翻訳|ruthenium
周期表第Ⅷ族に属する白金族元素の一つ。1828年ロシアのオサンG.W.Osannがウラル地方の白金鉱中から新元素を発見したとして,ロシアの古い地域名Rutheniaにちなんで命名された。しかしこれは後になってやはりロシアのクラウスKarl Karlovich Klaus(1796-1864)により不純な酸化物であることが確かめられ,イリドスミンから純粋金属が単離された。地殻中の存在量は少なく,イリドスミン(オスミウムとイリジウムの合金で天然に産する)中に数%含まれている。
銀白色のもろくて硬い金属。粉末になりやすく,粉末は灰黒色。六方晶系あるいは立方晶系。空気中で熱すると表面が酸化されて黒色となる。酸素中で粉末を熱するとRuO2となるが,一部はRuO4となり揮発する。フッ素とは約300℃で反応してフッ化物[RuF5]4となり,塩素とは約400℃で反応してRuCl3となる。耐薬品性が強く,酸素が存在しなければすべての酸および王水に不溶。酸素を含む塩酸には室温でゆっくり熱するとかなり早く溶ける。過剰の酸化剤,たとえば塩素酸カリウムの存在で塩酸あるいは硝酸と加熱するとRuO4を発生する。また酸素または酸化剤の存在で水酸化カリウムと融解すると緑色のルテニウム酸カリウムK2RuO4となる。粉末ルテニウムは次亜塩素酸ナトリウム溶液に室温でもゆっくりと溶けてRuO4を発生する。
イリドスミンからの分離は,酸化すると揮発性の高いRuO4となることを利用している。現在では,ニッケルや銅の硫化鉱物からとり出された粗ニッケル,粗銅などの電解精錬に際して得られる陽極泥が白金族元素を含むことから,これを主原料とすることが多い。これを熱王水で処理すると白金,パラジウムはクロロ錯体となって溶け,ルテニウムはロジウム,オスミウム,イリジウムとともに残る。これに酸化剤を加えてアルカリ融解するとルテニウムはルテニウム酸塩,オスミウムはオスミウム酸塩となって水溶性となる。これによって他と分離し,水溶液をアルコールで還元するとルテニウムのみがRuO2・nH2Oとなって沈殿するので分離できる。これを(NH4)3[RuCl6]とし,水素気流中で還元すると粉末ルテニウムが得られる。
他の白金族元素,とくに白金やパラジウムの硬化剤として用いられる。粉末あるいはコロイドは各種の触媒として用いられる。
なお,熱するときRuO4を生成することがあるが,これは毒性が強いので注意する必要がある。
執筆者:中原 勝儼
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
Ru.原子番号44の元素.電子配置[Kr]4d75s1の周期表8族貴金属または白金族元素.原子量101.07(2).質量数96(5.54(14)%),98(1.87(3)%),99(12.76(14)%),100(12.60(7)%),101(17.06(2)%),102(31.55(14)%),104(18.62(27)%)の7種の安定同位体と,質量数87~120の放射性同位体が知られている.1828年,ロシアのG. Osannが白金鉱物中に白金以外に3種類の新金属元素を発見したとして,そのうちの一つをロシアのラテン名Rutheniaにちなんで命名したが,1848年にロシアのK.K. Klausが単離に成功し,あとの二つは誤りであることを見いだした.
ほかの白金族元素とともに合金として存在する.化合物としてはラウラ鉱RuS2,輝イリドスミン鉱(Ir,Ru,Rh,Pt)AsSなど.地殻中の存在度の低い白金族元素中でも存在度が低い.白金族元素の埋蔵量約90% を占める南アフリカの主要鉱脈のRu含有率が高いので最大のRu資源国は南アフリカである.白金族の溶媒抽出法による分離後,酸化して揮発性のRuO4の形で蒸留,還元して金属を得る.銀白色の金属で,硬く,もろい.六方最密構造.融点2310 ℃,沸点3900 ℃.密度12.37 g cm-3(20 ℃).硬さ6.5.第一イオン化エネルギー7.37 eV.酸化数-2,0~8.通常は2,3.空気中で熱すると700 ℃ 以上で黒色の酸化物RuO2となる.酸素が存在しないと王水にも不溶.水素を吸蔵する.四酸化ルテニウムRuⅧ O4は,融点25.4 ℃,沸点40 ℃ の黄金色の揮発性固体.強力な酸化剤で,発火の危険性がある.フッ化物はRuⅢ F3からRuⅥ F6まで,RuⅤ F5は四量体 (RuⅤF5)4 で黄~暗褐色固体.酸化数2,3でNを配位原子とする配位子と [Ru(NH3)6]2+,[Ru(NH3)6]3+,[Ru(NO)(NH3)5]3+,混合原子価の [(NH3)3RuCl3Ru(NH3)3]2+ など,多様な錯イオンをつくる.酸化数-2,0,1は [Ru-Ⅱ(CO)4]2-,[Ru0 (CO)5],[RuⅠ(CO)Cl3]2- など.
野依良治(2001年ノーベル化学賞を受賞)が開発した有機リン化合物とルテニウムの錯体触媒は光学活性化合物の合成(不斉合成)に使われる.1995年に発表されたルテニウムのベンジリデン錯体(Grubbs触媒)は,水,酸素,アルコール,硫黄化合物の存在下でもはたらくすぐれたオレフィンメタセシス触媒である.燃料電池用触媒(正極)に白金ルテニウム合金が広く使用されている.日本IBMが2001年に開発した,ハードディスクに極薄のルテニウム層をはさんで,熱ゆらぎを抑える技術は容量をいちじるしく増大させたが,さらに次の世代のこれも日本(東北大学-日立)で開発された垂直磁気記録方式に引き継がれ,Ruの需要は急増し2006年には世界の需要40 t の約70% を占めるに至った.[CAS 7440-18-8]
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
周期表第8族に属し、白金族元素の一つ。1828年にロシアの化学者オサンG. W. Osannはウラル山系産の白金鉱中に新元素を発見したとし、小ロシアの古い国名Rutheniaにちなんでルテニウムと命名した。この物質は新元素を含んではいたが、非常に不純な酸化物であった。のち1844年にロシアのクラウスKarl Karlovich Kláus(1796―1864)によって、イリドスミン(イリジウムとオスミウムの天然合金。白金鉱中に存在)から金属単体として単離された。白金族中もっとも希産で、地球上の存在量は少ない。通常イリドスミンなどの中に他の白金族元素と共存している。粗ニッケルや粗鋼を電解精錬する際の陽極泥を熱王水その他で化学処理し、水和酸化物RuO2・nH2Oとして他の白金族元素から分離する。さらに揮発性の四酸化物RuO4を経てヘキサクロロルテニウム(Ⅲ)酸アンモニウム(NH4)3[RuCl6]に変える。水素気流中で熱還元すると粉末状の金属ルテニウムが得られる。
[鳥居泰男]
灰白色のもろくて硬い金属。物理的および化学的性質は周期表で直下にあるオスミウムに似ている。この元素の化学的特徴の一つは酸素に対し比較的弱いことである。空気中で熱すると表面に黒色の二酸化ルテニウムRuO2を生ずる。粉末状のものを酸素気流中で熱すれば完全に二酸化ルテニウムに変わる。酸に対しては安定であるが、王水、または空気を含む塩酸には徐々に溶ける。また酸素あるいは酸化剤が共存すればアルカリによって激しく侵される。たとえば、水酸化カリウムと硝酸カリウムの混合物で融解すれば、緑色のルテニウム(Ⅵ)酸カリウムK2RuO4を与える。塩素と熱すると反応して塩化ルテニウムRuCl3を生ずるが、硫黄(いおう)とは直接反応しない。パラジウムと同様に多量の気体、たとえば水素、窒素などを吸蔵する性質がある。
用途はほとんど白金族元素との合金の成分に限られる。たとえば、白金の硬さを増すためにイリジウムと同様に用いられる。これらの合金はもとの純金属より精細な宝石装飾の製作に適している。このほか、粉末状あるいは海綿状の純金属は酸化還元触媒として優れた性能を示す。
[鳥居泰男]
ルテニウム
元素記号 Ru
原子番号 44
原子量 101.07±3
融点 2310℃
沸点 3900℃
比重 12.304(測定温度19℃)
結晶系 六方
元素存在度 宇宙 1.6(第47位)
(Si106個当りの原子数)
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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