【Ⅰ】光学活性な物質の半分がその対掌体との1:1の混合物に変化し,旋光性を失う現象.ラセミ化は,熱や光などのエネルギーを与えることにより起こる場合と,酸またはアルカリの添加で起こる場合とがある.前者の場合は,キラルな状態よりはラセミ化状態にあるほうがよりエントロピー的に有利である結果,光学不活性になると説明される.後者の場合は,酒石酸や乳酸のように,H原子を有する不斉炭素原子にカルボニル基が隣接しているような化合物で,ラセミ化が起こりやすく,これは次のようにエノール化が原因と考えられる.
このとき,酸やアルカリはエノール化を促進する.一般に,SN2型反応のワルデン反転ではd→l(またはl→d)変化は起こるが,ラセミ化は起こらない.平面構造の中間体を経由するSN1型反応では,ラセミ化を伴う.【Ⅱ】錯体のラセミ化の代表的なものとして,八面体形トリスキレート錯体のΔとΛ形からのラセミ化反応がある.このラセミ化反応については,金属-配位原子の結合が切れて反応が起こるものと,金属-配位原子の結合を保持したまま反応が進行するものとが知られている.Δ-,またはΛ-[Ni(phen)3]2+のラセミ化反応は前者,[Fe(phen)3]2+ は後者の例である.これは,配位子交換反応速度定数とラセミ化反応速度定数を比較して決められており,ラセミ化反応速度定数が,配位子交換反応速度定数より十分速ければ後者となる.結合を保持したままラセミ化する機構として二つ提案されており,三回回転軸の回転により三角柱形構造を経由するベイラー(三方)ねじれ機構と,擬三回回転軸の回転により起こるレイ-ダット(斜方)ねじれ機構がある(図参照).
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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