精選版 日本国語大辞典 「ヨセフ」の意味・読み・例文・類語
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翻訳|Joseph
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古代イスラエルの族長ヤコブの子,またエフライムとマナセの両部族の総称として北王国を代表する部族の名祖(なおや)。〈ヨセフ物語〉(《創世記》37~50)の主人公。物語によれば,ヨセフは父の年寄り子で偏愛され,また王者となる夢を語ったので,兄弟たちのねたみを買い,穴(井戸)に落とされる。結局奴隷商人の手に渡り,エジプトの高官の下僕となったが,主人の妻の性的誘惑を拒んで,かえってぬれぎぬを着せられて獄に入れられる。しかし彼の夢解きの才能が王(ファラオ)に認められて出世,エジプトの宰相となって国政に腕を振るう。飢饉のときにエジプトに穀物を買いに下った兄弟たちの誠意を一度試したのち,劇的に再会と和解を果たし,父と兄弟たちをエジプトに移住させた。この物語はアブラハムなどの族長物語と異なって,一貫した筋で展開されるかなり長い技巧的な作品であり,旧約聖書文学の傑作である。ヨセフはこの物語では父ヤコブとは対照的に,忠実で愛情と忍耐力に富み,神の導きを信ずる理想的人間像として描かれている。
執筆者:並木 浩一
〈ヨセフ物語〉の諸場面は,4世紀ごろから石棺浮彫やカタコンベの壁画などに見えはじめる。ビザンティン初期からは場面も多様になり,《マクシミアヌスの象牙製司教座》(6世紀)には〈井戸に落とされるヨセフ〉〈高官ポテパルに売られるヨセフ〉〈王(ファラオ)の夢〉〈ヤコブとの再会〉などの10画面の浮彫装飾が見られる。同じく6世紀の写本《ウィーン創世記》には36場面が描かれている。このヨセフ伝連作はビザンティンの写本画においてさらに発展した。近世以降の作品では,レンブラントの《ポテパルの妻に訴えられるヨセフ》(1655)などが知られる。
執筆者:浅野 和生
新約聖書中の人物で,マリアの夫,イエスの父。《マルコによる福音書》6章3節によるとイエス以外の息子ヤコブ,ヨセ,ユダ,シモンおよび何人かの娘があり,職業はおそらく木工専門の大工であった。《マタイによる福音書》と《ルカによる福音書》の〈幼時物語〉(それぞれ第2章)は相異なった仕方においてではあるが,ダビデの家系に属するベツレヘム出身のヨセフが,家族とともにガリラヤのナザレに居住したと伝える。イエスをメシア(キリスト)と信ずる原始キリスト教にとっては,ヨセフのこの家系が決定的に重要であった。
執筆者:大貫 隆
美術におけるヨセフの表現は,ルネサンスころを境として大きく二つのタイプに分けられる。中世には,白いひげをはやした老人の姿をとり,マリアの夫として〈聖母伝〉に,イエスの養父として〈幼時物語〉に,あくまでも脇役としてつつましく登場する。中世末期には,幼な子の産着を作ったり,粥(かゆ)を炊くなど庶民的でしばしば滑稽な役割を演じている。しかしルネサンス以降,幻視を体験したアビラのテレサが寄せた深い崇敬により,しだいに聖なる人物として,尊厳をもって表されるようになる。年齢も若く壮年の姿となり,礼拝用の単独像(幼な子イエスを抱く)も現れる。さらに聖母伝に倣って,〈ヨセフの死〉〈ヨセフの戴冠〉などの新しい主題も作られた。持物はユリ(純潔の象徴),大工道具(職業を示す),花の咲いた小枝(神によってマリアの夫に選ばれたことを示す)など。大工,指物師などの守護聖人。祝日は3月19日。
執筆者:荒木 成子
キリスト教の聖人。後1世紀に活動したと考えられるが生没年は不詳。新約聖書(《マタイによる福音書》27:57以下,《ルカによる福音書》23:50以下ほか)によれば,アリマタヤArimathea出身の善良な金持ちで,イエスの弟子またはひそかな信者であり,イエスの処刑後その死体をピラトから請い受け,亜麻布に包むなどして新しい墓に手厚く葬ったという。外典《ニコデモによる福音書》(別名《ピラト行伝》)では復活したイエスの最初の目撃者とされるなど,すでに4世紀ごろには伝説化された。12,13世紀以降は聖杯伝説やアーサー王伝説の中で重要な地位を与えられるようになり,前者との結びつきは,ロベール・ド・ボロン《聖杯の由来の物語》(1200以前)にその最も早い例がみられる。彼はまた,とくにイングランド南西部の古都グラストンベリーとは縁が深く,同地に〈聖杯〉とともにキリスト教をもたらした最初の人物とされる。聖書の記述に基づいて葬儀屋の守護聖人ともなり,祝日は3月17日。
執筆者:松宮 由洋
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…幼子イエスに最も近い親族。ヨセフ,マリアとイエスの3人(父,母,子)で構成される。《マタイによる福音書》2章13~23節では聖家族の〈エジプト逃避〉について,《ルカによる福音書》2章41~52節ではエジプトからの帰還後,ガリラヤ地方のナザレで,イエスが成人に達するまでを暮らした聖家族の様子について短く述べられている。…
※「ヨセフ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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