中国名,波羅樹)は東海以西の日本と中国の暖帯に分布する高木である。その大きくて厚い葉の裏を釘先などで傷つけるとその部分がすぐ黒くなるので,インドで葉に経文を書いたというヤシ科の貝多羅樹(ばいたらじゆ)になぞらえて多羅葉と呼ばれる。
執筆者:濱谷 稔夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報